銀行業務検定は本当に役に立たない資格なのか

銀行から一歩外に出たら全く役に立たない銀行業務検定を取らされ…

これは銀行員時代、必須資格試験として受験させられる「銀行業務検定」について仲間内で良く出た話。というのも、資格としての同検定はTOEICや簿記の様に資格単体として認知されてはいない為、もっとその手合の資格を必修にしてくれ…という趣旨で言われることであった。

あれからX年、今にして思えば銀行業務検定に関する当時の思いは一面では正しいが、一面では誤っていた。またその切り口から学習ということについて少し見えてきた物がある様に思う。

思うに、資格取得には2つの側面がある。1つは当時の我々が想定した肩書としての意味、持っている事に意義があり、それをもって社内での評価であるとか転職の可能性を上げようというもの。この中では資格で学習する内容を実務で使うとかいう発想はほぼ無く、専ら合格としたという事実に重きが置かれていた。というのも、例えば銀行業務検定の法務2級は論述10題に及ぶそこそこ本格的な試験なのだが、当時在籍していた組織では担当が既定の契約書に手を入れるようなことは認められていなかったので、正直勉強した内容を実務で役立てられる様な可能性は非常に低かった。私自身も既定の資格は一応揃えたが、それを実務で活かすことは少ないまま前職での勤めを終えることになった。

それからX年、実は最近、銀行業務検定(税務)のテキストを購入した。現所属は金融機関ではない為、そもそもその様な資格取得の要請はなく、今のところ受験予定もない。では何故わざわざそんなものを買ったか。答えは一つしかなく、税分野を総ざらいして学習する教材が欲しかったからに他ならない。

少し前に「お金に関する知識を身に付けるのにオススメの本を教えて下さい」という質問に「FP3級のテキスト」という回答が付いており、これには文句なく同意してしまった。資格試験というのは物にもよるが、その多くが当該分野において知っておかねばならない知識を無理のない分量に厳選して総ざらいをする内容になっている。いわば一通り身につける為の最短ルートなワケである。

何かを身に着けようとする時には当然様々な手段がある。書籍を読むとか、講義を聞いてみるとか、実務に触れるとか。ただ一つの切り口として、一定期間である程度内容をものにしたいとなった時に例えば書籍を読むだけの方法等では実際にものにしたと言える段階まで到達することはかなり難しい様に思える。というのも、人間の記憶/記録のプロセスとしてインプットだけでなく、アウトプットを同時に行うことは相当に有効なのだ。この点、資格試験は必然的にアウトプットを含む上に期間を区切って目標を立てて学習することになる。結果的に何かを身につけるのには非常に有効な方法であり、そもそもが資格試験とは本来はその様な事を目指すものなのではないか。資格取得という肩書はその結果として付いてくるものに過ぎず、重要なのはその出題範囲の内容を習得することにある。これが資格試験の2つ目にして、(多分)本来の意味である内容の習得である。

資格試験については、往々にして「合格する為のテクニック」が語られることがある。代表的なものとして「テキストは最小限にしてひたすら問題を解け」というものがあり、これはただ合格のみを目指すのであれば確かに効率的であるとは思うし、20代の内は実際にそれで良いと思っていた。しかし、今にして思えば果たしてそんなことで良いのだろうか。

30代の仕事をある程度続けて来て思うのが、単なる肩書・表面/表層的な理解が徐々に通用しなくなってきているということだ。20代の内は何かについて話すにも新書でさらった様な知識で話を合わせさえすればよかったし「資格を持っている」という事実だけで評価して貰えた。今は自分で資料を作って様々な切り口のQ&Aに対応したり、計量の為の書式をスクラッチで自分で作らなければならない。そうした場面では新書で触れる程度の知識では話にならず、「そもそも」を問われて分かっていることが求められる。その様な中では「ひたすら問題だけを解いて一夜漬けで合格した」様な知識は有体に言えば殆ど役に立たない。

またこの年になると仕事と別に転職という切り口でも、単に「資格を持っている」という事実だけでは基本的には殆ど意味を認められず、実務経験があることとセットで初めて評価される様になってきた。要は様々な場面で「肩書としての資格」は総じて意味を失いつつあり、求められる内容が内容を理解しているか、それを実務で使えるか、という点にシフトしてきた。こうなるとテキストを読み飛ばして問題を始めて出題パターンを暗記して試験だけ合格する、という行為にははほぼ意味が無く、極論受からなかったとしても内容は確実に理解しておけば有用であり、何となれば受験はせずにテキストとして使うだけでも良いくらいである。

今1X年ぶりに銀行業務検定の出題範囲、例えば財務3級を見てみると…

・社債
・株主資本等変動計算書
・貸倒発生時の処理の仕訳
・損益分岐点
・安全性分析
・資金運用表
・資金繰表


これは出来たら良いとか悪いとか合格対策がどうのこうのよりもむしろ、この辺の知識を持たないで銀行員やるの?という感じで、仮に自分が銀行窓口をするのであれば、何ぼ口先三寸で話が出来た所で資金繰り表が読めない担当からは金を借りたいとは思わない。あるいは今自分がこうした内容も踏まえて業務をできているのは何による所かを考えると、他に思い当たる所がなく、間違いなく今自分は1X年前のこうした貯金を踏み台にして生きており、これらが無かったら今どうだったろうと考えると結構恐ろしいものである。

長くなってしまったが、銀行業務検定は確かに資格としては持っている事による効果とか、「銀検ホルダー!」みたいな肩書には銀行から一歩出てしまうと多分殆ど意味が無い。が、そんな肩書や看板に頼ろうとしている時点で半分負けており、実質的にはそこで得た知識を実務で実践して付加価値を産める事で初めて価値があるのであって、その様な使い方ができるのであれば、大いに有用な資格であると言えると思う。要は役に立つか立たないかを決めるのは受験者・ホルダーの仕事ぶりであって「そんなもん役に立たないよ」と言うに至ってしまう事自体、自分は体系的な知識を活用した仕事ができてないことを大声で触れ回ってる様なもので、それよりは「いやこれ滅茶苦茶役に立つよ。こんくらい知っとかないと」と言える様な働き方をした方が良いんじゃないかなと思う等した。



 

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