課題解決型の新規事業アイデアにおける「課題」の評価・見極め方
はじめに
デライト・ベンチャーズにおいて新規事業・起業家をどんどん生み出すベンチャー・ビルダー事業の責任者をしております坂東です。前回の記事では課題解決型の新規事業アイデアにおいてもっとも重要かつアイデアの起点となる「課題」の見つけ方についてご紹介しました。本稿ではその見つけた課題をどのように評価・見極めるのかをご紹介したいと思います。
弊社のベンチャー・ビルダーにおいても多くの起業家候補(EIR)の方々からたくさんの新規事業アイデアの提案を受けており、そのアイデアの中にはもちろん「課題」についても記載されていますが、初回提案では9割以上が課題の設定・捉え方が不十分・不適切であることが実態です。
課題解決型のサービスは、課題を解決するサービスです。解くべき課題(ターゲット含む)が適切に設定されていないと、それを解決するサービスもずれて適切なサービスになりません。よって、その先のプロダクト開発や事業拡大をする前にまずきちんと課題を捉えて設定する必要があり、起業家候補(EIR)とは時間をかけてこの課題の設定について深く議論しています。
それでは、我々がその課題設定の評価・見極めを行う上でのポイントをご紹介していきます。
(1)課題が顧客のありたい姿に即しているか?
課題と思われるもの(課題の仮説)が、対象となる顧客・ターゲットにとって「あるべき・ありたい姿」に向かうために解決・克服すべき課題となっているかどうかがポイントです。
ありたい姿があって、なんとしてでも達成したいという強い想いがターゲットにあれば、それを阻害する課題は何としても超えたいハードルとなり、お金を払ってでも解決したいためビジネスとして有望と考えられます。
逆に確かに面倒で課題だとは言えるけど、ありたい姿とはあまり関係のない課題であれば、ターゲットにとってそれを解決したいというモチベーションは低く、素晴らしいソリューションを提供できたとしても意味をなしません。
例えば、部活動でチームが強くなることを目的として部活動アプリをサービス展開する場合に、部費の徴収について課題設定をしたりすることは、ありたい姿に即してどうしても解決したい課題ではなく、初期のプロダクトに盛り込むべきものではないでしょう。
また、ソリューションありきのアイデアだったり、競合との差別化を図る目的で課題設定している場合も、ターゲットのありたい姿からずれた課題設定をしていることが多く見受けられますので、ターゲットのありたい姿に即しているかどうかはまず一番にチェックしていただきたいポイントです。
(2)課題は顕在化しているか?
課題だと思われることが、実は潜在的だったり希望観測的なものであることもよくあります。潜在課題は、ターゲットに認識させるために啓蒙工数がかなりかかってしまいますし、ファジーまたは存在しない課題を希望的に設定しているケース(特にソリューションありきの案の場合に多い)も多いです。
その課題が本当に存在しているかどうかを説明できるか?ということは重要なポイントです。つまり、その課題に悩んでいて、解決策を喉から手が出るほど欲している人の存在が確認されているかどうか?ということをチェックしましょう。
この顕在化を確認するための方法ですが、想定ターゲットにヒアリングして欲しいかどうかの希望や課題の有無を漠然と確認するのではなく、解決するためにお金を払ったり工数をかけて行動しているかどうか確認することです。課題を金額換算できると課題の顕在が説明しやすいです。そこに対してより優れた解決策を提示できれば良いビジネスになる可能性があります。
この顕在課題を抱えていて喉から手が出るほど解決策を探している人は初期のコアターゲットとなりサービスの立ち上げにおいてはエバンジェリストになってくれます。しっかり彼ら彼女らの課題を理解することが肝要です。
(3)課題が大きいか?
新規事業案のピッチ資料でTAM(Total Addressable Market)等の市場規模を示し、ビジネス規模としての魅力度をアピールすることが多いと思いますが、厳密にいうと対象となる市場が大きいだけでは十分ではありません。市場が大きくともそのサービスで解決する課題が小さいとビジネスの価値も大きくならないからです。
大きなビジネスにする上で課題の大きさは非常に重要なポイントです。どんなに素晴らしい技術やソリューションを提供したところで、課題の大きさの範囲内でしか価値は提供できません。大きな課題の大部分を解決できれば大きな価値を提供でき、それがビジネスの収益につながります。(もちろん大規模を目指さない新規事業もあって良いとは思いますが、大きなキャピタルゲインを目指す我々ベンチャー・キャピタルはこの点を重視しています。)
それでは課題の大きさはどのように確認すれば良いでしょうか?課題の大きさを金額換算して具体化するには以下を算出すると良いでしょう。
①②を課題の因数分解された各要素である「1回あたりの課題の大きさ」「発生頻度」「対象人数(社数)」などを足したり掛け合わせたりしてボトムアップで算出してみるのです。下記は、企業における特定業務の無駄工数だったり、個人が目標を達成するために時間や工数を割いている場合の例です。
金額換算が難しい課題もあるでしょう。そのような場合には、課題設定が抽象的すぎて直接的に解決するのが難しいものかもしれないですし、そもそも課題が存在しない懸念もありますので注意が必要です。
(4)課題設定のレイヤー・粒度が適切か?
課題の設定が上位概念的であったり抽象度が高い場合は、その課題範囲が広く・ファジーでフィットする解決策を見つけることが難しいです。特にソリューションありきで後から取ってつけたように課題設定したアイデアでこのような上位概念的な課題設定がされることが多いです。
逆に細分化されすぎていれば具体的に課題をとらえられているものの、上述の通り課題の大きさが小さくビジネスとしての魅力が無いということになってしまいます。
適切なレイヤー・粒度での課題を設定するためには、「なぜ」を掘り下げて因数分解して具体化をしたり、課題群を共通グルーピングして抽象化し「解決できる」普遍的な共通項を探します。前述してきた通り、課題の顕在化・課題の大きさも意識しながら設定することが求められます。
このような整理・調整をすることで適切なレイヤー・粒度で課題設定してそれを解決するソリューションを考えるのです。
(5)課題の列挙・掛け合わせをしていないか?
ターゲットが解決したい課題の仮説はヒアリングやアンケートをすると、いくらでも出てくるものです。しかし、いきなり複数の課題をいくつも解決するのではなく、一番解決したい課題は何かの優先順位をつけて絞ることがポイントです。
仮に複数の課題を列挙したり掛け合わせをしてサービス案を考えて初期プロダクトをつくったりすると、課題の顕在化や課題の規模感の確認やその課題を解決するソリューションの提供価値の検証も非常に複雑になります。
事業の成長に伴って、課題対象を増やしていくことは問題ないですが、初期は課題の優先度をつけて絞って検証することが肝要になります。
(6)ソリューションがないことを課題にしてないか?
「◯◯◯なソリューション手段が無い」こと自体を課題と設定する人も多いのですが、これはコインの裏返し的なもので、「あるべき姿」に到達するための真の課題でない場合が多いので注意が必要です。
ソリューション自体は適切でも「課題設定としては誤っている」例としては以下のようなものでしょう。
もちろん、このような課題設定をして事業として成功する可能性がないわけではありません。上述した通り、想定ターゲットが何とかしてありたい姿に向かうために工数やコストをかけている顕在課題があるのであれば、そういう解決手段がないことを課題と設定することは間違っていないでしょう。
まとめ
以上のように、課題解決型の新規事業アイデアにおいて最も重要な「課題」設定の評価・見極め方を簡易的にポイントを絞ってご紹介しました。
もちろんこのようなチェックを経ずとも成功する事業もありますし、これらの見極め方法が万能だとも思っていませんが、「そもそも顧客ニーズがなかった(小さかった)」「解決できる課題ではなかった」という失敗を避けやすくするフィルターにはなるかなと思います。
また、これらを概念的に理解しても、自身が新規事業アイデアを考える際にはなかなかこのような視点で向き合うことは難しいことが多いのも事実です(どうしてもソリューション起点でアイデアを考えてしまい課題は後付けになりがち)。
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