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#93 強いですか2023(後編)
【いままでのあらすじ】タイトル先行で作り上げた「宮本武蔵」という舞台はみんなナニを作っているかわからねえまま本番を迎えたよ!
とは書いたものの、実際に舞台上に立っていた役者は、スタッフは、わかっていたのかもしれないな。おっさんはわかっていなかった。「26年前の不幸な死者たちが、令和を生きる高校生たちに理解されない話」というのはわかる。その無念さを描いた、まではわかったが、集められた感想を見ると「今の子たちもパンデミックのせいで理不尽な不幸を味わっているのとリンクする」とある。へーぇ、そこまでは考えなかったなぁ。これは観客がよく感情移入してくれて、なんだか勝手に隙間を保管してくれている。当初はそう思っていたのだけれど、いや待てよ、もしかすると、本作「わけのわからない話」なんじゃなくて、作っている本人たちもわからないくらい根っこの深い部分がある話なのではないか。
無意識下にあるものが制作を続けることで、役者の肉体を得て実体化していく。それから先の稽古はずーっとそんなだった感じがする。何回か改訂があったのも、顧問があとで気づくことも多かったからだろう。今となれば判る。
事程左様に、ひとりのおっさんの「『宮本武蔵』って言葉そのものが面白くね?」という氷山の一角から始まった制作は、その後令和の高校生たちの手によって、想像以上に重く巨大な全貌をあらわしていった。戯曲なんぞ役者の肉体を介さなければただの中年男性のこさえた文字列なんであって、そもそも26年前のJKを描いた話が、今の子たちに受け入れてもらえるのか? みたいな話は顧問にずいぶんした気がする。おっさんの青春昔語りにならないように、部員たちにも「なんかいやだなぁ」と思いながら日々を送ってほしくない。
ただ、今の代の子たちというのはとんでもなく優秀で、そうした「おっさんの作ったテキスト」をちゃんと自分の肌に合うようにアレンジしていった。非常に「演劇部的ではない」戦略性を持っていた。夏休みにずいぶん話し合ったらしいログもちょっとだけ見せてもらいましたが、ちゃんと自分自身で納得して演じられるように解釈をカスタマイズしていたし、だからこそ、戯曲のテキストからしか想像できなかった筆者にゃ思いもよらないような大きな物語に仕上がったんだと思っている。すごいなー。高校を卒業したら演劇なんぞでなく、もっと世のため人のために立つようなりっぱな仕事についてほしいと思った。こいつらならば戦争も停められるかもしれない。
おっさんに出来たのは「そこのカップルはもっといちゃつけねーのー?」とか「その座り方だとパンツが見えやしねえか?」とか、そういうごく細かいところをキレイに、見やすくしていくことだけでございました。それで自主公演、234名のお客様でしたか、いくら無料の舞台とはいえ、全国(けっこう、飛行機でやって来る距離で)津々浦々からお客さんに来てもらったのは本当にすげーことだと思いました。
繰り返しになるが、この一年は顧問の「『宮本武蔵』って面白くね?」という思いつきがいろいろの人の手を経てものすごく重厚で”巨きな”作品になっていく様子をリアルタイムで見ることの出来た、得難い時間でありました。年間全7公演、千穐楽は俳優座でございましたが、
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このようなパンフレットを制作しました。
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二つ折りなので開くとこうなっとるんですけれども。
コンセプトは「あいつらにも葬式はあったんだよな」でした。5人まとめて死んだとしても葬式は合同でやったのかな。4人の親御さんが賛成しても独りが反対したりするかもしれないから、それはそれで学校でお別れの会的なものをやったのかもしれない。
顧問からオーダーがあったのは2019年俳優座の「姉」的なやつ
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であったので、今回もいろいろな素材を切ったり貼ったり。弔問客はいまままでの舞台写真の中からスケキヨやぬいぐるみや着ぐるみを切り取り、だが、その弔問客も見ているのは祭壇ではなくてお前たちだ----! みたいな。すみませんここまで来るとナンダカワカラナイ。
これから受験勉強に向かうやつらへの生前葬のつもりでもありました。
生前葬、実に縁起物でございます。
きわめて余談。なんとおっさん、隣の物理部員の声(音声のみ)で俳優座劇場デビューを果たしたのでした。最初の「あっ」が弊社でございます。あれだけ学校のホールで公開録音して、20テイクくらいして、ようやくOKが出た。
これは顧問がやったらいいやつじゃね? と話が来た時点で思っていたが、結果として俳優座劇場に立てたといえる。立ってはいないけど!
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