「スマホゲーなんかやってる奴らは負け組だからな」がブッ刺さった話
なんか印象に残っちゃって忘れられなくなった会話ってありませんか?私はよくあるんですが、その1つに前職で飲み会の後に帰りの電車で一緒になった先輩(以下、読書先輩)が何気なく言った
「スマホゲーなんかやってる奴らは負け組だからな。本も読まねーでよ。」
というのがある。
それ自体は読書先輩も帰りの電車でスマホを弄っているオッサンを見て何の気なしに言った事で、然したる興味や関心の上に言った事でも無かったと思う。もしかしたら「俺は本を読んで通勤時間も有効活用してる」アピールだったのかもしれない。私は特に深く考える事も無く「そっすねー」で流してそのまま先輩と解散し、その内そんな会話があったこと自体も記憶の奥底に沈んで行った。
時は流れ、先日取引先との会食の後で、先方の副部長と帰りの電車が同じになってしまった。内心舌打ちしたくなるのを隠しつつ、営業の顔を顔面に張り付かせていると、部長は徐にスマホを取り出し画面を擦り始めた。そう、その時確かに見えてしまった。スマホゲーだ。自分がやってないので何のタイトルかは分からない。でもそれは確かにスマホゲーだった。日本を代表する、例えば巷で言う就職偏差値で言えば60後半の、超一流企業の副部長が目の前でスマホゲーをやっていた。私は思わず目を見開いてしまった。
「スマホゲーやられるんですかっ!?」
が喉元まで出かかったのだが、まさかスマホ覗いちゃいましたとも言えず、結局何のタイトルかは分からないまま、発狂するくらい気になりながら部長は会釈して電車を降りて行った。そして同時に読書先輩の事を鮮烈に思い出してしまった。取引先の副部長と当時のパイセンは例えば年収で言えば少なくとも倍半分は開きがあり、今後の昇進可能性も踏まえるとそれどころではない。肩書で言えば豚と真珠だ。読書先輩、負け組は貴方でした。それから、その事実が何となく気になり、なんで偉い人がスマホゲーしてたのか考えているのだが、以下何となく考えて見た事を書きたいと思う。
2010年代前半、東大生の就職先はスマホゲー開発会社だった。それが社会的に良い事か悪い事かと問われればそれは分からないのだが、とにかく儲かったので皆社会最高の頭脳をスマホゲー作りに捧げに行っていたし、それは一つの大きなトレンドだった。そういう事実は私も知っているけども、私はそれ以上に深く突っ込もうとも、調べてみようとも、ましてスマホゲーを実際にやってみようとはしなかった。
スマホゲー副部長は、先方の社内では結構異例の出世をした方だ。仕事はスマホゲーとは掠る事も無い程遠い分野の企画系。話していてもとてもアンテナが高く(話の長い)方だった。思うに、スマホゲー副部長はそうしたトレンドの中で、実際に自分もやってみようと思ったのではないか。これは半分冗談で半分本気だ。自分が転職して事業会社に来てから好きになった座右の銘が一つある。「神は細部に宿る」という奴だ。
私は今事業を企画したり評価したり、そんな立場で仕事をしているが、以前別の記事でも書いた通り、事業の成否を握るのは専門性、もっと言えば当該事業について、箸の上げ下ろしまでの細部をどれだけ知っているかだ。例えばスマホゲーという領域において、殆どの銀行員の意識は自分が直接担当していない限りは「スマホゲーが流行っていて東大生が行っている」止まりだと思う。良くてどんなプレイヤーがいるかを少し知ってるくらいだ。自分で実際にやってみるか。まで辿り着く人間はほぼいないと思う。
事業会社に来て、特に技術系の人間のヲタク度合いは凄い。何が凄いって、実際に自分がやってみるのだ。書籍を読むのは入り口以前で、論文や最新の見解を調べて、その内に休日を返上して現場に行き始める。多分彼らは分からない事、知らないことが気持ち悪いんだと思う。恐ろしい知識欲だ。それを50とかになってもまだやってる。大きな子供みたいだ。そしてこれが日本を焼け野原から世界に冠たる技術立国に押し上げた恐るべきパワーの源泉だったのではないかと思う。
読書先輩は確かに読書していた。新書とか好きなんだろう。でも彼は浅く広い。そこから先に進めない。だからその程度。スマホゲー副部長は技術系だ。多分、何となく気になってしまったのではないか。滅茶苦茶流行ってる、東大生がこぞって行く、「スマホゲー」、少し前の日本の最先端のトレンドに。そして、自分も実際にやってみようと思ったのではないか。そういう探求心が、彼をそこまで押し上げたパワーの源泉だったのではないか。
ということを色々グルグルと考えているのだが、もしかしたらただCM見て「面白そうだな」と思っただけかもしれない。私の考え過ぎだとは思う。ただ、少なくともこの話で一番の負け組は読書先輩であることだけは間違いないので、とりあえず自分が被弾しない様に特定のカテゴリの人を負け組と呼ぶのは止めておこうと思う。