奈良の鹿達が賢すぎた話
私は福岡出身なので、小学校の修学旅行は長崎だったし中学校の修学旅行は京都だった。高校はカナダだったから国内ですらない。
大学になってから京都に住み始めて毎年どこかの県に旅行に行くようにしていたが、この歳まで奈良県に行くという選択肢が全く無かったのだ。
理由は簡単。「近いから」
京都に住んでいると大阪、神戸、和歌山等観光地が多すぎて行く所に困らない。
それに若い頃とは違ってお金も余裕が出来てきたので、遠くに行く事も多くなった。
そんな中、選択肢に奈良県が入ってくる事が無かったのだ。
でも、今回行く事になった理由はただひとつ。
奈良の鹿に会ってみたい。
鹿達には失礼な話ではあるが、奈良県に行くまで本物の鹿は動物園の鹿か、田舎で車に轢かれた鹿しか見た事がなかった。
私は鹿に触れると聞いて急に奈良の鹿に興味が湧いた。
野生動物に触れる機会なんて人生そう多くない。
鹿に触れる事が出来るなら行ってみよう。ついでに大仏とか法隆寺も見ようというわけで興味本位で奈良旅行に向かった。
奈良駅まで京都から電車で40分くらい。
すぐ着いた。
奈良駅を降りて少し歩けば大仏があるらしい。
私は大仏そっちのけで鹿に期待を寄せながら歩き出した。
歩き始めて3分くらいで異変に気づいた。
く、臭い……!
動物園の草食動物のコーナーの臭いがする!
これは草食動物のフンの臭いだ!
鹿が近い‼️
そう思って足を早めた時にはもう視界いっぱいの鹿達で溢れかえってた。
こ、こんなに多いのか!
多すぎるっ!
第一印象はそれしか無かった。
でも、よく見てみると鹿達は一定の場所に群がっている。
そう、鹿せんべい売り場だ。
奈良の鹿はこの鹿せんべいが大好きだと聞いていたが、ここまで群がっているとは思わなかった。
当然鹿と触れ合いたい私は鹿せんべいを買うために鞄から財布を出したのだが、そこで鹿の頭の良さに驚いた。
なんと、財布を出して小銭を手に取った瞬間、今まで自分に見向きもしなかった鹿達が寄ってきたのだ。
一瞬にして囲まれたが、鹿せんべい屋のおじさんから鹿せんべいを受け取る瞬間、殺気を感じ取った。
このせんべいを受け取った瞬間にせんべいは私のモノではなく、鹿のモノになる。
そう感じた私は鹿せんべいを受け取って直ぐに懐に隠した。
そうすると、鹿達はすぐに興味を無くし蜘蛛の子を散らすように離れた。
その時、鹿達の賢さにようやく気がついた。
なぜ、鹿せんべい屋の野ざらしになった鹿せんべいに口をつけていないのか。
それは、明らかに鹿せんべいの購入のプロセスを鹿達が理解しているからだと。
鹿せんべい屋から小銭と交換された鹿せんべいは食べていい。食べさせてくれる。それ以外は食べてはいけないことを知っていたのだ。
もうそこからは鹿のファンになった。
鹿せんべいを何匹にあげたか分からない。
中にはお辞儀をするファンサの出来る鹿たちもいた。
京都から40分。悪くない距離だ。
いい位置に鹿という癒しスポットを見つけた私は今度また鹿達の奴隷になりに行こうと思う。
鹿達よ永遠なれ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?