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何故、世の中にフィンテックが必要か?
銀行口座決済の当たり前を変えるPay by BANK開発中のBANKEYの阪本です。
前々回は銀行の数を数えて、前回はフィンテック企業の数を数えました。今回は数えた結果から見えてくることについて語ります。
序章:オーバーバンキング
日本ではよく「銀行の数が多すぎる」という言葉を耳にします。いわゆるオーバーバンキング、地銀の再編議論などでもよく挙げられるフレーズです。
この議論自体は1990年代から繰り返されてきたのですが(当時は都市銀行が10行あってみたいな時代)、最近で言えば、欧州中央銀行(ECB)が2019年11月に公表したレポートで、日本はドイツに次いで2番目にOvercapacityであると指摘されています。
もっともこの指摘は金融機関の数そのものよりも店舗やATMなどのインフラが充実しすぎていてデジタル化を進めるための妨げになっているという論調なので効率的な経営に関する議論だったりもします。
確かに、前々回数えた通り預金取扱金融機関の数を人口10万人あたりで比較すればアメリカやイギリスと比べても全然多くなかったので単純な数の比較で語れるわけでは無さそうです。
銀行って儲かるの?
もう1つの疑問としてオーバーバンキング(オーバーキャパシティ)の何が問題かという点が挙げられます。
そこで、日本の銀行が生み出している付加価値を見てみましょう。
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全銀協のホームページに国内の銀行を合算した財務諸表が公開されています。年度別の全国銀行総合財務諸表(業態別)の全銀行の数値から銀行の本業で生み出した付加価値を表すコア業務粗利益(とついでに営業経費、銀行数)をグラフにしてみました。
直近の2023年度(2023年4月から2024年3月までの決算期、脱線すると決算期って普通は自由に決められるのですが銀行の場合には銀行法で3月決算と決められています)のコア業務粗利益は12.2兆円(同じ時期のトヨタ自動車は製造で粗利5.2兆円、金融事業で粗利1兆円なので銀行業界全体でトヨタの倍の付加価値を生み出したというようなレベル感)。日本のGDPの2%程度を担っておりそれなりの存在感です。
グラフで並べてみると直近2019年を底に業務粗利益は伸びています(海外事業の拡大と円安の効果)。ただ恐ろしいことにグラフの左側、2008年から2019年までの間全くと行っても過言ではないほど業務粗利益は「成長していません」。ついでにトップラインが成長しない中で経費も概ね横ばいですので銀行産業としての「利益」も成長していないことが分かります。
日本全体が低成長率だからという言い訳が聞こえてきそうですが、結局この「成長してこなかった」という事実がオーバーバンキング、オーバーキャパシティという議論に繋がっているのだと思われます。
銀行の今後
直近こそ銀行業界の付加価値は増加していますが、「効率的に成長せよ」の原則に従えば当面オーバーバンキング、オーバーキャパシティの議論は継続すると考えられます。
銀行ビジネスは基本的に預金を集めて貸出してその金利差で儲けるというものです。最近でこそ手数料ビジネスと言われてはいますが、業務粗利益の8割超が資金収益であることからもコア中のコア業務は金利差によるビジネスです。
となると効率的な経営を志向していくのであれば銀行は「大口先」への集中をますます進めていかざるを得ません。
当たり前の話ですが、100万円貸出するのと、100億円貸出するので必要な手間ひまは大きく変わりませんが得られる収益は「金利」が%で計算する世界である以上は元本が大きい方が当然に大きくなります。
従って銀行の基本方針は昔ながらの営業方法での対応は、個人は富裕層、法人は大企業に集中、その他のセグメントはマージンを引き上げる(金利を上げる或いはクレジットカード等の収益性が高い取引に集約する)またはデジタル化による取引コストの引き下げという方向であることは間違いなさそうです(各社のIRを見ていても各銀行概ねこの方向性です、あまり差別化しようとしないのも銀行業界の特徴)。
本題:フィンテックがなぜ必要か
遠回りしましたが本題です。これまで非効率だと言われながら日本の金融サービスを支えてきた銀行は大口先(個人で言えば富裕層や大企業)に今後リソースを集中させていく方向性です。筆者のような非富裕層は金融サービスを享受出来るのでしょうか?
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上の表は単身世帯、二人以上世帯のそれぞれの年代別の貯蓄額に関する調査です。注目いただきたいのは赤枠で囲っている箇所で、2019年から2022年にかけて中央値が大幅に下がっていることが分かります。しかも平均値は30代を除けば上昇していることから貯蓄額の「格差」が拡大していることがこのデータから分かります。
銀行はこれらの中央値や平均値よりも貯蓄額が多い人たちへのサービス開発を今後も進めていくと思われます。一方でこの中央値よりも下あるいは平均値よりも下の家計についてはインターネットバンキングでセルフサービスでお願いしますというのが銀行の本音です。
でも、本来であれば金融、すなわち「カネを融通する」ビジネスはこういった中央値よりも下側のセグメントにサービスを届ける、そしてみんなで底上げしていくというのがあるべき姿なのではないでしょうか?(俗に言う金融包摂、銀行口座を開けない貧困層に口座を開くことだけが金融包摂ではありません)。しかしメインプレイヤーである銀行はこの領域については動かざること山の如しです。
そこでフィンテックの必要性がようやく実感されます。銀行が相手にしない、あるいは相手にできないセグメントに対してテクノロジーで「サービス」を届ける、それがフィンテックの役割です。決して既存の金融システムをディスラプトすることが目的ではありません。
筆者が感銘を受けたフィンテックサービスに米国の退役軍人の小切手の換金サービスがあります。
銀行からすればイレギュラーな業務、採算も合わないので昔からずっと小切手を郵送でやりとりして入金するといった手続きが当たり前でした。しかしテクノロジーで小切手をモバイルで撮影し伝送することで即時に換金できるサービスが登場し、今では米国の殆どの銀行で同様のサービスが導入されています。
まとめ
日本においてはオーバーバンキング・オーバキャパシティがしばしば議題に上がります。銀行は今後ますます「効率性」の名の下に選択と集中を進めていきます。
その中で金融サービスを受けられないセグメント(Unbanked=銀行口座を持てない、ではなくサービスを受けられないUnderbanked)が今後置き去りにされる懸念が高まっています。
日本は構造的に少子高齢化や所得格差の拡大、金融リテラシーの低迷や銀行セグメントの長期にわたる低成長など課題は山積です。そんな日本だからこそもっともっとフィンテックサービスが必要なのです。
次回は海外におけるフィンテックサービスの拡大について考察します。ではまた。