FtMの妻
女性の34歳、これはなんの歳か。
私の夫は性同一性障害、元女性である。
少し前に話題になった、従前のセオリーどおりの生殖能力を失くす手術を行い、戸籍を変えた、公的に私の夫。
精子は無いので自然妊娠という形の子どもはできない。
もともと、私自身が子どもを好きではないこともあり、結婚を決める際、夫の人柄に惹かれて決めた。子どもはいらないと思っていた。
また、子どもが欲しいのであれば結婚自体するべきではない。
彼は、それを気にして意思確認をしてくれていた。
まっとうである。
両親からすると、得体のしれない、テレビの中でしか見たことがない、その年代でいういわゆる「おなべ」という存在。
夜の世界の人ってこと?
あなたは女性としての喜びを感じなくていいの?
人柄も性格も知らないくせに。そんなふうに判断して最低だよ。
結婚することを伝えに行ったとき、私は泣きじゃくりながら両親にそう言い放った。
そこまで啖呵を切って、結局両親も夫の人柄に惹かれ、仲良くお互いの友人も交えながら結婚生活を送ってきた。
夫とは家事もそれなりに分担しながら、変な女性性の押し付けもなく、私は幸せであると思われる。
そこで冒頭の年齢だ。女性の34歳。
誕生日を迎え、急激に将来の不安が押し寄せてきた。
やりたいことや夢?
お金を貯めて定年後に。今は仕事に打ち込むとき。
子どもはそうはいかない。身体的に出産できる期間は限られている。
むしろ初産としてはもうほぼタイムリミット。
結婚するとき、子どもはいらないと思っていた。
あんなに両親に反論した私は、今、後悔の念に苛まれている。
そして夫は周りに大層愛されている。
情に厚くなんにでも真面目に取り組む、上も下も関係なく信頼されている、困難を乗り越えて、最愛の妻と結婚した、元女性の夫は、綺麗すぎるのだ。
私の中に急に出てきた不安。
ただそれだけが、人柄や性格をひっくり返す、身体的な根底の部分を夫に突きつけることになる。
むしろ、頑張って生きてきて、自己肯定感もやっと蓄積されてきたのに、もう頑張ってもどうしようもない部分なのである。
そんな綺麗な夫を、ズタズタにしてしまう、最低な妻という構図になるのだ。
私も自分を非情だなと感じる。
ただ、それこそこの根底の本能的な部分をどうすることもできず、もやもやするだけで、私は私さえも救えないのか、とも考えてしまう。
傲慢であることは重々承知しているが、自分の人生は自分しか変えられないのだ。