FF5で考えるジョブ型社会で必要なこと
新ルール「ジョブ型」
突然ですが、近時巷で流行のフレーズとして「ジョブ型雇用」と言われるものがあります。これは平たく言えば「貴方は何ができますか?」という事を勤めの間延々と問われ続け、それによって労働の難易度や報酬が変わってしまうという仕組です。今までは「メンバーシップ雇用(ゼネラリスト志向)」等と言われる別のルールが動いており、よく言う「年功序列」とか「ジョブローテーション」みたいなのはこれに関連する制度になります。この頃は「何ができるか」よりも「一社にどれだけ長く務めたか」とか「社内にどのくらい人脈があるか」で物事が決まってきましたが、それもいよいよ限界なので、何ができるかを問われ始めた、ということだと思っています。
この様になった背景としては、転職が一般的になって足りない機能は外から取ってくれば良い、という思想の定着や、業務そのものの高度化によってゼネラリストが対応できる限界を超え始めた事等がありますが、いずれにしても、まずは管理職等を対象としてジョブ型雇用制度というのが諸所で始まりつつあり、これが今後段々と一般労働者の所まで降りてくると言われています。
このルール変更が浸透し、ジョブ型が一般的になった場合、メンバーシップ型と同じ振る舞いだと恐らくはあまり上手くいかず、ジョブ型に特化した労働が求められると想定されますが、実はなんと今から32年前の1992年にこのジョブ型労働世界の実現を予言し(たかは分かりませんが)、その社会における立ち振る舞いを教えてくれるある種の教材が世に出ていたことをご存じでしょうか。それが、当時のゲームメーカー、スクウェアが世に放ったスーパーファミコン用ゲームソフト「ファイナルファンタジー5(以下「FF5」)」です。
「ジョブ」を活用しないと勝負にならない
FF5では、プレイヤーは「ジョブ」と言われる様々な職業を選択し、それぞれの特性や、そこで得られる「アビリティ」を組み合わせて戦っていくことになります。(逆にこれらをフル活用する前提で敵の強さが設定されている為、「ジョブ」を活用しないFF5でいう所の「すっぴん」状態では殆どクリア不能)。要は現実社会におけるジョブ化もこれと同じで、「ジョブ」を意識しないとクリアが難しい所まで難易度が引き上げられた様なものじゃないかと思います。
もう少し具体的に、皆さんはこれからサラリーマンとして襲ってくる様々なタスクと戦ってクリアしてくことになりますが、その際に、どの様な方法、具体的には様々なアビリティやスキルをどう組み合わせるかを考えていくことが「ジョブ化」ではないかと思います。例えば、「〇〇億円の売上をあげろ」というタスクに対して、猛烈な営業で無限に働いて突破する、所謂ゴリ押しも一つの正解ですし、複雑なストラクチャーを組み上げて巨大な案件を組成するのも一つの答えです。前者では圧倒的な体力、メンタル、営業スキル、後者は諸制度の深い理解と実践が必要になります。これらが労働ファンタジーにおける「アビリティ」や「スキル」であって、逆に言えばこれらが何もない状態では殆どの場合、年齢と共にタスクの難易度が上がると、殆ど何も突破できず、その結果、地位や報酬、転職の選択肢等がジリ貧になっていくのではないかと思います。
では、この様なジョブ化労働ファンタジーをプレイしていくにあたって、必要ないことは何でしょうか。それはまず第一に、日々一つ一つの仕事をする中で「このタスクからは何を拾ってアビリティ・スキルにできるか」という意識付ではないでしょうか。というのも、このアビリティ・スキルを入手する現実的な機会というのは、その大部分が日々の労働の中にあります。そして、それらは意識せずに過ぎ去ってしまうと、普通に素通りして何も得ることなく、年だけを重ねる…という結果にもなりえる訳です(現実、多くの人がそうなっている様に思います)。労働ファンタジーは即ち、基本的には周囲との競争なので、周囲が日々のタスクの中からアビリティ・スキルを拾っていく中で、自分がそれらを素通りしてしまうと、経年でどんどん差がついて行き、恐らくは不本意な結果になる可能性が高いのではないかと思います。
シナジーの出る組み合わせと意味のない組み合わせ
ここまで書いてきたことは、基本的には各タスクへの対応の一場面を切り取った内容ですが、FF5が教えてくれるそれ以上に重要な点は、「どの様にスキルを組み合わせてキャラ(自分)を育成していくか」という長期的な視点です。と、いうのもアビリティ・スキルの類は何も考えずにただ量だけを積み増しても、有効に連携させない限りはあまり意味がなく、むしろ組み合わせによってシナジーを発揮することに本源があります。自身の今後のキャリアを考えていくにあたっては、自分がどの様なアビリティ・スキルの組み合わせで戦う姿を目指すのか、その為にはどの様なステップを踏んで職場の選択や勉強をしていくことが必要か、を考えて実践する、それがFF5の教えてくれる労働ファンタジー最大の攻略法です。
まず具体的にFF5のスキルで行きましょう。狩人の「乱れ撃ち」というスキルがあります。これはノーコストで必中の物理4連撃が打てるというもので、例えばこれを二刀流が可能な忍者に付けると、作中でも最強のノーコスト必中8連撃が実現します。が、これを魔導士に付けるとほぼ死にスキルになります。と、いうのも、魔導士の物理攻撃は殆ど使い物にならない為、4連撃した所で意味がありませんし、魔法を乱れ撃ちすることはできません。よって貴重なアビリティ枠を食い潰して良い事は何もありません。
これは実際の仕事でも同じです。例えば、パワポ等による説明資料の作成力と、営業力の間には強力なシナジーがありますよね。では労務の知識と営業だとどうでしょうか…?
…
いや、何か人事労務関連システムのセールスとかは使えるかもしれませんが、恐らくは一般的な商材の売り込みに際して、例えば社会保険料や給与金額の計算が出来たり、時間外労働の管理ができることは私の知る限りはほぼシナジーがありません。この様に、仮に日々の労働の中からアビリティを拾う努力をしたとて、それがあまり意味のない取り合わせになってしまうと、シナジーを発揮することが出来ずに終わってしまいます。
一方で、例えば先ほどの労務関連のスキルは会社の設立場面では100%必要ですので、特定事業の都度SPCを立てて事業をしている様な会社では重宝されるかもしれません。同じ場面で要求されうる知識としては、例えば会社法に基づく諸手続の知識があるでしょうか。この様なものを詰め合わせて「設立事務」の様なパッケージにすることができれば、当該スキルを単品売りするよりも遥かに強力になります。
よって、自ら何と何を取り合わせれば強いかを考えて、習得するアビリティを考え、それを最大限に売れるフィールドを自ら目指していく、これがジョブ型労働ファンタジーにおける定石なのではないかな、と思ったりします。
揃えられるスキルの上限と選択
それではこの対応として、「全て」をマスターしてしまうという事は現実的に可能でしょうか。例えば法務経理財務税務人事労務営業調達生産管理研究職に…ここまで書いて分かったと思いますが、そんな人間はいません。結局、人間に可能な労働時間に限度がある以上、「深さ」と「広さ」はトレードオフの関係になります。究極1つのことを徹底的に極めるというのも一つの選択肢ですし、色々なスキルを揃えて上記の様にシナジーを出しに行くというのもまた然りですが、実務上可能な現会というのは良い所が「3つ」くらいかなというのが一つの感触です。これは期せずしてFF5において就いたジョブのデフォルトアビリティに加えてセット可能なアビリティが2つ(同時運用可能なのは計3つ)なので、その意味でもFF5は本当によくできているなと思います
と、いうのも、多少は業務外の座学なりで知識・スキルの範囲をブースト可能であるとして、実際に業務に活かしたり、対外的にアピール可能な水準まで持っていくには、どうしても一定の実務経験が必要になります。何をするにつけても、基本的にはあまり浅いと実績としてカウントするには至らず、結果的に1つについて最短でも3~4年はやらなければ「何かを身に着けた」と言うには足りない所、所謂ミドサー以上は新規に何かを身に着けるというよりは身に着けたものでPJを動かしたりチームをまとめる様な方向にシフトしてしまうので、それまでの期間が良い所15年と見ると現実的に球として揃えて運用できるスキルは3つが良い所かな、と思います。
現実的にできるいじましい事
以上をまとめると、限られた時間と選択肢の中で何時何を身につけて何に繋げていくか、をロードマップとして描いて実行プランを…んなこと言われても…という感じですよね。そもそも普段クソ忙しいし、配属なんて自分で決められないし、それどころか日々行う業務だって上司の指示で決まっているわけです。そんな簡単にジョブチェンジなんてできません。これはその通りで30時間もあればクリアできてしまうFF5に対して、労働ファンタジーはデフォルトの想定プレイ時間が40年もあるので、現実的には凄くゆっくりとデフォルトのキャリアルートをコツコツコツコツと僅かな力を横から加えて少しずつ向きを変えていくくらいしかできません。
非常に気が長い話ではあるのですが、それでも頭の中に修正だらけのロードマップが一枚しまってあるだけで結構物事の進みが違うかなと思い、今日もどうせ当たらない妄想を続ける日々です。明日も頑張りましょう。