【レポート】場の発酵研究所 公開座談会〜場をつくる杜氏が集まる場所〜
こんにちは、事務局の渡辺です。場の発酵研究所には、11名のフェローが参加しています。「杜氏(とうじ)」とはお酒をつくる職人のことです。お酒の発酵からヒントを得ているこの研究所でも、フェローたちのことを杜氏と呼ぶことがあるかもしれません。今回は杜氏と呼んでみたいと思います。
2021年5月17日(月)は、そんな杜氏たちと語り合う公開座談会を開催しました。11人のうち7人が参加。そして参加者は理学療法士、企業の研究職、ジャーナリスト、スナックの経営、スポーツ指導者、福祉関係、大学生、コンサルタントといった人たち。みなさん、いろんな動機をもって集まってくれました。例えば、以下のような。
・発酵という言葉が興味深い
・「問い直す」ということが興味深い
・ライフワークとしての場づくりに興味あり
・フェローに会いたいと思った!
・タイトルに惹かれました
・出会いやコラボの瞬間が好きで発酵がしっくりきた
場の発酵を考える9つの問い
発起人の藤本による研究所の説明も程々に、さっそくフェローたちとの座談会へ。事前準備として9つの問いを立てていましたが、今回触れることができたのは2つのみ(笑)もちろん、他の問いに関連する意見も出ていましたが。皆さんもぜひ、問いを眺めながら「自分なら何を話すか」と思考を巡らせてみてください。
発酵と放任(腐敗?)の狭間
深い問いかけから始まりました。この問いを投げかけてくれたのは、合同会社Staylink創業者であり、北海道でゲストハウスやフリースクールの運営に取り組む柴田涼平さん。
柴田:発酵させる時には、菌を野放しにしておくことも必要になると思います。しかし野放しが行き過ぎると腐敗してしまうのでは。その狭間って、どう見極めていくものなんでしょうか。僕は、介入しすぎない程度に見極めるようにしています。例えば以前に、喧嘩しているフランス人とドイツ人がいてピリピリしていましたが、即座に介入せずに様子を見ていました。すると北海道に来た理由を話し始めたあたりで仲良くなり、翌日からは一緒に遊んでいました。
まさに実践者ならではの臨場感がある問いだと思いました。僕もコミュニティデザインの現場では、人それぞれの個性や関係性を見極めながら、時には介入し、時には介入しない、という態度をとっていると思います。こんなシチュエーション、皆さんはありますか?発起人の坂本はこう応えました。
坂本:お酒づくりのようなものと仮定した時に、杜氏さんは温度の調節やかき混ぜる、かき混ぜない、といった行為を重ねています。醸す人がインプットしている内容によって、引き出したい味に関わってくるはずです。場に関しても、たくさんの場を体験していることがインプットになります。発酵する、ということを研究することで場づくりに還元できることがあると思っています。美味しいと感じるか腐っていると思うかは人によって違う、という視点もありそうです。
茨城県つくば市でコワーキングスペース「up Tsukuba」を運営する江本珠理さんは、毎日1つの場を運営している視点からこう応えます。
江本:同じメンバー、同じ顔だからこそ起きる発酵もあると思いました。同じ人に同じ話題を違う日に振ると、答えが違うことがあります。同じ場を毎日運営しているからこそ気づくことがある。雑談を大事にしています。色んな話が広がり、たくさん発見があります。
武庫川女子大学経営学部で実践学習のコーディネートを担当する時任啓佑さんは、様々な悩みを抱える大学生をサポートする経験から語りました。
時任:大学生は、やりたいことがない、と言う人も多いです。しかし何らかの思いは秘めているはずなので、それを引き出せるようにしたいとは思っています。堅苦しく質問するのではなく、ただ雑談しながら、興味関心に関係する座談会を開いたりしながら、自ら気づく場をつくるようにしています。教えなくても育っていく状態が教育の1つのゴールだと思っています。教えつつ、ちょっとずつ自立していく、くらいが理想的かなと。
長崎市でシェアハウス「つくる邸」を運営し、ながさき若者会議なども運営する岩本諭さんも、時任さんに近しいことを話してくれました。
岩本:活動する中で高校生と関わることもあります。学生たちの主体性を引き出すために何か特別なことをする、というよりは、関わる余白をたくさん設けるようにしています。つくる邸に呼んで、ただ夕日を見て過ごすという日もありました。そんな何気ない機会からその人の個性に気づくことがあります。
対価を払ってそこにいる場と無料開放された場と
2つ目の問を投げかけてくれたのは、「おやこの世界をひろげるサードプレイスPORTO」を運営する佳山奈央さん。
佳山:私はお金を払って過ごす場を運営しています。一方で、行政などが運営する無料の子育て支援の場もあり、ただの有料の子育て広場だよね、と言われることもあります。公民館などで無料で開催されているイベントと、同じような内容で有料で開催されているイベントもあります。そこにクオリティの違いはあるかもしれませんが、有料の場やイベントに参加する理由は、それだけではない気がしています。福祉は無料が良しとされることも多いですが、一方で有料でやる良さもあるはずです。
難しい問題です。民間がつくる場と行政がつくる場の境界線が未だに曖昧になっている気がします。行政は税金を投じて公園や図書館などの公共施設を造ったり、福祉などをサービスをつくったりしています。これらの大半は、江戸時代には住民が担っていたような役割です。しかし戦後を経て外部化され、行政が担うものが増えていきました。それが人口減少社会に転じたことで公共サービスの民営化が進みつつありますが、行政が税金を投じて本当に担うべきことは何なのか。それは「子育て支援」1つとっても様々な対象が考えられるはずで、その解像度を高めていく必要があるのかもしれません。
三重県桑名市で、お金ではなく"仕事"を持ち込むことで入場できる場「ニカイ」を運営する福田ミキさんは、少し違った視点で話してくれました。
福田:その場に合う人、合わない人は絶対に出てくると思います。お金をとると「わたしは客だ」と主張する人も現れます。お金を払ってお客さんになる、という関係性をつくる場は他にたくさんあります。だからニカイでは、そうではない関係性をつくりたいと思い、仕事を持ち込むという条件を設定しました。この条件からおもしろいことを提案してくれる人もいて、500円のコーヒーでは生まれないことがたくさんあります。
宮崎県で大学生の地域留学プログラム「ヤッチャの学校」などを運営する杉本恭佑さんは、地域で大学生の留学を受け入れている視点から応えました。
杉本:コロナ禍で鬱になる大学生が増えています。大学はオンラインなので、宮﨑に来てもらって現地で活動しながら学ぶプログラムをつくっています。そこそこの金額を払ってもらっていましたが、2期からは金額を下げました。お金がハードルになりすぎて、参加した方がいい人が参加できないことを避けたいと思ったからです。学生には安くしたほうがいい、とよく言われていますが、一方でお金を払ってもらうからこそ運営側もしっかりとコミットできる、ということもあるので、安易に安くするべきではないと思っています。また本人が払うのではない、例えば企業がスポンサーになって補填する、ということもあります。
それぞれの問いに対して明確な答えがあるわけではありませんが、杜氏たちもまた、自分たちの現場で試行錯誤しながら答えをつくっていこうとしている、その思考の一端に触れることができる座談会でした。場の発酵研究所ではこのように、杜氏たちも議論に加わり、参加する皆さんと思考を深めていきます。
場の発酵研究所への申し込みについて
研究所の詳細はこちらの記事を参照してください。募集〆切は5月23日(土)、いよいよ迫ってきました。
本講座申し込みフォーム
https://forms.gle/HPGBrNz6PUnW2GUs5
●本講座の申込み〆切
第一次募集:5月23日(日)
第二次募集:5月30日(日)
いつもご覧いただきありがとうございます。一緒に場を醸し、たのしい対話を生み出していきましょう。