振込とか振替とか(振込編)
銀行口座決済の当たり前を変えるPay by BANK開発中のBANKEYの阪本です。
今回は聞いたことはあるけど説明しろと言われると少し難しい振込とか振替の用語について全2回の1回目。
序章:振込先には気をつけて
銀行員2年目の話。
メインバンクという言葉を聞いたことがある人は多いと思います。一般的に法人の場合には銀行借入が一番多かったり、入金口座として一番上に記載されたり、給与振込を行う口座だったり、オーナーとの個人取引(住宅ローンや運用など)があったり。逆に銀行側から見るとメイン先や主力先といった言い方になります(メイン先>並列メイン先>準メイン先>並列準メイン先>付合…なんのこっちゃ)。
ある日のこと、オーナー取引の手厚いメイン先の番頭さん(最近このような言い方はしないかもしれませんが、実務を取り仕切る方)がオーナー個人の振込取引の書類をお持ちになりました。
書類を確認してお預かり証を発行する私、これが悪夢の始まりとはつゆ知らず。。。
預かった書類は支店で処理をされるのですが、しばらくして支店から電話があり「振込処理をしたが、振込先で該当する口座がないため組戻の処理をお客さまに依頼して欲しい」と。組戻というのは振込手続き完了後に、ご依頼内容に誤りがある場合や振込を取消したい等お客さまのご都合でその振込を取消する手続きのことです。ただ、振込先は同じ銀行の別支店、しかも振込先は神田駅前支店(仮)が正しいところ依頼書には神田支店(仮)と書かれていたことが原因で…
お客さまにご連絡すると案の定「同じ銀行内での処理であり何とかして欲しい。そもそも同じ銀行間での振込なのに何故事前に分からないのか?」との剣幕。とはいえ記載を間違えたのはお客さまなのに…
上司とも相談し対応を協議、特例扱いとすることに。ただ、特例扱いには支社長の印鑑が必要で、説明すると(なお、当時の支社長は勝新太郎似の強面で、昔のドラマに出てくるサラ金の社長とその部下を想像しながらお楽しみ下さい)…
支社長「おう、分かった。けどよ、そもそもの原因は何だ?」
(上司から発言を促される私)
阪本「はい、振込依頼書には支店番号を記載する欄がなく、支店名を日本語で記入することしかできず、「駅前」という記載が漏れてしまったことにあります」
支社長「あ゛ぁ?お前は振込の約款を読んだのか?何て書いてあるんだ?」
阪本「銀行は記載された通り処理するので記載内容はあらかじめ十分にご確認くださいといった内容であります」
支社長「そうだよなぁ、で、お前は書類をお預かりするときにお客さまにきちんとそのようなご説明をしたのか?」
阪本「い、いえ…」
支社長「なら、悪いというか原因はお前だよな。あぁ?」
阪本「は、はい…」
当時は理不尽だなぁと思いながらいまになって振り返ると①教育上の観点(常にお客さまの立場で考えるということがちゃんと出来てますか阪本くんという話)②特例の建前(部下のミスであれば組織として対応出来るがお客さまが間違ったという状態での特例扱いは重い)といった背景があったんだろうと推察されます。が、理不尽オブ理不尽。
銀行振込
銀行振込(ふりこみ)とは銀行(金融機関)口座にあてた資金移動のことです。なお、国語辞典で「振込」を調べると2番目に出てきます。
銀行口座に資金移動をするというプロセスを少し分解してみます。
[ケース]X銀行のAさんの口座から100円をY銀行のBさんの口座に振込する
依頼:AさんはX銀行に対してY銀行のBさんへの振込を依頼する
資金確保:X銀行はAさんの口座から100円を確保(引落)する
通信:X銀行とY銀行との間で依頼内容をやりとりする
入金:Y銀行はBさんの口座に100円を入金する
資金決済:X銀行とY銀行との間で資金を清算する
1つ目の依頼は依頼書(紙)を窓口に出したり、ATMを操作したり、インターネットバンキングを通じて行われます。銀行は依頼の内容に沿って処理をするので依頼内容はしっかりと確認することが必要です。
2つ目は当然ながら口座に十分な資金がなければ手続きを行うことが出来ないので銀行としてはこの段階で資金を確保します。
3つ目の通信手段はいくつかあります。例えば文書扱と呼ばれる方法では磁気テープ等に情報を記録して磁気テープを相手の銀行に渡して受け取った銀行は内容を読み取って処理をする、更にその昔は紙で…当然ながら2−5日程度の時間を要します。現在の主流である電信扱では全銀ネット(全銀内国為替システム)を通じて銀行間のやりとりを実現しています。みんなが大好きな「ことら」は個人間送金で10万円以下の取引に限定してこの全銀ネットと同じ役割を果たすことが出来る仕組みです。住信SBIネット銀行は送金の依頼内容によって通信方法を変えるという発表をしました。
なお、全銀ネットやことらでは資金そのもののやり取りは行われていません。
4つ目は入金処理で全銀ネットを通じて受付した依頼内容を処理します。1億円未満の取引については一般的にはY銀行が一旦立替払いする形で先に入金してしまいます。
最後の5つ目は資金清算で日銀ネットを通じて、各銀行が日本銀行に保有している当座預金を通じて資金清算を行います。
何故このようなプロセスなの?
銀行振込は異なる銀行間での処理でだけ年間約16億件(2023年中)、1日あたり約800万件あります(昨年全銀システムが停止した際に処理されなかった件数が500万件といったことも記憶に新しいかと思います)。
この割と大量の処理を合理的に行うために銀行間で許容できるリスクを考慮した仕組みが上記のプロセスなのです。
振込はとにかく「早く(即時に)」相手に資金移動することを目的とした仕組みです。
1億円未満の資金移動については支払側の銀行が代金を確保しており支払い能力があると信じて受取側の銀行は即時に立替払いをします。1億円を超える場合には都度の資金移動を行います(何故なら支払側の銀行が破産した場合には預金保険の対象であるとは言え、立替して入金した資金を受け取るまでのタイムラグが発生するため、金額のバーを設定して銀行間与信取引と組み合わせているのです)
また、2,3,4のプロセスは専用回線を通じてほぼ即時に実現しています。NTTデータ様々です(これらのシステム、仕組みを提供しているのはNTTデータ社)
終わりに
今回は銀行振込について書きました。次回は振替と、振込との関係について整理したいと思います。ではまた。