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ずぶ濡れ婆さん、洗濯物を干すの巻
そこそこ雨が降っているというのにベランダに洗濯物を干しているおばあさんがいた。
なんだか物凄く悲しい風景だったが、僕はその瞬間は思わず笑ってしまった。
“干す”というか“濡らしに”にいっている。
おばあさん自らもみるみるずぶ濡れになっていく。
部屋に戻ってどう思うのだろう。
「あら、雨が降ってきたわね。洗濯物入れなきゃ」だろうか?
自分を忘れていく事に苦しむ人もいるという話も聞く。
「やだ、あたしったら雨の中洗濯物を干したっていうの?なんてことなの…」という具合だろうか。
僕は特に何も言わなかった。
声をかけるべきだったろうか?
でもなんて?
「おばあさん、めっちゃ雨ですよ!笑」と明るく声をかけるのか?
それとも心配そうに
「おばあさん、雨ですけど大丈夫ですか?」とか?
何も言えなかった。
昔、若干ボケてしまった僕のおばあちゃんがぼーっとした目で、震える指で、それでもタバコに火をつけようと奮闘している姿を思い出した。
あの時はとても怖くなった。
あまりおばあちゃんを見ないようになってしまったと思う。
飛び抜けて明るい人って時々いる。
全てを笑い飛ばしてみんなを安心させてくれる。
目の見えなくなった犬を散歩させていると電柱にぶつかってしまった。僕はとても怖くなったが、彼は笑っていた。
「ごめんごめん!笑 たまに忘れちゃうんだよ〜君が見えないの。」
僕は心から安心した。
あのおばあさん、家族はいるのだろうか。
「おい!お前、雨だってのに洗濯物干してんのか!しょうがないやつだな!ガッハッハ!よし、そのまま干しておけ!」と笑い飛ばしてくれる旦那さんとか(もちろん、入ってきたおばあさんのことはタオルで優しく拭いてくれる)。
それか、心配してくれる娘さんがいるのだろうか?
「こないだお母さん、雨の中洗濯物干していたのよ。もうあたし心配で心配で。また明日も様子見に行くけど。」と落ち込んだ様子で旦那さんに話す。
はたまた独りぼっちなのだろうか?
なんだか物凄く悲しい風景だったが、僕はその瞬間は思わず笑ってしまった。
うん、まずは笑っていた。