Mr.マクマホン:悪のオーナー
Netflixのドキュメンタリー『Mr.マクマホン:悪のオーナー』を観た。感想をBLACKHOLETVの『配信生活3』に投稿したところ採用いただいた。本記事はその投稿内容に加筆したものです。
WWEは、90~00年代、はまって観ていた。当時自分は最初サッカー(確かプレミアリーグ)を見るためスカパーに加入し、たまたまそこでやっていたWWE(当時はWWF)の番組を見て、「なんかすげえ(holy shit)」と一気にはまっていった。日本公演も見に行った。当時はビンスのキャラが好きで、来日してないことにがっかりしたものだ。そんなこともなつかしく見れるのかなと思い、観始めたのだが、ここ最近の周囲が想像以上に凄いことになっていることがだんだん分かってきた。
、今後Netflixが放映権を取得することが報じられていて、本作のドキュメンタリーはほとんどがビンスと周囲のインタビューで構成されている。Netflixは、宣材として使おうというもくろみだったと推察される。ところが、取材対象のビンスが性加害でWWEを追放されるという、まったく予想外の事態が起き、思わぬ方向に。。。
『はりぼて』や、『コレクティブ 国家の嘘』などもそうだが、取材を進めた結果、思ってたのと違う作品になっていく展開は、ドキュメンタリーの醍醐味であろう。本作もそれにあてはまる。
私が観始めた当時は、丁度「アティテュード時代」と呼ばれた時代で、ライバルのタイムワーナーのWCWとの視聴率競争もあって、内容がエクストリーム化していった(らしい)。そんな中でも、際立ってやはり当時輝いていたのが、悪のオーナーを演じるビンスだ。リングの内外で暴君としてふるまい、「お前はクビだ!」とレスラーに言い放ったり、女子レスラーにセクハラをしたり、あげく、レスラーの反撃でコテンパンにされたり。。プロレスすら進んでやっていた。本作では、演じている悪のオーナーを「Mr.マクマホン」、実際のビンスを「ビンス・マクマホン」と呼び区別している。が、最初は演じ分けて明確になっていたはずの虚実の違いが、演技のはずのセクハラが実は本当だったと明かされたりして、だんだんないまぜになっていく。しかし、本当に徐々にそうなっていったのか?本人の中で、徐々に分からなくなっていったのかと思いきや、このドキュメンタリーを追っていくと、どうもそうではないらしいことが分かってくる。かなり初期段階からそういう事件が起きていたのだ。じゃあ、キャラなんてものはなくて、「ビンス」と「Mr.マクマホン」は最初から一体化していたのではないのか。我々がビンスに惹かれていた正体は、ひょっとして「ホンモノ」のオーラだったのか…
本作は終盤に近付くにつれて、オーエン・ハートの死亡事故や、クリス・ベノワの心中事件など、人死にも出ていき、見ている方もだんだん鬱になってくる。が、それもひっくるめてWWE興亡史として見ても本作は十分面白い。自分はWWEしか見ていなかったので、当時WCWと抗争になっていたとは知らなかったし、エリック・ビショフやポール・ヘイマンがWWEに来たことがどんな意味を持つのかも知らなかった。
ただ、このアティテュードなWWE的なものが、トランプ大統領を生みだしたこともまた真実であり、それを思い出すたびに、なんとも言えない気持ちになるのは避けられない。トランプはこのアティテュード時代にWWEに出演し、WWE的な演出手法を学んだといわれているのだ。実際マクマホン家とも昵懇で、ビンス夫人のリンダも次期教育庁長官に就任とのことだ。今後アメリカはあの悪趣味なアティテュード時代に突入してしまうのか。それを我々は当時のように楽しむことができるのだろうか。