スタンプカード
ピコン
「先輩!明日の日曜、映画いいですか?」
「あ、んー、うん、いいよ。」
「観たいの、もう決まってるの?」
「はい!」
「いま劇場版の『サスペンスと言う勿れ』を上映中なので、それがいいです!」
「あー、いいね」
「じゃ、また映画館の前に10時でいい?」
「それなんですけど」
「ん?」
「今回は、ちょっと遅めが嬉しいんですけど…ダメですか?」
「ダメじゃないよ。何時?」
「17時開始の回があるので、16時45分とかでどうですか?」
「結構遅いね、まあいいけど」
「ありがとうございます!」
「じゃあそれで!」
「うん」
先輩、か。
もう、何回目だろう。最初は確か…去年の年末だったか。
一人の映画館は心細いから、着いてきて欲しい…友達にキャンセルされちゃって…
確か、そんな理由だった気がする。
すると、翌月も、その翌月も…そのうち、理由なんか特に無くて、毎月の恒例のように、映画館へ行くようになった。
付き合っている訳でもないし、大抵は午前中の上映を見て、お昼を食べて、少しだけ会話して…ある儀式をして、解散。
今回は夕方か。
そういえば、食事、するのか聞けばよかったな。
◇◇◇
「面白かったですね!まさか最後に、あんなどんでん返しがあるなんて!」
「そうだね。夢中で見ちゃったなあ。」
「先輩、顔がマジでしたよ?」
「こら、勝手に観察するんじゃない」
「えへへ。先輩」
「ん?」
「いつもの!」
そう言って、頭をこっちに向ける。
ポンポンの要求。恒例の儀式。
「相変らすだなあ。本当に、俺なんかのポンポンで、安心できるの?」
「もちろんです!あの、先輩」
「ん?」
「スタンプカード、溜まりました」
「え?」
「ポンポンのスタンプカード、10回溜まりました」
「…そ、そうなんだ。10回目か、今日」
「はい!スタンプカードの特典は、なんですか?」
「なんですかって…え?」
「特典って、俺が用意するの?!」
めっちゃ見てる。めっちゃ見てくる。
「よし、この後ご飯…」
「むぅ!」
あ、すごく不機嫌そうな顔…
「…じ、じゃ俺たち…」
「はい!」
「付き合お…
付き合って下さい、お願いします」
「はい!じゃ、ご飯、行きましょ!スタンプカードの特典で、私がご馳走します!」
「…え?なに、どういうこと?特典って、さっき…」
「私は何も言っていませんよ!」
「え、だってさっき」
「私は『スタンプカードの特典は何がいいですか?』って聞いただけです!先輩が勝手に、私に告ったんです!」
「はぁ〜?!」
「今更驚いてももう遅いです!さ、ご飯行きますよ!レッツゴー!」
「…なぁ…このシナリオ、いつ考えたんだ?」
「シナリオってなんですか?」
「いや、この…」
「時間かかったんですよ?彼女はいるのか、とか、どんな人が好みなのか、とか、急に迫ったら嫌われちゃうかな、とか。」
「あぁ、それで毎回、軽く話して解散のパターンだったのか」
「はい!頭ポンポンでスタンプカード、溜まってると思わなかったでしょ?」
「…こら」
「え…怒りました…?」
「いいや、怒ってない。してやられた感はあるけど…」
「…あるけど?」
「かわいいから許す。ただし、飯は俺が奢る。」
「やった!でも先輩!」
「ん?」
「今日の先輩の奢りは、私の作戦じゃないですからね!」
「…じゃ他は作戦だったんだな。いつからだ。」
「映画館が不安なのも、友達にキャンセルされたのも、本当ですよ?チャンス!って思っちゃいましたけど」
最初からかい。