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宝宝の『私たち(えんげき)の現在地』①今、立ち上げる俳優たち編

佃:それでは、始めていきたいと思います。進行は佃が担当します。よろしくお願いします。今回バオバオの…

竹内 :あの、バオバオってイントネーションわからないですね。

佃:終わりじゃん。

石原: Google翻訳にきいてみましょうか。中国語ですよね。

Google翻訳: バオ↑バオ♪

長井: 却下で(笑)。みなさんの言いやすいように呼んでください。

企画概要

現在、劇場主催や劇団主催ではなく、俳優個人が主体となって公演を企画する個人ユニットが増加傾向にあり、そこには環境的・時代的な理由がある、はず。と考えた宝宝のクリエイションメンバーによる鼎談企画です。まだ大きな形で取り上げられることのない現代演劇の創作環境の分析や周知、創作においての困難さや問題へのアプローチを試みます。

①今、立ち上げる俳優たち編

個人ユニットを立ち上げて活動している俳優の方から、活動の経緯やビジョンをヒアリングします。お話を通じ、俳優主体の小規模なクリエイションの実態、そして俳優たちが抱く時勢への共通認識や期待感や危機感、課題などを明らかにし、現在とこれからの小劇場演劇の創作環境を小さな目から考察します。

なんと2万字弱、あります。ごゆっくりお楽しみください。

②長い目で見てどうなの?編は、後日更新予定です。


参加者(敬称略)

参加者のみんな

■長井健一(宝宝)記事トップ写真左から3番目。

■佃直哉(かまどキッチン)…本鼎談の司会進行を担当。

■藤田恭輔(かるがも団地)

■瀧口さくら…本記事の執筆を担当。

ゲスト

■石原朋香 写真左から2番目。
1996年東京都生まれ、北海道育ち。
東京藝術大学 大学院美術研究科 先端芸術表現専攻 修了。

主な出演作に、ロロ『BGM』(作・演出:三浦直之)、青年団リンクやしゃご『ののじにさすってごらん』、『てくてくと』(いずれも作・演出:伊藤毅)、theater apartment complex libido:『libido: 板倉鼎/須美子』(演出:岩澤哲野)、かまどキッチン『燦燦SUN讃讃讃讃』(作・演出:児玉健吾)他。

また、自身でも、演劇とダンスの間の表現を探究しつつ作品制作を行っている。DANCE×Scrum!!!2020(あうるすぽっと)にてソロパフォーマンス『ガラスの音、まくの中、消えては浮かぶキャンパー』を上演。

また、演劇ワークショップの講師、舞台やアートプロジェクトの宣伝美術もつとめるなど、領域を横断して活動中。

■竹内蓮(劇団スポーツ/ロチュス) 写真左から4番目。
1996年生まれ新潟県出身。
大学から俳優活動を始め、卒業と同時に劇団スポーツに加入。以後、演劇を中心に活動。

2020年9月に作・演出・出演をした一人芝居『モノクロチュス』を中野RAFTにて上演。大人計画所属、 宮崎吐夢が選ぶ『2020年に劇場で観られて良かった演劇ベスト10』に選出される。

近年の主な舞台出演作品に、全劇団スポーツ作品出演(2018年以降)、いいへんじ『器』こまばアゴラ劇場、東京芸術祭野外劇『嵐が丘』グローバルリングシアター、マチルダアパルトマン『サブマリン』北千住BUoY、いわきアリオス演劇部U30『わが星』いわきアリオス中劇場、他。

■はぎわら水雨子(食む派) 写真左から1番目。
1993年生まれ。
武蔵野美術大学 基礎デザイン学科在学中に舞台活動を始める。

近年は俳優として様々な舞台に出演する傍ら、舞台専門の宣伝美術家としても活動。

2022年に個人演劇ユニット『食む派』を旗揚げ。 全作品の脚本・演出を担当。生活や暮らしの身近なモチーフを、コミック的不条理表現を用いて描き出す作風を特徴としている。

APOC ひとり芝居フェスティバル「APOFES2021」オーディエンス賞受賞、佐藤佐吉演劇祭2022 優秀脚本賞受賞、若手演出家コンクール2022 優秀賞次点選出、佐藤佐吉演劇祭2023 最優秀宣伝美術賞受賞。


(輪になったテーブルを一同で囲んでいる。左から、はぎわらさん、石原さん、長井さん、竹内さん、藤田さん、佃さん。筆者撮影
(輪になったテーブルを一同で囲んでいる。左から、はぎわらさん、石原さん、長井さん、竹内さん、藤田さん、佃さん。筆者撮影)


自己紹介

長井: こんにちは、長井です。27歳です。俳優をやっています。東京に生まれて東京で育って東京に住んでいます。武蔵野美術大学(以下ムサビ)の超近くに住んでたこともありました。

今回は一人で演劇をやってみようと思ってユニットを立ち上げました。演劇赤ちゃんなので、バオバオ、バブバブみたいな。甘えていいからこの名前にしてるんじゃないですけど。あと、ワークショップ(以下WS)を昨年初めてやって、今回も続けていきたいなと思ってます。

藤田: 今日はニコニコしてるだけです。普段はかるがも団地という団体を細々とやっています。最近は6年ぶりとかで俳優をやりましたが、俳優のみなさんとはちょっと違う視点から、楽しく聞かせていただこうかと思います。

佃: かまどキッチンという団体で、共同主催等をしています。書類関係の仕事をすることが多く、企画協力として、助成金に関して書類チェックしたり、企画立ち上げの相談相手になったりしています。

瀧口: 今回は制作協力として、助成金関連の書類のお手伝いなど制作面のお手伝いをしています。普段は、俳優や稽古場のハラスメント対策などをしています。今回の記事は私が書きます。


ゲスト

はぎわら: 食む派というユニットを主宰しています。宇都宮出身、ムサビの基礎デザイン学科卒です。デザイナーになりたくて上京しました。

予備校時代のデザインの恩師に映画をいっぱい観ろって言われて、そこからミュージカル映画がすごく好きになりました。その中で、『ロッキー・ホラー・ショー』を観て、衝撃を受けて、大学入ったらこういうミュージカルやりたい!と思ったんです。で、いざムサビに入学したら、「ミュージカル団体設立募集」のチラシを見つけて、これは運命!と。そこで舞台に初めて立ちました。

でも、デザイナーになりたくなくなったわけではなく。いまは宣伝美術の仕事もやらせていただいてます。自分の団体のフライヤーも全部自分で作っています。基本は色鉛筆と水彩だけでやってます。セリアで買ったやつとかで。

一同: へ~~。

はぎわら: 元々はイラストを自分で書くつもりはなかったけど、予算とかなくて、まあ自分でやるかと思ってやったら意外とできました(笑)。昔は漫画家とか小説家とかも夢で、今でもやりたいことがいっぱいあって、それを全部できるから演劇を続けているのかなという気持ちです。

石原: 長井と同い年、27歳です。俳優です。

高校の演劇部で演劇を始めて、こまばアゴラ劇場で地区大会をやっていました。なんだかんだその界隈とのつながりがあって、今に至る感じです。大学は東京藝術大学の先端芸術表現科っていうところにいました。他の美大の学科でいうと映像と芸術学と空間デザインとかがくっついたイメージ。大学では年に1個は作品を作らなきゃいけない環境だったので、それを繰り返して、大学院まで行きました。

現在も、劇団名は持ってないですが、作品を作っています。近年は、学校現場でWSのファシリテーションをやったり。「円盤に乗る場」※1っていう稽古場があるんですけど、そこに入ってメンバーと共同制作をしていたり。

※1…「円盤に乗る場」は演劇プロジェクト・円盤に乗る派が中心となって2021年に東京・尾久エリアに開設した、小さなアトリエ(公式noteより引用)。

デザインもやっていて、仕事はそっち系です。最近は、足立区の社会福祉協議会にデザイナーとして呼ばれ、冊子作成と合わせて演劇もやることになりまして、「こもごも団」という団体を作りました(「みんなってコレクティブ?」にて後述)。最近は福祉的な領域に興味がありますね。

長井: 必要な人がちゃんといるデザインを作ってらっしゃるのすごいですね。…仕事量すごくないですか。

石原: 最近はキャパシティーが一杯かもです(笑)。

佃: 石原さんは、自分の団体であることなどにはこだわらず、いろんなクリエイションの現場に役割を持っているイメージがありますね。

竹内: ずっと教師になりたくて、大学では教育学部にいました。大学生のとき演劇始めたらはまっちゃって、就活もせずに今に至る感じです。

劇団スポーツで、俳優とプリセット確認担当です。ロチュスは主宰してます。でもぼく、何もしてないんです(笑)。ロチュスも、出演して人集めただけで。皆さんすごいなあと思いました。僕は毎回その場その場のモチベーションでやってるので、団体の色とか志とかを考えているわけではないです。ただ、団体があると活動しやすいなと思って、ロチュスを立ち上げたんだと思います。

佃: 竹内さんは、劇団スポーツに所属したまま他のユニットを立ち上げてますよね。その観点からお話を伺えたらと思います。

ソロユニット立ち上げのきっかけ

佃: まずは、はぎわらさんにお伺いします。食む派でソロユニットという形を選択されている理由はなんですか?

はぎわら: 実状的な理由が大きいです。

始めは、一旦一人で立ち上げて、迷惑を最小限にする形で一人芝居をやりました。APOCの一人芝居フェスティバル※2ですね。そこでお客さんからのリアクションを見よう、と。結果、面白いと思ってもらえそうだな、とわかって、ユニットを立ち上げることにしたんです。

※2…東京都世田谷区にあるAPOCシアターという劇場が主催する、一人芝居のショーケース。毎年開催されている。

そしたらちょうどコロナ禍に入っちゃって、どうしようかな…30分くらいのショーケースで、参加費無料のやつないかな…と悩んでいたところに、王子小劇場の見本市※3が流れてきて。あ、キタ、と。これしかないと思いました。

※3…東京都北区にある王子小劇場という劇場が主催する、結成間もない団体向けのショーケース。食む派は『パヘ』を上演。

食む派『パヘ』フライヤー

一人でやってる理由としては、大学の友人たちとか、私の周りの演劇やっていた人はみんなやめちゃってるのは大きいです。一人でやるのも好きだけど、人と関わるのも好き。だから、今の形でやってますね。ただ、食む派に佃さんのような制作まわりを専属で付き合ってくれる人がいてくれたらな~とは、思いますね。一連托生、みたいな。

佃: 私の知る範囲では2000年代後半に顕著でしたが、元気な作演出のソロユニットがその後劇団化していく流れがありました。それは、公演規模が大きくなっていくに連れて、サポートが必要になって、劇団になっていったんだと思うんです。今のはぎわらさんみたいな。

はぎわら: そうかもしれないです。2023年の『冷やし中華いななき』って公演では、俳優が5人だったんです。少人数ではあるけど食む派では最大で、私は結構大変でした。理由としては、私、HSP※4が強めなんですよ。人と関わるのが大好きなんだけど、その場の全員の気持ちが全部入ってきちゃって疲れちゃうんですね。関わる人が多ければ多いほど疲れちゃう。制御できなくなり過ぎちゃう。

※4…HSPとは、生まれつき「非常に感受性が強く敏感な気質もった人」という意味で、「Highly Sensitive Person(ハイリー・センシティブ・パーソン)」と呼び頭文字をとって「HSP(エイチ・エス・ピー」と呼ばれている(マドレクリニックHPより引用)。

食む派『冷やし中華いななき』フライヤー

あとは、演出助手を付けてなかったんですが、通し稽古やったときに人手が足りなくなっちゃって。そういう意味で自分以外の誰かにいてほしいなとは思いました。

石原: あの、ムサビのミュージカル団体ってなんて団体ですか?

はぎわら: CAMPです。

石原: 私、観たことあるかも…

はぎわら: え~~~!!!嬉しい!『エンジェル』って作品に出てました。

石原: ミュージカル団体って他にないですよね。

はぎわら: そうですね。

石原: 知り合いに誘われて行ったんですが、多分観てますね…!

(両手を口に当て驚くはぎわらさんと、右手を口に当て思い出す石原さん。筆者撮影)
(驚くはぎわらさんと石原さん。筆者撮影)


石原: 大学のサークルって大人数が基本だから、卒業して自分が立ち上げるってなったら、大人数を捌けないって思いますよね。

長井: はぎわらさんは、ご自身の大きさみたいなことを考えてらっしゃいますよね。お客さんが呼べないから客演いっぱい呼ぼう、みたいな興行もいっぱいあると思うんですよ。でもはぎわらさんはそうじゃなくて、ご自身のクリエイションに必要な方にお声をかけている印象があって。

はぎわら: 私は、初対面の人しかご一緒してないんです。舞台を観て、呼びたいって思った人にしかお声掛けしてなくて。メールして、お願いして、ご快諾いただいて…って感じです。オファー文は全部、めちゃくちゃ熱意込めて書いてます。

初対面の人と話すのに抵抗がないので、そっちの方が気が楽で。フラットに喋れるから。お友達は基本呼ばないようにしています。仕事っていう線引きを絶対したいので。お友達を呼ぶときは、この人と仕事として関われそうかを判断してますね。

長井: 私は今回、関係値がある人にしかお願いしてないんです。だから、そういうチームの組み方もあるっていうのは新発見です。

はぎわら: それでいうと、スタッフさんは固定して同じ人が良いですね。照明の黒猿の中村さんとかは、旗揚げからずっと一緒ですね。制作の猫のホテルの大橋さんとかも。お仕事がやりやすくて、今後もぜひって感じで。最初が初対面からってのは同じですが。

佃: 大きな劇団でも、スタッフは固定のイメージありますね。

竹内: 劇団スポーツもそうですね。もういつもの人が空いてないとてんやわんやです(笑)。

佃: 竹内さんのロチュスを立ち上げた経緯や、創作メンバーへのオファーの理由などをお聞かせください。

竹内: さっき、その場のモチベーションで動いてるって言っちゃったんですけど…。元々、僕が演劇をやってる理由は3つの目標にあって、

・多部未華子さんと共演すること
・新潟の公共劇場りゅーとぴあで上演すること
・出身地の学生と演劇を作ること

なんです。この目標を達成するにはどうしたら?って思ったのが、ロチュス旗揚げの理由ですね。自分のキャリアのためでもあり、自分で作品を作りたい気持ちもあり。

で、先日の『成人(仮)』※5を経て、人とやるのってめっちゃむずいなって思いました。人に頼ろうと思って始めたんですけどね。でも「もうやりたくない」とは思わず、次はもっとミニマルにやろうって、ポジティブに考えてます。

※5…2024年2月から3月にかけて行われた、ロチュス第一回公演。2本の演劇と1本の映画、短編3作品からなる上演。竹内さんは脚本や演出ではなく、出演者として3作全てに参加。

ロチュス『成人(仮)』フライヤー

3年前にやった第0回公演は、自分で書いて出演もして、演出も僕ではあったんですが実質やってなくて(笑)。ひっちゃかめっちゃかやってたら小屋入りしてから足くじいて熱出して。信じられないくらい痛くて、でもやるしかなくて。怪我からの熱で公演中止するかどうかを、2020年9月だったから色々協議して…大変でしたね。

佃: 一人だと、ケガとかしたら代わりがいなくて大変ですよね。

藤田: かるがも団地だったら、僕が倒れても他二人が何とかしてくれますから。

竹内: そこは劇団との違いですね。自分が稽古場に行かないと始まらないなあ、とか考えますね。

佃: 『成人(仮)』では、どのようにご一緒する方を決めたのでしょうか?

竹内: 僕は、自分の知らないことを教えてくれる人とか、これまでの経験の中で、この人と一緒にやりたい!っていう尊敬してるというか、信用を置いてる人を呼びました。

で、実際一緒にやったら、やっぱり自分の創造のはるか上の世界を見せられて。いい経験ではあったんですけど、当初の自分のイメージとはちょっとずれて。でも、それは人とやるうえでは当たり前だし、いいことなんだなとわかった。それを知れてよかったなと思ってます。一人じゃ絶対できなかったことができた手ごたえがありました。

自身の作品に自身が出演すること

長井: 『成人(仮)』ってオムニバス的な公演だったよね。竹内さん、3作全部に出てたんでしょ?すごくない?タスク多いよね。

竹内: まあ。でも、それは主宰の責任かなって。出たかったのももちろんあるけど、テーマ的に“多面性”っていうのがあったから、それを担保したかったのかな。

僕が今、演劇の上演構造のことあんまり信頼してなくて。絶対嘘(フィクション)だけど、そこに生身の人間がいる。客席で観てて、この人は上演終わったら家に帰るんだな、とか思っちゃう。俳優の居かたとかに興味があるんです。『成人(仮)』では、竹内が本人として出てるわけではないから、3作で3役を一人が演じているっていう仕組みが、人の多面性を見せるためには、いいのかなって。逆に、自分で書きたいものもあって、それには自分で出なくてもいいかなとも思います。

佃: はぎわらさんは食む派だと、作・演出・宣伝美術をご担当ですよね。出演はしないのでしょうか?

はぎわら: 今のところはそうですね。1回やろうと思ったんですが、演出が出る意味のない役どころだな、と思って他の人に依頼しました。

長井: 自分がやりたいって思わないんですね。

はぎわら: そうですね、でたがりではあるんですけど、食む派ではディレクションに重きを置いてるので。

長井: 石原さんは、自分の作品に自分が出るのってどう考えてます?

石原: 自分で作品を作るとき、自分が出るときはそこに必然性が生まれるように作るようにしています。

竹内: それわかります。

石原: 元々、大学で課題として制作をしていたので、自分が主体的にかかわらないといけなくて。プラス、自分のバックグラウンドを乗せた方が作りやすいって思ったんです。

高校の部活で演劇やってたとき脚本書いてみたこともあったんですが、私、脚本書けないって思ったんです。他の人が書いたものや古典戯曲を演出するとか、ムーブメントを考えたり、現代の自分に照らし合わせたり、っていう方が面白いっていう感覚がありました。で、さあ大学で自分の作品を作りなさいってなって、自分の言葉でって、無理じゃね?って。

そんなとき、ハイバイの『夫婦』※6を観て、こんなに自分の話していいの?!って衝撃を受けました。しかも、観ていて全然嫌じゃない。それまで、自分の話を人にするのが良いことだと思ってなかったんです。ウザいと思われる、くらいに思ってました。

※6…2016年に行われた公演。ハイバイ主宰の岩井秀人の父の死を扱ったドキュメンタリーテイストな作品(東京芸術劇場HPより引用)。

というのも、自分の家庭環境がちょっと変わっていて。中学卒業まで、母が東京で単身赴任、父と自分が北海道に住んでいました。それって、あるあるじゃないからめっちゃ説明しないといけなくて。あと、子供の頃大けがをしたこともあって、人から見てわかることではないけど自分的にはハンディキャップに感じてることってあると思うんです。でも子供の頃ってこういう話すると「自慢してる」とか、「困ってるアピールしてる」とか言われたりして、そういうのが、嫌だなって思ってました。

で、大学で課題やるときにふと、これは私作品にできるって思ったんです。個人としての実感を、俳優として表現することだったらできるって思って、創作を始めました。最初の作品は、小学校のとき交通事故にあって1か月くらい車いす生活だった経験から作りました。リハビリの経験とか、ちょっとずつ身体が動くようになる実感とかを、パフォーマンスに落とし込みました。

長井: 自分の体験とかルーツをベースにしてるんですね。竹内さんのロチュスも、第0回公演はそうですかね。はぎわらさんはどうですか?

はぎわら: 私の場合は、実体験というよりは、私が思う人生の捉え方の体現、という感じですかね。人が生きてる中で思うこととか。持ってる呪いとか、それを抱えて生きていくこととか。

それこそ、宝宝の企画書でいいと思ったのが、佃さんの『「踏みこんで⼝にできる⾃⼰とそうでないパートナー」とのままならない関係』っていう文章。これ本当にそうだな、と。いつも他人との関わりを意識している。他者は他者だけど、深いところに踏み込む瞬間があるし、そこが美しくて。でも最後は、一人で生きていく。希望を持って孤独であることをずっと書いてきてるんです。実体験じゃなくても、そういう、自分の考えはありますよね。

『ウインナ売り』も、私がずっと抱えてる呪いが関わってるというか…。私、1番を取りたいと思うと2番しか取れなくて、どうでもいいなと思ってると1番取れるんです。そういう話の作品なんですけど。

食む派『ウインナ売り』フライヤー

石原: わかるかも。力んじゃうんですよね。

竹内: うわ~~そうですよね。

藤田: 欲が出るとね…。

竹内: 今回よかっただろって手ごたえのあるオーディションは落ちてて、うわ絶対落ちた…て思ったオーディション受かってるみたいな。

一同: わかる~~~。

長井: え、これがのろい?!

一同: (笑)。

盛り上がる一同。筆者撮影
(盛り上がる一同。筆者撮影)

自分自身の話をする怖さってある

佃: 石原さんは自身の経験を出発点にしているとのことでしたが…。はぎわらさんの場合は経験則からの「呪い」、竹内さんは「自己と社会の距離の取り方」みたいなところを題材にされているのかな、と思うんです。やはりソロユニットとなると、どうしても創作内容と自己の距離は近なるものなんですかね?

石原: そうですね。客演のときは作品に身をゆだねていく感じですけど、自分が作るときには自分の全部をずっしり持っていく、みたいな使い分けはありますね。

他の人に頼むときも、その人に頼む理由を持つようにしています。創作の過程で出てきたその人の実話を盛り込んだりして、そのメンバーでしか作れないものを作るイメージは持っています。

長井: 石原さんの活動を観ると、赤裸々というか、はだかんぼうなイメージを受けます。自分の話をすることに対して持ってた悪いイメージのお話ありましたけど、私はすごく堂々とご自身の作品を作られてると感じていたからびっくりしました。怖くないですか?

石原: 怖いですよ。でも、作品にするっていう言い訳があるから、自分の話をできるというか。それがないと内にこもってしまうなあという気がします。

竹内:わかる(深々)。

長井: 私も、すごく怖くて。今回、自分のジェンダーアイデンティティを明かしてるように思われる作品になるんですけど、でも作中の人物は私とは全然違って。それは全然良いんです。属性でくくったときに、当事者がやる意義を必要としているので。でも…怖さと向き合うのって、どうケアしたらいいんですかね。

石原: その怖さってどこから来るんでしょうね…。

私が修了制作を作ったときの話なんですが。私の気質として、集団でいるときに優等生になってしまうんです。「みんな落ち着いて!!」みたいな(笑)。

佃: 本当に中間管理職が似合うんだよね。

石原: 佃さんは私が中間管理職やってるとニコニコしてる(笑)。これってウザいって言われちゃうポジションなのに、小学校1年生から大学院まで、どうして毎年毎年同じことをやってしまうんだろうって考えたんです。で、思い至ったのが、私は学校にいづらいと思っていたのに、わざわざ優等生の役割を担うことで、自分を学校から引きはがせないようにしていたのではないかって。

なので、過去の作品を再構成して、自分とか人の話を差し込んでいって学校に関する作品を作りました。アイデンティティとはちょっと違うかもしれませんが。で、最後のシーンは、私が「さようなら~!」って言ってるときに他の出演者の3人に身体を持ち上げてもらって退場するっていう風にしたくて。

長井: え~、成仏しました?

石原: した!

一同: おお~!

石原: 審査会で先生たちが目の前にずらっと並んでて、一人ひとり目を見て「さようなら~!」ってシーンをやったら成仏した。

竹内: ずっと共感してます…。

長井: 作品つくるってこういうことですよね。

石原: それでいいのかなって。自分の名前で自分の作品を作るってなったら、自分が納得して前に進むために、“作品を作る”という行為を借りてきても全然いいなって。

作品創作の目的––呪いを解いたり共生したり


佃: はぎわらさんの言葉を借りると、呪いを解くっていう行為に近いですよね。

はぎわら: それ思っていました。私の場合は、呪いとどう共生するかっていうことというか。呪いって根深いから、ほとんどは死ぬまでなくせないけど、人と関わることで捉え方が変わることってある。それが人と関わる醍醐味だと思っていて、そういうことを考える作品になっているかなと。

竹内: 僕にとっては、呪いを解くのと、共生って一緒なんじゃないかなって思うんです。結局経験はなくならないけど、でも、それの捉え方を変えることはできる。

石原: 自分が持ってる問題に向き合うための方法でもあるなって。言語化するというか。

長井: 私は観た人に呪いをかけたくて。今回の『おい!サイコーに愛なんだが涙』はいい話になるんですけど…。

竹内/はぎわら: それもわかる。

笑みを浮かべる石原さん、笑いながら話す長井さん、聞いている竹内さん。筆者撮影
(筆者撮影)


長井: 闇のパワーを振りまきたいとかでは全然ないんですけど(笑)。私はこうやって呪われてるんだよ!お前のせいなんだよ!って言いたくなる。

石原: 自分の抱えてることに共感できる人を見つけたいんですかね?

長井: 見つけたい!でも今回は、愛の話なので、私の呪いを解いてほしくて書いてもらっているなって思って。でも自分で出てきた言葉で構成しちゃったら、めっちゃ呪いになっちゃうっていうか。

石原: 相対化する視点って大事で。他者の目を通してとか、昔の自分を今の自分が見るとか。だから宝宝の企画で、長井君が自分の話をして、脚本家の藤田さんを通して出力してもらって、それを戻して自分に落とし込むのも、すごく意味があると思います。

長井: そう!今回の脚本を座組以外の人にも読んでもらいたくて、お友達に読んでもらったことがあるんですけど。嬉しかったのが、「藤田さんと長井さんが一緒にやってる意味がすごいある」って言ってもらって。それがすごい嬉しかったしよかったなって思ってます。

藤田: 確かに、この企画じゃなければやらないことをやってるなって実感はありますね。

演劇をとりまく創作環境について

佃: 近年、もろもろの値上がりや、スタッフへのギャランティの基準が明確になったこと(もちろん良いことではあるが、実際費用がよりかかるようになった)などがあり、物理的に劇場公演を上演することが難しくなっていると我々は感じています。

そして、劇団運営も困難な現状があるのではないかと。そんな中で、俳優個人がユニットを立ち上げるケースが増えている流れがあると思うのですが、みなさんはこういった環境の変化について、どのように考えているかお伺いしていきたいです。

実際、劇団運営についてのトークイベントが最近相次いでるんですよね。

トークイベント「演劇の現在地」

トークイベント「今、劇団をつづけること」

長井: みんな劇団運営の話したいんじゃんね~。

佃: あと、2023年『悲劇喜劇』という冊子の中には、こういう文章も掲載されていて。引用します。

劇団制の解体、制作人員の流動化といった事態を前にして、近年では流動性をあらかじめ前提したコレクティヴという集まり方のモデルがしきりに採用されてきた。しかし、この流動性という言葉の意味が個人主義や自己責任の単なる裏返しにすぎず、新自由主義への素朴な迎合にとどまる のであれば、集まりは拠って立つ場への批評的な認識や積極的な介入には至らず、その行き着くところはせいぜい現状維持がいいところだろう。

コレクティヴの可能性を追求していく上では、集団内の関係性のありよう、集団創作の方法を模索するのみならず、集団とその基底である場との関係を問うていくことが重要である。そのためには例えば、ひとつの場に固着せず、集まりを動的にひらいていく態度が求められるだろう。

あるいは、集まりの内外でジャンルや分野、あるいは制作集団をまたいだ交流を活発に行うことで、成員それぞれが拠って立つ位置の差異を示し、集まりの土台がけっして一枚岩ではなく、むしろ種々の力学が拮抗する複雑な場としてあるのだと、絶えず捉え返していくことだ。

植村朔也 2024 コレクティブからフェスティバルへ 「条件の演劇祭」が問う上演の条件とは、『悲劇喜劇』2024年3月号 46–47頁。


長井:
わかんないわかんない~。

瀧口: コレクティブってなんですか?

佃: コレクティブっていうのは、創作における集団の形の一つで、主宰の下のピラミッドではなく、個の集まりであることを意識した形のことと捉えてもらえると。で、それが自己責任の集合になってしまったら、大きな何かを作るというよりも現状維持くらいしかできないよねっていう話をしてます。

演劇だと特に、演出家のような責任と決定権を持っている人がいないと、成立しないのではという視点ですね。でも演出家って負う責任がすごく大きいから、それを負える人間がいないのではないか…?という。

みんなってコレクティブ?

長井: ちな、石原さんはコレクティブ?

石原: コレクティブ、ではない!でもそうしたいと思っている。団体名を冠して、団体にしたいとは思っています。劇団かコレクティブかというと、どうなんだろう…。

長井: わかんないよね!

石原: すごい難しい!あくまでも自分の作品をやるためのプラットフォームにはしたくて。…あ、ちらっと話した「こもごも団」はコレクティブかもしれないです。

佃: というと?

石原: 足立区の社会福祉協議会の中に、地域包括支援センターっていうのがいっぱいあるんです。お年寄りが困ったことがあったとき、その人と助ける機関を繋ぐ場所というか。例えば「最近足が悪くなったんですよ」って人がいらっしゃったら、「じゃあ区で貸し出してる車いすがあるのでどうぞ」とか、「買い物自分で行けなくなって大変でしょうから、こういう宅配のサービスありますよ」みたいに、人とサービスを繋ぐ。

そこに、高齢者の方が元気なうちから繋がっておくのが大事らしくて。信頼関係を築いておかないと、いざサポートしようにも意思表示もされないうちに終わってしまうから。あとはご近所さんとちゃんとかかわりを持つことも、地域の互助のために大切なんです。

そのための、ふれあいサロンっていうのがあるんですね。週に1回体操とか、なにかしら活動する集まりなんですけど、足立区は最近そのサロンを頑張っていて、私はPRのためにデザインを頼まれました。プラス、何かしらやってくれないかっていう頼まれ方だったので、この企画のために立ち上げたユニットが、「こもごも団」。悲喜こもごものこもごもです。

結局やったこととしては、サロンに参加してる人のところに取材に行って、『サロンめぐりの旅』っていう冊子を作ったんです。

『サロンめぐりの旅』表紙

長井: え~これ作ったの~?上手!

はぎわら: かわいい~!

石原: 中身は、体操やっている人のファッションスナップとか。劇団うめはるっていうアマチュア劇団があるんですけど、寸劇をやっているんです。センターの職員さんが脚本を書いてて、頑張って当て書きしたりしてて。

一同: ええ~~!!すごい~。

竹内: その劇団うめはるの公演はどこで観られるんですか?

石原: あのYouTubeで…

長井: YouTubeで見れるの!

石原:『認知症でいいとも』って調べたら出てきます。みんな台本覚えるの大変だから、流れは覚えてるけどアドリブで。だから2分のシーンが8分くらいになっちゃったりして(笑)。観てる人も「長いわね、今日ね」って。

一同: (笑)。

のけぞって笑うはぎわらさん、説明する石原さん、質問する竹内さん、興味津々長井さん。筆者撮影
(石原さんのスマホで冊子などを見ている。筆者撮影)

石原: こういうのを、1年間取材したんです。そのとき、普段いない若者が行くと喜んでくれたり、職員さんに対して言えていないことを話してくれたりして。冊子は、あくまで魅力を紹介してPRすることが目的だから、ネガティブなことを載せられなかったけど、むしろそういうお悩みがサロンにとっては大事だったんじゃないかって思うんです。

で、冊子を出すのにあわせて、演劇を作ることにしたんです。『こもごも団のラジオ演劇こもラジ!』 っていうんですけど。サロン活動のお悩みを架空の住民たちが送ってきて、それをラジオで紹介して、私たちが再現VTRみたいに芝居して。「こんなことってありますか?」って客席にきくんです。お客さんには「あるある」って書いてあるうちわをお渡ししていて、その質問にうちわを上げて答えてもらう、っていう。

『こもごも団のラジオ演劇こもラジ!』フライヤー

長井: すごい面白い!

石原: メンバーは、私の大学の友達で。映像撮れる人、デザイナーの人、演劇人、アートマネージャー※7の人。これはけっこうコレクティブ感あるなと。ただ、これは区からの依頼でやり始めたので、自発的にやろうと思っても難しいと感じています。続けていきたい気持ちはあって、今度は若者の福祉についてやってみたいなとも思う。でもみんなそれぞれステディな仕事があるから、またいつ集まれるのかはわからない。こもごも団を継続できる人が私しかいないなら、新しい団体にして、旗揚げをしないといけないんじゃないかって。

※7…美術・音楽を活用したアートプロジェクトにおける「制作」のような役割。

佃: コレクティブっていついなくなっても構わないことになっちゃいますよね。しかも、都度違うメンバーが集まるってことは、関係性を構築しなおさないといけなくて、場の継続が難しい。しかも、結局中心人物がいろいろ負わなくてはならなくなるから、安易に選べる選択肢ではないですよね…。

はぎわら: 私は、チーム夜営※8っていうコレクティブを経たうえで今に至るんですけど。そこは団体の主宰がいなかったので、それによる苦労を間近で見ていました。だから、私は自分が主宰として責任を持とうと思っていましたね。

※8…ムサビの卒業生が発足した団体。昼間は美術、映像、グラフィックデザイン、イラストレーションなどの分野で活動するメンバーが、夜な夜なここに戻ってきて、公演を打てるように作られた陣営で、チームです(公式HPより引用)。

石原:役割がないことの軽やかさもありますけどね。

はぎわら: 誰が責任を負う?ってなったときに、どうしようもなくなっちゃうんですよね。

長井: どうしたら責任を取りやすくなるんですか?ない?

はぎわら: 緊急事態のときのフローを作っておくってことは大事かと思います。昔は団体って、エイッて思えばなにも整えてなくても作れちゃう時期だったから、そういうのがなかったけど。

一同: あ~。

長井: …私、コレクティブ?

藤田: コレクティブというか、長井くん主宰の団体だと思ってる。言い方あれだけど、我々は雇われというか。

瀧口: 宝宝の人って、長井さんしかいないですしね。

長井: そうだよね。今回、ガイドラインとか作って考えてるつもりだけど、でもなんかあったときのことはそこまで考えきれていなかったかも…。

はぎわら: 最近は、俳優の中でも座長を決めましょうって流れがあるんですよ。例えば舞台経験の少ない若い人が困ったとき、相談する人がいないと結局気付いた人同士の自助状態になって疲弊してしまう。でもなんかあったときの相談先としての座長を決めておくと、それを防ぎやすいって聞きました。

長井: なるほど~。俳優のパワーバランスの話でいくと、その劇団の公演にこれまで参加したことがある人がキャスティングされたときに、集団の中で「経験者」の役割を担わなくてはならなくなるときってあると思うんです。「あ、私はそういう立場でキャスティングされたんだ…」って後出しされるみたいな。なんかそれは、オファーのときからわかりたいよね。という気持ちもあります。

石原: ありますね…。劇団の色がわかってる人が正解みたいになっちゃうとか。なじむまでルール探る、みたいなムーブはありました。

長井: 「うちはこうなんで」みたいな雰囲気嫌ですよね。

名前がないセクションをコレクティブでどうするか

瀧口: あの、私の意見としては、そういうのを防ぐためにも稽古場に第三者が必要だと思っているんです。主宰とか演出の人ってお話のように責任を負っていて、タスクも多くて、大変じゃないですか。そんなときに、もう一つの脳みそがあればいいのかな、と。演出助手の方の仕事はどちらかというと手足だとして、確実に必要ですよね。脳みその方は、全体に共有する前にラフに話を聞いてくれたりとか、ちょっと作品について考えたりしてくれる人のイメージと言いますか。

で、その人は座組の知り合いじゃない人のほうがよくて、なぜならパワーを持っていないから。俳優でも、きっとそういう人に相談したいことがあると思うんですよね。

長井: わかる。風通しのための稽古場開放とかもやっているけど…それとはちょっと違うよね。

瀧口: そうですね…。意味がないことはないですが、稽古場開放だといらっしゃる方がお客さん過ぎる気がしますね。第三者と言えど、ある程度事情は分かっていた方がよいので。

石原: たまにおうちに人が来たら掃除するのが稽古場開放で、抜き打ちでお母さん来て「どうなの?野菜食べてる?」って冷蔵庫の中足して帰るみたいなのが第三者ですかね(笑)。

一同: ああ~~(納得)。

長井: そういう人ってどうやって探したらいいの?

瀧口: 名前がないんですよね、まだ。名乗る側も探す側もわかっていない。近しいことをやっているのがドラマトゥルクとかになっているのが現状というか…。ぜひ私、やりたいんですけど…。

はぎわら: そう!私もそういう人が必要だって感じていて。今後はメンタルサポートってセクションでお呼びしたいなと思っています。稽古場にいてくれたらすごく安心できるなって。

佃: 今までの創作現場にいなかった人が必要とされているのかな、と思いました。きっとそういう人って普通の企業やスポーツ選手には、もうすでにいるんですよね…。加えて、本来は権力が細分化されていて、ハラスメントとかを防ぐ構造になっている。でも小劇場は人員もなく色々役割を兼ねていることが多すぎたりとかで、しんどいのかなとは思いますね。でもその新しいセクションに割く予算があるかというとそうではない。

瀧口: そう!そうなんですよね…。

はぎわら:継続して稽古場にいてもらうとなると、しっかりしたギャランティは必要になりますよね。最近私は、あ、メンタルに限らずサポートとかケアって本当にお金がかかるんだってわかってきましたね…。必要なんですけど。

石原: そういうのって結局、経験者というか、内部の人にしかわからない問題だから、助成金とか事務局の方に認知してもらうにはどうしたらいいのかな…。

瀧口: 今は文化庁の助成金があったりしますし、今年の秋からフリーランス新法が始まったりもするので、必要とされている流れではあるんです。

長井: 少人数でやるって大変なんだ!

瀧口: 怪我したら代わりがいないみたいなリスクは常に抱えていますよね。

個人枠の助成金額が足りないんだが涙

長井: スタートアップ個人だと上限30万って足りないです…。

石原: 団体だと100万まで出るのに、個人だと30万上限なのなんでよとは思いますね。

長井: 演劇公演には十分な金額ではないと思うんです。演劇にかかるコストがうまく伝わってない感じがしますね。

長井さんの話を聞いているはぎわらさん、石原さん、竹内さん。筆者撮影
(筆者撮影)

石原: 私、ずっとやりたい企画があって、予算を計算したら個人の持ち出しではできない金額で。民間の助成金を探してるけどうまくいっていなくて。そうなると、作品を助成金サイズに縮小するしかないのかな…と。

長井: しかも、助成金って入ってくるまで時間かかるから、結局まずは自分で出さなきゃいけなくて、採択していただいても大変で。どうしたらいいんですかね、スモールステップ踏むしかないんですかね。でも先々創作を繰り返していけるかとか、今考えられないですよ…正直。

石原: 今やりたいのに!

長井: 今から、2歩先3歩先まで考えないといけないんだなと思いました。

佃: 公演を作る側が作品を事業的に捉えるってなると、助成出す側も、赤字が出る企画に助成はしなくなるだろうと思います。それは企業としては当たり前で、わからなくはない。けど、アーツカウンシル東京(以下アーツ)の助成の方針とは矛盾しますよね。

個人的に思っているのは、アーツが助成したい企画募集に対して、作る側がそれに合わせた建前と、ホントにやりたいことっていう膜を通してコミュニケーションをしているから、うまく行ってない感じはしますね。

ただ、スタートアップ助成っていう個人ユニットが申請しやすい助成金があるから生まれた作品もある。この枠組みのおかげで。個人ユニット増加の流れが加速しているかな、と。

長井: 今後も宝宝をやるなら、ちょっとずつ人が増えていってもいいなという想定もあります。赤ちゃんの年齢がふえて行くのと一緒で。赤ちゃんのままではいられないのでね~。そしたら団体継続申請に切り替えて、やっていけるかも。

Q.助成金なしに継続できないものって始める価値ある?

佃: 皆さん、アーツがある前提でお話しされていると思うんですが…。僕が他劇団の制作の方とこのテーマでお話ししたときに、「スタートアップ経由で個人のユニットが増えていること自体はあまりポジティブに捉えてはいない」と聞いたんです。

結局、アーツは持続性・継続性を前提として募集しているんだけど、応募する側はとりあえずやってみることを目的にしているから、個人ユニットは今後も助成金をもらうことが前提になり過ぎている面はある、と。確かに、もしここで助成金がなくなったら、個人ユニットはどれだけ活動を継続できるのだろうか、とは思ったんです。

石原: もらわないでできたら一番理想なんだけど…。

佃: なんだけど、ですよね。だから、現状それを成立させるための要素って、資本がある/お金のあるお客さんを呼ぶ/お金をかけないの3つだと思うんです。

はぎわら: 私は3つ目ですね。お金かけてないんです。自分の手元のお金でなんとかなる規模の範囲でしかやってなくて。参加費不要、スタッフもパッケージされてるようなショーケースへの参加がほとんどなので…。

石原: 上手!

長井: そうじゃん!私も参加したい。

竹内: できるよ。

長井: ほんとに~。

竹内: うん。やればできるよ。

長井: え、そういうの増えてほしいですよね。

佃:実際、ショーケースの企画が助成金をとってる事例もあります。ただそこで上演団体が公募されているわけではない、公募することで生まれるリスクもあると思うので…。

長井: 「円盤に乗る場」みたいに場所をシェアしているとか、そういう連帯はいいですよね。

石原: 「乗る場」の活動に「NEO表現サテライト」っていうのがあります。3年間の環境整備関連の助成金をドカッととっていて、稽古場の維持費に充てたり、乗る場に参加しているアーティストの自主企画に少額の補助金を出したりっていう取り組みですね。

佃: すごく有意義ですね。ただ、それも3年間の助成があって初めて成立していることではありますよね…。なくなったら、どうするか。

石原: その話は内部でも結構していますね。


A.演劇をやる人が増えればいいんじゃない?

瀧口: 演劇とお金の話を考え始めると、やっぱり「稼げる演劇じゃないと継続はできないのか」っていう問いに戻ってきてしまいますよね…。でも、今、演劇を観たい人ってそんなにいないんじゃないか、って思ってるんです。で、逆に、やりたい人はたくさんいる。創作の原点が自分自身の呪いにあるっていう話にもある通り。つまり、狭いターゲットを、みんなで取り合うことになっているんじゃないか、と思うんです。

長井: そうなんです!だから、私はやる人が増えればいいと思ってるんです。だから今回の企画では公演内容に関連したWSを実施して、やると観るを行き来できるような感じにできたらなって思ってるんです。「え、さっき長井がやってたやつ私もやってみようかな~」って思ってくれないかな、とか、理想ですけど。

私、WSに大金払わせることとか、参加してくれた人の俳優としての技術を磨くことって加害性があると思っていますし、そういうのに興味がないんです。できるとも思っていないですし。ただ、楽しい経験があれば、演劇もっとやりましょうって思ってくれないかな、とか。

あとは、稽古とかって“今”やっていることに集中できるのもいいと思うんです。人間って、すごく先のことかすごく昔のことでしか悩まないらしいんですよ。本当かどうかはわからないけど、私は結構信じてるんです。“今”観ている、“今”やっている。すごい先とかすごい過去のことを考えている人が、現在に戻るためにもいいんじゃないかなって。

そういう感じで、やることって、観ることよりも価値を持っているんじゃないかと思います。それは私たちが一番知ってるんだから。宣伝的に、観て~!と同時に、やって~!ってアピールしていきたいな。みたいな。

竹内: 演劇を観たい人が少ないってのは僕もすごく思っていて。僕、地方で滞在制作をやったことがあるんですけど、演劇をやると見せ物感がとにかく強かったんです。観客の在り方が東京と全然違いました。地方では、演劇って機会が貴重なんだ、イベントの価値がまるで違うんだって感じたんです。僕は若いころに地方で演劇を観る機会が多いほうがいいっていう想いがめちゃくちゃあるので、地方ともっと繋がれたらいいな、とは思っています。

長井: 前、演劇のカンパニーを運営している方に今回の企画がWSと抱き合わせなんだって説明したら、地方公演みたいだねって言われたことがあるんですよ。どうやら地方の劇団さんはそうらしくて。だから、東京でも演劇と体験とが繋がる企画が増えたらいいと思いますね。

ただ、東京でやるとすでに演劇をやっている人がいらっしゃることが多くて。当たり前ではあるしありがたいんですが、どうしたら未経験の方にアプローチできるのかな…。

石原: 公共の施設と繋がるってのは一つ実現可能性があると思います。今までの経験で、地方に行くと、劇団は意味があるものでないと存在できないのかなって思うことがあって。道楽だと思われたらやっていけないところがある気がします。だから、作品を地方に持っていくと、参加者が何か学ぶものがないとって基準で見られることになります。実際に、公共施設が地域に向けて開かれた企画とかをやっているのに行くと、俳優やりたい人以外の方もかなり多い。

長井: そういうのって、私は一番面白いと思う。

石原: あとは、私が参加している『わたし(のある日)を交換する』っていう企画があって。本屋さんの方と企画していて、全国の本屋さんでやるのを目標に活動してるんですけど、日記を書いてきてもらってそれをシーンに立ち上げるっていう内容なんです。本屋さんでやると、本屋さんの常連さんがいらっしゃるんですよ。演劇をやりたい人より、文章を読みたい人とか書きたい人が来るというか。

『わたし(のある日)を交換する』フライヤー

竹内: 出向くってのがいいのかもですね

石原: 演劇以外の場所と繋がるのがいいというか。

竹内: 舞台と客席、みたいに区別されていないところっていうのも関係あるかもしれませんね。演劇の型が関係ない感じ。

長井: そういう出向く取り組みがもっと評価されてほしいって思いますね。そういうチャレンジングな企画が、演劇玄人からも素人からも、面白がられてほしい。

石原: こういうのも“普通”になればいいですよね。

せーの、ZIP!のポーズ。左から、はぎわらさん、石原さん、長井さん、竹内さん。筆者撮影
(せーの、ZIP!左から、はぎわらさん、石原さん、長井さん、竹内さん。筆者撮影)


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今回の鼎談では、俳優として活動しながらユニットを主宰している方々にご参加いただきました。みなさんとのお話を通じ、作品創作の目的の共通点や、コレクティブの継続の難しさを発見。まさに、今ここからユニットを立ち上げるために足元を確認できた会となりました!

ここまでお読みくださった皆様、ありがとうございます。

最後に、ご参加いただいた石原さん、竹内さんの出演する今週末の公演と、宝宝の公演情報をご紹介いたします。ぜひ、読むから観るへ繋げていただけますと幸いです。

みんなで食べたお菓子たち。通りもん、めんべい、クッキーなどなど。筆者撮影
みんなで食べたお菓子たち。筆者撮影


直近公演情報まとめ


石原さん出演:朗読劇『libido: 板倉鼎/須美子』

本公演は、パリから松戸の家族に書き送られたふたりの手紙を松戸市教育委員会が編集・刊行した『板倉鼎・須美子書簡集』をtheater apartment complex libido: が翻案したオリジナル作品です。
短くも濃密なふたりの生涯に、朗読劇をとおしてふれていただく機会となるでしょう。

公式HPより

千葉市美術館にて
5月17日(金)~19日(日)
詳細はこちらから。

竹内さん出演:劇団スポーツ #10『略式:ハワイ』

チラシ表
チラシ裏

「ぼくらのハワイはどこいった?」

劇団スポーツ2年ぶりの本公演は戻れない過去を丸ごと一からやり直す《青春記憶改竄コメディ》

公式HPより

下北沢OFF・OFFシアターにて
5月15日(水)~19日(日)
詳細はこちらから。

宝宝(1かいめ)『おい!サイコーに愛なんだが涙』

チラシ表
チラシ裏

品川区中延1LDK。
美大に通う「ぼく」と地下芸人の「彼」は、一つ屋根の下で暮らしている。

彼は自分のことを簡単に言葉にできる。
ネタライブで観客に向かって話したり、
先輩芸人とのトークでツカミにすらしている。
「おれ男好きなんすよ!」って。
(それぼくとのことやないかい)

ぼくはそんなこと言えない。誰にも。
自分のことを、窓の外の世界では口ごもるし、はぐらかす。
この部屋の中で、彼への気持ちも悩みもひっそりこそこそと育んでいる。
大麻でもないのに。

この恋、ちっとも甘酸っぱくないんだが?むしろ辛酸なんだが!?
それでもこれは、世界の中心で愛を叫ぶ、コメディのつもりなんだが。

クリエーションメンバー

脚本・出演:長井健一
脚本・演出:藤田恭輔(かるがも団地)

企画協力:佃直哉(かまどキッチン)
宣伝美術デザイン:古戸森陽乃(かるがも団地)

宣伝美術撮影:藤田恭輔(かるがも団地)
当日運営:す〜す〜(すわろす)
制作協力:瀧口さくら
記録撮影:中嶋千歩

会場
インストールの途中だビル 4階インストジオ(東京都品川区戶越6丁目 23−21)
中延駅から徒歩1分
(東急大井町線、都営浅草線)

日程
2024年5月30日-6月2日
全7ステージ

タイムテーブル
5.30木 19:15
5.31金 ⭐️12ws/16:00/19:15
6.1土 12:00/⭐️16:00ws/19:15
6.2日 12:00/16:00

※上演時間60分(予定)
※開場時間は開演の30分前を予定しています
※各回開演3時間前までご予約受付可能

⭐️は『おい!サイコーに愛なんだが涙』のテキストを用いたワークショップを行います(120分程度を予定)※受付終了

チケット料金
全席自由席・現金当日清算のみ
一般 2,500 円 | ペア 4,500 円

チケット発売日 2024/4/2
チケット取扱:カルテットオンライン

ATTENTION
・車椅子でのご観劇をご希望の方はお手数ですが一度メールでお問い合わせください
・聴覚に障害がある方に観劇サポートとして上演台本の貸し出しを行ないます。事前にメールでご予約ください。
・ご不安な点やご不明な点がある方は下記のメールアドレスから公式のXのDMにご連絡ください。

お問い合わせ
baobao.akachan@gmail.com
XアカウントDM:@baobao_akachan
協力
かるがも団地 かまどキッチン すわろす インストールの途中だビル 

主催 長井健一

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