世界の決済シリーズ:アメリカ編
銀行口座決済を簡単にするPay by BANKを開発中のBANKEYがお届けする世界の決済シリーズの第五弾はアメリカ編です。
序章:どうなるチップ
銀行員時代、観光、ビジネス出張を問わず「アメリカ」に行くとなるとESTAとチップは忘れてはならないという先輩からの教えを忠実に守っていました。
レストランなどでは支払いの際にチップを指定すれば良いのですが、困るのはホテルのベッドメイクに対するチップのお支払い。スマートにチップを支払うために当時はドル紙幣を用意していたのですが。ほぼ現金を使うことなく往来できる昨今。ベッドメイカーへのチップは一体どうなってしまうのか!どうもコロナ禍を期に非現金決済が進んだ結果、多くのホテルでQRコードをスキャンするようなデジタルチップの導入が進んだようです。
主なデジタルチッププラットフォームについてChat GPTに聞いてみると以下のような3社を教えてくれました。
(1)TipBrightly:QRコードを利用して、簡単にモバイルチップを送ることができるプラットフォーム。IHGホテルズ&リゾーツを含む多くのホテルで採用されています (AFV News)。
(2)Canary Technologies:アプリ不要で、ゲストがQRコードをスキャンするだけでデジタルチップを送ることができるシステム。これにより、従業員の収入が向上し、ホテル全体の運営効率も向上します (PYMNTS.com)。
(3)Kickfin:キャッシュレスチップとリアルタイム支払いを提供するプラットフォーム。従業員はすぐにチップを受け取ることができるため、満足度が高まります (BLLA)。
また、デジタルチップの導入によって現金よりもチップが高額になる傾向が見られるなどの変化もあるようです。
生活様式はなかなか変わりません(今回も前置きが長い)。
アメリカの消費者決済行動
どうもアメリカの消費者は、従来の現金・小切手やクレジットカードからデジタル決済への移行を加速させているようです。
デジタルウォレットの普及:2021年には、アメリカの成人の64%がデジタルウォレットを利用したことがあり、その利用率は年々増加しています。
非接触決済の増加:パンデミックの影響もあり、非接触決済の利用が急増しました。2021年には、非接触決済の取引件数が前年比で45%増加しています。
オンラインショッピングの成長:オンラインショッピングの普及により、電子決済の需要が高まっています。2021年には、eコマースの売上が前年比で20%増加しました。
背景①:リアルタイムグロス決済の発展
これらの変化の背景にはリアルタイムグロス決済(RTGS)の発展があります。それまでのアメリカにおける決済はWire送金(銀行同士の電文交換によって資金移動する仕組み)やACH(Automated Clearing House)と呼ばれる非インターネットの電文を介した決済が中心でした。代表的なRTGSの枠組みは以下の通りです。
Zelle:Zelleは、2017年に導入された銀行間即時決済の仕組みです(日本の全銀ネットに相当)。急速に普及し2021年には、Zelleを通じて約5000億ドル(前年比+50%)の取引が行われています。
FedNow:2023年7月に正式に稼働開始となったFednowは2024年6月時点で、300以上の金融機関が参加し、24時間365日リアルタイムでの支払いを可能になるなどアメリカの決済インフラは大幅に強化されています。
背景②:銀行APIアグリゲーター
また、デジタルウォレット発展の裏側では銀行のOpen APIと銀行APIアグリゲーターの存在も忘れてはなりません。APIアグリゲーターは金融データの集約と利用を容易にしデジタルウォレットを支えています。代表的なアグリゲーターを紹介します。
Plaid:金融アプリとユーザーの銀行口座を接続するAPIのハブ機能を提供しておりアメリカにおける主要なフィンテック企業が利用しています。また、ユーザーが簡単にアカウント情報を共有するのを助けるAPI等、APIを使うためのAPIを提供しVenmoやRobinhoodなど多くの人気アプリと連携しています。
MX:データ集約と分析に強みを持つAPIアグリゲーターで、高度なデータ解析ツールを提供しています。MXを組み込むことでユーザーの金融データを一元管理し、パーソナライズされた金融サービスの提供に貢献しているとされています。
Finicity:Mastercard傘下のFinicityは、リアルタイムの金融データアクセスを提供するAPIアグリゲーターです。クレジットスコアの向上や融資の迅速化に貢献しています。
規制の動向
近年FRBは、アメリカの決済インフラの強化と近代化を進めるための政策を実施すると同時に金融犯罪対策を強化しています。代表的な取り組みとしてはFednowやデジタルドルの検討、銀行APIを利用する事業者と銀行との間の不正利用情報共有や接続事業者の不正対策等の体制強化といった形でイノベーションと社会の清流化のバランスを図っているように見受けられます。
まとめ
小切手、現金チップまたはクレジットカード(デビットカード)からアメリカの決済システムは、デジタル決済へのシフトが進んでいます。
この裏側にはリアルタイムグロス決済の導入があり、安価で即時の資金移動がイノベーションの源泉となっています。