アリマンタシォン・クシュタールによるセブン&アイ・ホールディングスへの買収アプローチ
経済産業省が2023年8月31日に「企業買収における行動指針」を公表してから、2015年のコーポレートガバナンス・コードの制定と相まって、数多くの「同意なきTOB」(かつては、敵対的TOBと呼ばれていました)が発生しています。
同行動指針は、乱暴に言えば、「株主共同利益の向上に資する提案であるならば、指針に沿う適正な手続きを踏んでいる限り、経営陣の同意があろうがなかろうが、積極的に買収提案を行う」ことを肯定しています。
こうした中で、小売業界の最大手の一角である、セブン&アイ・ホールディングスが、カナダのコンビニエンス大手であるアリマンタシォン・クシュタールが2024年8月19日に「同意なき」買収提案を受けていると発表をしました。
指針の発表から約1年、今までの日本の常識では考えにくかった、業界最大手といえども、買収候補となる時代がついにやってきました。
2024年11月13日には、創業家がMBOの提案を行っているとアナウンスしており、セブン&アイ・ホールディングスの争奪戦へと発展しております。
以下、セブン&アイ・ホールディングスとアリマンタシォン・クシュタールの状況を時系列に記載してます。
同意なきTOBは行わないとアリマンタシォン・クシュタールのアラン・ブシャール会長がコメント(2024年11月22日)
同意なきTOBは行わない
現在の提案価格は、すべてのステークホルダーに魅力的
独占禁止法回避のため一部店舗は売却の構成
セブンイレブンブランドの成長戦略に自信
コンビニ業界の盟主でなく、小売業の盟主を目指す
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN210980R21C24A1000000/
創業家がセブンに対してMBOを提案(2024年11月13日)
創業家である伊藤順郎(セブン&アイホールディングスの代表取締役副社長)及び伊藤興行から法的な拘束力のない提案書を受領したと発表
総額9兆円規模のMBOとなる見込み
特別委員会は、アリマンタシォン・クシュタールの提案とMBOの提案のどちらがより企業価値を高められるかフィナンシャルアドバイザー及びリーガルアドバイザーと検討
MBOには伊藤忠も参画を検討。LBOローンで6兆円前後の調達を検討しており国内最大規模のM&Aとなる可能性
https://www.7andi.com/library/dbps_data/_material_/localhost/ja/release_pdf/2024_1113_ir01.pdf
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-11-13/SMSG9VT0G1KW00
アリマンタシォン・クシュタールの創業者で会長のアレイン・ブシャード氏が、特別委員会のスティーブン・ヘイズ・デイカス取締役会議長と面談(2024年10月17日)
ブシャード氏とアレックス・ミラー社長が来日
非公開で特別委員会のスティーブン・ヘイズ・デイカス取締役会議長と面談
1株あたり18.19ドルで買収価格を再提示している可能性
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-10-17/SLE2AMT0AFB400
米ファンド、アーティザン・パートナーズがアリマンタシォン・クシュタールの提案を真摯に検討するよう要望(2024年10月16日)
18.19米ドルを提示しているアリマンタシォン・クシュタールとの真摯な交渉をすべきと指摘
委員長以外の特別委員会のメンバーを公表するよう要請
https://jp.reuters.com/markets/global-markets/GLNTZQ54XVOX7GV655DOVSJDJQ-2024-10-16/
セブン&アイ・ホールディングスが中間持株会社設立の発表(2024年10月10日)
【発表骨子】
セブン&アイ・ホールディングスの完全子会社として、食品スーパーマーケット事業及び専門店等を統括する中間持株会社(ヨーク・ホールディングス)を設立
戦略的なパートナーへの株式譲渡もしくは出資によってヨークホールディングスを持分法適用会社化するこもと検討
将来的には、ヨークホールディングスをIPOをさせる意向
ヨークホールディングス傘下の企業は以下の通り
株式会社イトーヨーカ堂
株式会社ヨークベニマル
株式会社ロフト
株式会社赤ちゃん本舗
株式会社セブン&アイ・フードシステムズ
株式会社セブン&アイ・クリエイトリンク
株式会社シェルガーデンセブン&アイ・ホールディングスは社名を「セブンーイレブン・コーポレーション」へと変更予定
https://www.7andi.com/library/dbps_data/_material_/localhost/ja/release_pdf/2024_1010_ir02.pdf
カナダ・ケベック州貯蓄投資公庫がアリマンタシォン・クシュタールに資金提供を行う可能性(2024年10月7日)
カナダ・ケベック州貯蓄投資公庫(CDPQ)がセブン&アイ・ホールディングスの買収式の一部を提供する可能性を示唆
CDPQは運用資産額が4520億カナダドルで、プライベート分野への投資も積極的に手掛ける
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-10-07/SKYJN1T1UM0W00
セブン&アイ・ホールディングスからの法的拘束力のない初期的な提案へ回答に対するアリマンタシォン・クシュタールのプレス(2024年9月8日)
セブン&アイ・ホールディングスが友好的な協議を拒否したことに失望
両社が合わさることにより、10万以上の店舗を持つ世界有数の小売プラットフォームが戦略的および財務的な利益をもたらすことを強調
アリマンタシォン・クシュタールの買収、規制順守、株主還元における強固な実績を強調
セブン&アイ・ホールディングスがアリマンタシォン・クシュタールからの法的拘束力のない初期的な提案へ回答(2024年9月6日)
【発表骨子】
株主及びその他のステークホルダーにとって最善の利益をもたらす提案は真摯に検討
ただし、買収提案はセブン&アイ・ホールディングスの価値を著しく過小評価
米国における競争法など、複数課題についての検討が不十分
出所 https://www.7andi.com/library/dbps_data/_material_/localhost/ja/release_pdf/2024_0906_ir01.pdf
【Bankers' Ideaの所感】
法的な拘束力のない提案書といえども、特別委員会を組成して、株主共同の利益にかなうか、検討するのは指針効果ともいえる。
当然1回目では価格が低いと突き返すのが、M&Aの流れ的に一般的。
セブン&アイ・ホールディングスがアリマンタシォン・クシュタールから買収提案を受領していると発表(2024年8月20)
【発表骨子】
アリマンタシォン・クシュタール社より内密に、法的拘束力のない初期的な買収提案を受領済み
当社取締役会において取締役会議長であるスティーブン・ヘイズ・デイカスを委員長とし、独立社外取締役のみにより構成される特別委員会を組成
特別委員会は、当該提案を当社のスタンドアローン計画及び当社の企業価値を向上させる他の選択肢とともに、慎重かつ網羅的に、しかし速やかに検討
出所:https://www.7andi.com/library/dbps_data/_material_/localhost/ja/release_pdf/2024_0819_ir01.pdf