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「全国通訳案内士」試験 合格への道のり~(20) 2次「実務質疑」は「共感表現」と「設定後出し」で乗り切る

2021年度2次口述試験。「プレゼンテーション問題」、「外国語訳問題」と進み、最後は「実務質疑」です。

観光庁「通訳案内士試験ガイドライン」(令和3年6月改正版)の該当箇所を見ると、下記のようにあります。

「通訳案内の現場で(一部略)全国通訳案内士として求められる対応に関する質疑」については、試験委員に対して、受験者は全国通訳案内士としての適切な受け答えをすること。

つまり、受験者に求められているのは「全国通訳案内士としての適切な受け答え」であって、決して「一つの決まった正解があり、その正解を口述できるか」を求められているわけではありません。


さらに、これは他の「プレゼンテーション問題」「外国語訳問題」とも共通ですが、同じく「ガイドライン」に口述試験の「合否判定」についての記載があるので、そちらも見ておきます。


合否判定に当たっては、試験委員ごとに基準が大きく異なることがないよう、あらかじめ以下を含む評価項目について、具体的な評価基準を設定しておくものとする。合否判定は、当該合格基準点(原則として7割)に達しているか否かを判定することにより行う。

評価項目
・プレゼンテーション
・コミュニケーション(臨機応変な対応力、会話継続への意欲等)
・文法及び語彙
・発音及び発声
・ホスピタリティ(全国通訳案内士としての適切な受け答え等)


この判定基準を見ても、「実務質疑」の問題でも、問われるのは受験者に「臨機応変な対応力」や「ホスピタリティ」があるかどうかであって、「トラブル解決策の『正解』」でないことは明らかです。


それでは実際の試験ではどうだったか、お伝えします。


まずA4の紙1枚に、通訳現場で全国通訳案内士の対応が求められる状況(多くの問題では困った状況やトラブル)が書いた紙(日本語)が渡されます。30秒で読み、その後「外国人試験委員を訪日観光客と想定し、全国通訳案内士として対応してください」というような内容を日本語で言われます。

自分の場合は下記のようなものでした。


日本の城の見学に来ましたが、ご夫婦のうち、奥様が腰を痛めてしまい、天守閣の狭い階段は登れそうにありません。また天守閣にはエレベーターもありません。あなたは全国通訳案内士としてどのように対応しますか。
<条件>
お客様は70代の夫婦で、奥様の身体の具合が悪そうです。


会話は、試験委員から開始する場合と、受験者から始めるように指示される場合があるようです。自分の場合は外国人試験委員(女性)からでした。以降は英語での会話となります。


(試験委員)(女性)とても天守閣に登れそうにはないです。

(受験者)身体の痛みは大丈夫ですか。このまま見学を続けることは無理そうですか。(⇒ポイント1)

(試験委員)はい。エレベーターもないですし。

(受験者)それならば、城の敷地内にミュージアムがあるので、そこに行くのはいかがですか。(⇒ポイント2)
そこであれば車椅子も使えるし、ミュージアムの中には天守閣からの眺めがわかる写真も展示されています。また、その写真のポストカードも購入できます。もしよければこれからお連れしますが、いかがでしょうか?(⇒ポイント3)

(試験委員)そうですね。仕方がないから、そこに行きましょうか。

(受験者)わかりました。もしなにかまた不都合がありましたら、何時でもおっしゃってください。(⇒ポイント4)

(試験委員)いろいろとお気遣いいただき、ありがとう。


「実務質疑」の対策として、以下の2項目があげられます。

「共感表現」⇒ポイント1、ポイント4
「設定後出し」⇒ポイント2、ポイント3


回答の冒頭で、まずお客様に対して共感を表明することが大事です。お客様が「つらい」のであれば「つらいですね」、「怒っている」のであれば「それは不快に思われたことと思います。」、「不安」であれば「不安に感じるのはもっともです。」

特にお客様がネガティブな感情を持っているのではない、例えば「孫へのお土産を探している」と言った内容であれば、「それは素敵なアイディアですね」「お孫さんも喜びますね」と持ち上げてあげる。まずはお客様が置かれている状況を感情をこめて繰り返し発言し、その後、お客様(試験委員)がさらになにか発言するか様子を見る、というのが最初です。

その後、解決策を提案します。自分の場合は「車椅子も使える敷地内のミュージアムにお連れする」というものですが、「敷地内のミュージアム」といったものは問題用紙に記載もなく、その場で後付けでつくりあげた設定です。複数の試験対策専門スクールの講師の方からの意見ですが、あまりにも唐突なものでなければ、後付けで改善策を提案しやすい状況を受験者の方から提示することは認められているようです。

「後付け設定」をする場合のポイントは、受験者がどのような設定をしたのか、わかりやすく明確に話すことと、その設定に基づく解決策を提示する場合には、丁寧にお客様が同意されるか、確認することです。別の場所を設定してそこに行くことを提案する場合でも”Let’s Go!”ではなく、”May I suggest~?”や”Shall I take you~?”といった表現が適切な場合が多いと思われます。

こちらから解決策を提案し、同意していただいた場合、”OK.”などと軽く終わらせるのではなく、最後もダメ押しの「共感表現」で「もしなにか不都合があったら、何時でもおっしゃってください。」「楽しい時間が過ごせるように心から願っています。」などと感情をこめて話して、2次口述試験の幕を閉じます。


以上、「実務質疑」を乗り切るためには、あくまでも「正解」を探して答えるのではなく、いかに「共感表現」を多用しながら「後付け設定」も躊躇なく加えながらマナー良く乗り切っていくのが大事です。

「正解」はないので「わかりません。」「知りません。」はNGワードです。例えば「日本刀をお土産に持って帰りたい」であれば、「正解」は「文化庁に古美術品輸出鑑査証明の申請を行う必要があります。証明書の入手まで約2週間です。」(出典:「全国通訳案内士試験英語二次口述パーフェクト対策」)です。ただそのような専門的な知識がないのであれば(自分もありません)、「日本刀をとても気にいったのですね!」といった「共感表現」や「このお店には、外国への刀の持ち出しに詳しい店員さんがいらっしゃるので相談してみましょう。」といった「後付け設定」で笑顔で乗り切ります。


また試験委員の方の反応を見て、次の展開を考えることも必要です。例えば今回の「奥様が腰を痛めて天守閣の階段を登れない」という実務質疑問題で、外国人試験委員が男性だったとします。その場合は、最初の段階で、夫役の試験委員が「ひたすら奥様の身体を心配している」のか、「心配しつつも、どうしても自分は天守閣に上りたい」のかどちらの気持ちが強いのかを会話の中で探っていく必要があります。前者であれば「奥様と一緒にミュージアムに行きましょう」「見学を中断して病院に行きましょう」という提案になりますし、後者であれば「私は奥様とここに残りますので、天守閣にお一人で上っていただくことはできますか」という提案になるでしょう。


最後に、2次口述試験を通して「試験委員は受験者の味方だ」という話をしたいと思います。冒頭で「採点基準」の話をしましたが、「正解」があって、そこからマイナス評価があるのではなく、試験委員は受験者の回答の中に、ホスピタリティや全国通訳案内士として活躍できる可能性を探してくれています。独特な試験内容や雰囲気ですが、それでも合格率はいまだ4割を超えます。本番では、とにかくあきらめず、試験委員との会話を途切れさせずに続けることで2次突破も見えてくるものだと考えます。


「共感表現」についてはPEP英語学校で教わりました。YouTube動画にリンクします。

外人だって肯定してほしい! Mr. Examinerと「差がつく実務質疑」を練習しよう(全国通訳案内士試験二次口述)


《お知らせ》
今後「全国通訳案内士」資格を受験される方の参考に、2021年度に合格するまでの道のりを、少しずつ書いています。1次対策についても過去に書きましたので、よかったら最初の「合格報告」の記事(↓にリンク)から日付をおってご覧ください。

「全国通訳案内士試験」に合格

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