~感染症をかるめに紹介・特別編~『mRNAワクチンってどうして効くの?』
ファイザーなどが手がける「コロナウイルスワクチン」の一つとして有名な「mRNAワクチン」。
今回は、このワクチンがどのようにしてヒトの体内で効果を発揮するのか、解説していくよ~☆
≪RNAとは?≫
「RNA」はまたの名を「リボ核酸」といって、みんながよく知っている「DNA(デオキシリボ核酸)」とは全く異なる性質を持った物質なんだ。
DNAは2本のひもが合わさった二重らせん構造であるのに対して、RNAは1本のひもからなる一本鎖の構造となっているんだよ。
また、DNAは安定しているため遺伝情報の保存に利用される一方で、RNAは不安定なため遺伝情報の伝達などに利用されるんだ。
RNAには様々な種類があって、そのうちワクチンに利用されるのは「mRNA」というRNAなんだよ。
≪細胞小器官≫
mRNAのはたらきを解説する前に、細胞の中にある器官「細胞小器官」についておさらいしておこう☆
ヒトの細胞は「細胞膜」という脂質やタンパク質などでできた膜に覆われていて、細胞の「核」にある染色体(DNAでできている)には遺伝情報が保存されているんだよ。
核の周りには「粗面小胞体」という器官があって、その表面にある「リボソーム」ではタンパク質の合成が行われるんだ。
また、「ゴルジ体」では、合成されたタンパク質の加工や濃縮などが行われるんだよ。
≪タンパク質の合成≫
さて、そもそも遺伝情報はどのようにして発現しているんだろう?
核内の染色体はDNAからできていて、遺伝情報が発現するときにはDNAの遺伝情報の一部がmRNAにコピーされるんだよ(この過程を「転写」という)。
mRNAは核からリボソームへ移動し、リボソームではmRNAの遺伝情報に応じて、「tRNA」というRNAがアミノ酸を持ってくるんだ(この過程を「翻訳」という)。
翻訳の過程でアミノ酸が繋げられていき、最終的にタンパク質が合成されるんだよ。
DNAには様々なタンパク質がコードされているけれど、常に全ての遺伝情報が発現しているわけではないんだ。
遺伝情報は様々な条件によって発現し、状況に応じて必要な種類のタンパク質だけがつくられているんだよ。
≪セントラルドグマ≫
遺伝情報の発現は原則として「DNA→RNA→タンパク質」の順に進み、逆に進むことはないんだ。
この法則は「セントラルドグマ」といって、生物学においた最も重要な概念の一つであるとされるんだよ。
例外として、「逆転写酵素」という酵素は「DNA←RNA」の順に反応を起こすことができるけれど、逆転写酵素は限られたウイルスが持つのみなんだ。
また、DNAを核に移行させるためにはさらに別の酵素が必要となるため、コロナウイルスワクチンによりmRNAを核のDNAに組み込むことは不可能といえるんだよ。
≪SARS-CoV-2の増殖≫
次に、SARS-CoV-2がどのように増殖するかを、かんたんに解説しておくね☆
SARS-CoV-2の表面にはトゲ状の抗原(スパイク)があって、この抗原が細胞の表面にある「ACE-2」というタンパク質と結合するんだよ。
ACE-2と結合したウイルスは細胞内に取り込まれ、ウイルスの殻は細胞の中で破れるんだ。
ウイルスの殻から出てきたRNAはmRNAに変換されると、リボソームで翻訳され、ウイルスのタンパク質が合成されるんだよ。
合成されたタンパク質は、複製されたRNAとともにゴルジ体で組み立てられた後、細胞の外へ脱出するんだ。
SARS-CoV-2の感染に必要なACE-2は肺・小腸・舌などの細胞に多く存在していて、SARS-CoV-2は感染によって肺炎や味覚障害などを引き起こしやすいんだよ。
SARS-CoV-2のRNAには様々なタンパク質がコードされていて、このうち抗原をコードする部分だけがワクチンに使用されるんだ。
COVID-19の症状を引き起こすための遺伝情報は使用されないため、ワクチンに使用されるmRNAがCOVID-19の症状を引き起こすことはないんだよ。
また、ワクチンに使用されるmRNAは、専用の方法によって合成されるんだ。
ウイルスから取り出したmRNAを使用するわけではないから、間違えないよう注意しておこうね。
≪mRNAワクチンのしくみ≫
さあ、ここからはついに、mRNAワクチンのしくみについて解説するよ☆
ワクチンに使用されるmRNAは「+」の電気を帯びた脂質の膜に包まれていて、「-」の電気を帯びた細胞膜と結合するんだよ。
mRNAは細胞の中に取り込まれると、リボソームで翻訳され、核の遺伝情報に直接影響することはないんだ。
翻訳によって合成されたタンパク質はさらに折り畳まれ、SARS-CoV-2の抗原となるんだよ。
抗原は細胞の外へ分泌され、抗原の情報は「マクロファージ」や「樹状細胞」などといった免疫細胞に受け取られるんだ。
また、抗原の一部はゴルジ体で加工されて細胞の表面に提示され、「キラーT細胞」という免疫細胞に受け取られるんだよ。
マクロファージや樹状細胞などの免疫細胞はさらに細胞の表面に抗原を提示し、抗原の情報は「ヘルパーT細胞」という免疫細胞に受け取られるんだ。
抗原の情報を受け取ったヘルパーT細胞は活性化され、さらに様々な免疫細胞を活性化するんだよ。
抗体をつくる免疫細胞である「B細胞」は、ヘルパーT細胞によって活性化され、一部が抗原の情報を記憶する「メモリーB細胞」に変化するんだ。
また、一部のキラーT細胞も、抗原の情報を記憶する「メモリーT細胞」に変化するんだよ。
SARS-CoV-2に感染すると、抗原を発見したメモリーB細胞は、B細胞とともに抗体を産生するんだ。
抗体はSARS-CoV-2の抗原に結合して、抗原とACE-2が結合できないようにするため、SARS-CoV-2は細胞に侵入できなくなるんだよ。
また、SARS-CoV-2の抗原を発見したメモリーT細胞は、キラーT細胞とともに感染細胞を破壊して、ウイルスの増殖を抑制するんだ。
このように、ワクチンによって一度免疫を獲得すると、実際にウイルスに感染した際に迅速に対応できるようになるんだよ。
≪RNAは脆い≫
RNAの遺伝情報は「A」・「U」・「G」・「C」の4種類の「塩基」という物質の配列(並び方)により決まっていて、非常に不安定で体内ではすぐに排除されてしまいやすいんだ。
そこで、ワクチンのmRNAには、「m1Ψ(N1-メチルシュードウリジン)」という塩基が用いられるんだよ。
mRNAの「U」の一部をこの「m1Ψ」と入れ替えることで、RNAは安定し、翻訳されやすくなるんだ。
「m1Ψ」を組み込んだmRNAは安定しているけれど、翻訳された後は分解されるため、体内に残り続けることはないんだよ。
≪おわりに≫
どうだったかな?このmRNAワクチンは今までのワクチンとは一味違ったもので、COVID-19以外にも様々な感染症の予防で活躍できる可能性が秘められているんだ。
新たな技術のためか様々なデマも散見されるけれど、自分の身を守るためにも、ワクチンについて正しい知識を持っておこうね☆
参考:http://nats.kenkyuukai.jp/images/sys/information/20190717095649-6ABC2FA50410294C82EBEF7D74463510333BCF1FB717B3F864612BCB0CA9F6B2.pdf