転職はした方がよいのか
転職するのは良い事なのか
我ながら思いつく限り最悪な問いの立て方なのですが、そもそも転職というのはした方が良い事なのでしょうか。先日下の様なニュースがあり、新卒の3年離職率が1/3を超え16年ぶりの高水準になったといいます。
確かに世間の空気的に転職そのものを是としている感は非常に感じており、「転職しない奴はバカ」「するほど偉い」みたいな言説まで登場する始末。これは転職アフィの煽り文句なので相手にする必要は無いと思われますが、それでは雑に現代社会でサラリーマンとして働く上で「転職」というムーブ自体をどう評価するのが良いのでしょうか。せっかくの機会なので考えてみたいと思います。
転職することで本当に所得が上がるのか
https://doda.jp/guide/junbi/incomedown.html
こちらのサイトで厚生労働省が公表している「雇用動向調査」の統計が出ており、転職により年収は「下がる」「変わらない」「上がる」が概ね1/3ずつということであり、この時点で2/3が転職しても年収が変わらないか下がっている、とのことです。が、これは落とし穴があり額面上変わらない様に見えても退職金としては大幅に目減りすることなります。これは現行多くの企業で一定以下の勤続年数で退職した場合、退職金が大幅に切り下げられる様になっているので、ここだけ切り取ってみるのであれば、一社で勤め上げるケースに敵いません。
また額面の給与が上がる様な転職についても、これは個人的な感覚ですがキャリア採用に積極的な企業群、例えばイケイケのベンチャーだとか外資みたいな所は基本的に定着率が低いのをキャリアで補っているのでそもそも転職後の年収を期待値計算してしまうと低かったり、またこれらは額面年収を良く見せるのに社宅だとか家賃補助その他の手当面も貧弱なケースが多い様に思われます。給与計算に多くの場合含まれている勤続級も基本的にはリセットになってしまい、結果的に本当に総稼得額が上がっているケースというのは割と少ない気がします。
その他「転職」そのものの不利益:専門性、汎用スキル、人脈などの不利益等…
その他大きな不利益として、多くのJTCではまだ人事上キャリアと生え抜きを差別している所が多く、多くの場合代表者、あるいはそれに準ずる様な役員は大体生え抜きです。一方でキャリアについて某金融機関で聞いた話では、キャリアとして入るとその後殆ど採用時点の待遇で固定されてしまい、定昇がギリギリあるかないか、くらいになるという所も聞いたことがあります。(近年はそうでない所も増えてきたとは言え、基本的には外から来た人間が上に立つということにまだ若干の忌避感はある様に思います)そうした所にキャリアで入るということはある意味でガラスの天井の下に入る事にはなる訳です。
またキャリアで特に異業種転職の場合に顕著になりますが、そこの社員がOJT等を通じて一般に学んでくる当社の汎用スキル/知識の類を持たないまま入ることになりますし、同じスピードでしか勉強しないのであれば、基本的にその後の伸びという観点でも差を付けられていくことになります。このnoteでも常々申している通り、サラリーマンとしての価値を決める大きな要素の一つに専門性があることは疑いないわけであって、構造上の理由でここが劣後してしまうというのはそれ一つ取ってみただけでも大きなマイナスです。
最後に一つ地味に大きいのが社内人脈のリセットです。ある程度歴のあるサラリーマンの方であれば共感いただけるのではないかと思いますが、仕事をする上で「〇〇さんと相互に知り合いである」ということは実際強力な影響があります。仕事頼める/頼めない、聞ける/聞けないがかなり決まってきますからね。それは社歴と共に社内で積み重ねていくものですが、転職してしまえば当然リセットされます。勿論社外に人脈を持てるという事は1つ強みではあるものの、仕事を進めたりする上での価値ということになるとどうしても社内人脈の方に部があります。転職後滅茶苦茶に積極的に動いてここをカバーする様な人もいますが、その様な動きができないのであれば基本的には損になると考えて間違ってはいないと思います。
「転職」自体の良い点①:複数文化を経験できる
では逆に「より良い会社に行く」ということを一旦抜きにしたところの「転職をすること」自体の良い影響というのはあるでしょうか。
1つは複数の企業文化を体験できるという点です。社内で部署が変わることにより仕事や文化が多少変わるということはありますが、それは転職での変化に比べると太宗の場合は大したことがありません。社、どころか業種も跨いで異動することで、業種は元より従事している人種、前提となるカルチャーが全く異なるというのは往々にしてあることです。勿論、個人の好みとして転職前のカルチャーの方が好きだった、ということは往々にしてありますが、それでも「知っている/知らない」という観点では1つのカルチャーしか知らないということはそれ自体がマイナスなのは間違いありません。1視点だと立体視できないので評価の軸が狭いんですよね。
「転職」自体の良い点②:マルチスキルになる
①と少し被る様にも思いますが、よく言う所では「IT × 営業」とか「経理 × 管理」の様に異職種転職であれば、マルチスキルな人間になることができます。これは結構強くて、例えば現行の部署1か所の知識・スキルしかない人間だと全く解の無い様なものが異職種の視点を足すだけであっという間に解決してしまうとか、3倍の成果が出る方法が出てくる、みたいなことはよくある事なのです。1つのことを30年やり続ける事で到達できる境地というのは確かにあるのですが、RPGのレベル上げよろしく人の成長というのは1つの事をやり続けていると基本的には速度が鈍化していきます。転職して新しい事を始めて数年というのは多くの場合強烈な成長を伴うので、結果的に一社でずっとやっていくよりも転職を挟むことで成長の余地があると言って嘘ではない様に思います。シンプルに強いですよね。魔法戦士。
1つ注意が必要なのは、この成長というのは基本的には最低でも3年くらいはその仕事に従事して内容を理解した所で始まる事が多い様に思います。なので一定期間ずつ腰を据えてやればよいのですが、所謂「ジョブホッパー」の様に短期離職を繰り返していると、退職金だけでなくスキルに関しても切り捨てながら飛び回ることになり、結果良い年して凄く浅い知識と経験しかない…なんて人間になりがちです。分かる人はドラクエで想像してみて欲しいのですが、ベギラゴンとベホマラーを覚えた元魔法使い僧侶なら凄く強いですけど、ホイミと忍び足とメラと気合溜めとインパスしか使えない元僧侶兼盗賊兼魔法使い兼武道家兼商人なんて使い物にならないでしょ。ある程度練度が無いと殆どゼロ評価なのです。
「転職」自体の良い点③:社会経験を踏まえて職探しができる
ある程度歴を積まれた社会人の方は分かると思いますが、大学生のイメージ先行で決めた就職先選びというのは正直殆ど意味がありません。職務そのものの内容は元より、自分の適性であるとか、個別の就労条件の実際の良し悪しなんてこともやってみなければわからないのです。実際、例えば旅行行間等は新卒には凄い人気ですが、その後の待遇であるとかキャリア採用では全然人がいかない印象も手伝い、実際働いた後の魅力度というのは大きく異なるのかと思ったりします。
その点、ある程度働くことで例えば「営業」とはどういうことかを実際に職場で見てきたり、働く過程で実際に見た上で気になった分野に挑戦する、等のムーブをすることができます。当然学生の頃とは解像度が段違いですので、より良い方向に迎える可能性は高くなります。もっとも所謂「第二新卒」の様な新卒とあまり変わらない状態で動いてしまうとこの様なメリットは殆ど無いですし、ある程度の知見が蓄積している前提ではありますが。
総論:結局転職した方が良いのか
この問いに対する明確で終局的な答えは
「場合による」
です。そらそうですよね。三菱商事から転職したらまずどうやったって給与下がりますし、アパレル業界から転職したら大体は給与上がるんじゃないでしょうか。勿論より良い先に転職できれば越したことはないでしょうが、転職そのものの中身にも良い事も悪い事も含まれており、それがどう作用するかは全て「場合による」としか言いようがありません。
ただ、一つある程度の確からしさをもって言えるのが、上記で書いた「転職そのものの不利益/良い点」は前者がかなりソリッドである一方で、後者①~③等は正直柔いです。つまりよく考えて転職しようがしまいが前者の不利益はほぼ確実に直撃しますが、後者のメリットを享受できるのはそれを利益に変えられるムーブが出来た人に限られるということです。よって「何も考えずにした転職」「逃げの転職」みたいなものがペイする可能性は相当に低いであろうとは思われます。何にせよ一世一代の賭けであることは間違いないので、軽々に動いて碌な事は無く、少なくとも転職アフィに乗せられて動く様な転職は百戦百敗になると思います。やるなら時間も手間もかけなきゃですね。