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日々の違和感に思いを馳せる

J-WAVEで放送中の「TAKRAM RADIO」。takramの渡邉康太郎氏がMCを務め、毎回ゲストとの対話を届けてくれている。

福井に住む自分にとっては、radikoのエリアフリー又は番組のポッドキャストが同番組を聞く方法であり、併用しながら散歩時などにぼちぼち聞いている。

その196回放送は、同社の牛込陽介さんの回。その中で語られた内容が面白いなと思ったのでここに書き残したいと思う。

隣席にあった「チキンボーン」

話の内容は次のようであった。

ロンドンに住む牛込氏。ある日、バスに乗っていたら隣の席にチキンボーンがあることに気づく。

それを契機に注意して見てみるとロンドンの町中に、チキンボーンの骨が落ちていることに気づく。

牛込氏は好奇心を刺激され、「そもそも、フライドチキンとは?」などと思いを巡らせた。

ロンドンの南に住む牛込氏。そのエリアとフライドチキンの関係を調べた。

すると、政治家がフライドチキンショップをまちづくりの悪者として喧伝していたことがわかった。その時は、まちの退廃の象徴のように扱われた。

多くの人にとって、少ないお金を出して帰る食品がフライドチキンだったというだけなのに。

当時、牛込氏は代替肉のリサーチもしていた。代替肉は高価だ。

もし、安いフライドチキンから代替肉が導入されていたらと想像した。そうであったなら、バスのお隣は3Dプリンティングされた「骨のようなもの」だったのかもしれない。

そして、アイスの当たりくじのように骨にチキンショップの広告がプリントされていたかも。

そんな想像をしていた時期があったそうだ。

日常にある些細な発見から、その背後にあること、なぜ、チキンボーンが氏の隣に出現しなければならなかったのかということを考えてみることで、そうでない未来を「まじめに」考えてみる。そういった手続きが「チキンボーン理論」である。

それを受けて渡邉氏は、意識に引っ掛かりを覚えることを忘れないことは生活者としても、リサーチャー、創作者としての着眼点として大事だと返した。

小さな引っ掛かりを、自分の意識に残して深掘りしてくことは面白そうだとも。

牛込氏は想像力を豊かに広げて、新たな未来を構想する議論に繋げる「スペキュラティブ・デザイン」に興味があるとのこと。

チキンボーンから、想像を膨らませ、歴史や社会課題、さらには代替肉にまで好奇心を広げる思考経路は、スペキュラティブ・デザインに近い思考プロセスのだろうかと想像した。

違和感を捉えるセンスは鍛えられる

Xデザイン学校ではフィールドワーク研修に2年間で4回参加してきた。

うち3回は博多、京都、瀬戸内の大三島。いずれも、非住民として感じた違和感を収集するプロセスを体験するものだった。

そして、残りの1回は地元福井で行ったリモート研修。福井市内の日用品店を訪れた。

とても味のあるお店で、地域に愛され、80年以上続いている老舗だ。

観察とインタビューを通して、面白い発見を得ることができた。

そのワークでは、気になったことから問題点と解決策をパターンとして抽出して、一旦は抽象化をした。その後、パターンを用いて具体のアイデアとして発想するものであった。

その日の講評で、講師の先生から、「違和感を察知するセンスは、日々の生活の中で磨ける。注意して違和感を察知するよう心がけていくことが大事」といった趣旨のことをお伺いしたと記憶している。

牛込氏のチキンボーンで言えば、それを見て、ただのゴミとして顔をしかめるだけか、そこから好奇心の翼を広げるかは心持ち次第だ。

いつもはなんとも思わない、件の日用品店もアンテナの感度を高めれば、何某かの違和感を察知できる。

違和感をそのままにせずに、背景を調べ、想像を広げること。それがリサーチの良いトレーニングになる。

そして、違和感をきっかけとした想像は、きっと正しくなくてもよい。誤読や妄想が新しい未来を作るのかもしれない。