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東京オリンピック展示林 家庭学校のひとつ森

 北海道家庭学校には、1964東京オリンピックに由来する展示林があり、この森で育った樹木が2020東京オリンピックで活用されました。


東京オリンピック

 1940年(昭和15)に東京で開催される予定であった夏季オリンピックの開催権は、日中戦争(支那事変)の勃発や、物資や兵士を取られる軍部の反対など により日本政府は返上し実現には至りませんでした。第二次世界大戦終結9年後の1954年(昭和29)に1960年(昭和35)夏季大会開催地に立候補しローマに敗れた後、1964年(昭和39)開催の第18回夏季オリンピックが東京で開催されることとなりました。
  93の国・地域が参加した1964年東京オリンピックでは、国土緑化推進委員会(現 : 国土緑化推進機構)がオリンピック参加各国と樹木種子の交換を企画しました。その呼びかけに応えた44ヶ国から272種類の種子が集まり、育成のために日本各地の林業試験場に送られました。その中の北方系の樹木の種子は、北海道林業試験場で幼木まで育てられ、1968年(昭和43)5月に北海道家庭学校敷地内(礼拝堂から200m程奥)に植樹(4ヶ国10種)されました。

北海道家庭学校鳥瞰図

樹木展示林に植樹された樹木名

・ダグラスファー   (カナダ産)
・シトカトーヒ    (カナダ産)    
・ヨーロッパトーヒ  (カナダ産)   
・ヨーロッパ赤松   (ブルガリヤ産)
・ヨーロッパ赤松   (フィンランド産) 
・ロッチボールパイン (アイルランド産)
・ルーベントーヒ   (アイルランド産)  
・メタセコイヤ    (アイルランド産)  
・コルシカマツ    (アイルランド産)
・モンタナマツ    (アイルランド産)

東京オリンピック記念 樹木見本園

 1964年(昭和39)東京オリンピックで集められた44ヶ国から272種類の種子の中、4ヶ国10種は家庭学校の「樹木展示林」となりました。残りの34ヶ国262種類の樹木の中、現況が明らかになっているのは、東京の代々木公園内(原宿駅から徒歩3分)にある「東京オリンピック記念 樹木見本園」だけのようです。

樹木見本林解説表示パネル

 代々木公園は、「大名・旗本屋敷」→「陸軍代々木練兵場」→「在日米軍兵舎・家族用住居」→「オリンピック選手村」でした。これが整備され、1967年(昭和42年)に代々木公園として開園しました。
 代々木公園には、各国の選手が利用した宿舎の一つ(オランダ選手宿舎)が、東京オリンピックを記念して保存されています。その建物に向かって左奥に「見本園」があります。

東京オリンピックオランダ選手宿舎

 林業試験場で育成された22カ国・24種の苗木は、1967年(昭和42年)に代々木公園に植えられました。なお、「東京オリンピック記念 樹木見本園」では、現在、10種30本のみが確認できるようです。
 東京オリンピックで集められた44ヶ国から272種類の種子の中、4ヶ国10種は北海道家庭学校樹木展示林に、22カ国24種は東京オリンピック記念樹木見本園に、残りの18カ国238種・関東以南の南方系樹木の種子かと思われる樹木の行方は不明です。

東京オリンピック記念 樹木見本園の樹木名

・チョウセンモミ    (韓国産)
・セイヨウカジカエデ  (旧東ドイツ産)
・クロハンノキ
・オウシュウシラカンバ (旧セイロン産)
・シラカンバ
・ハナミズキ
・セイヨウミズキ    (ルーマニア産)
・オウシュウブナ    (イギリス産)
・マルバトネリコ    (シラク産)
・トキワセンダン    (パキスタン産)
・オウシュウトウヒ   (トルコ産)
・シトカトウヒ     (アイルランド産)
・コントルタマツ    (カナダ産)
・ヒマラヤゴヨウ    (アフガニスタン産)
・ニセアカシア     (イタリア産)

試験伐採と種子採取

 遠軽町は家庭学校展示林の木々を東京オリンピック2020・パラリンピックで活用(表彰台や聖火用のトーチに、選手に配るうちわに、等のアイディア)することを検討し、2017年9月30日には、材質を確認するための試験伐採(2本)と種子採取を行いました。

伐採方法の説明
種採取についての説明
種採取についての説明 2

東京オリンピック2020

 2021年(令和3)東京都などで第32回オリンピック競技大会が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行を受け2020年の開催日程から1年延期して開催されました。開催年は2021年ですが「東京2020」の名称に変更はありませんでした。

展示林の樹木で作成したオリンピックリングス
遠軽町/1964東京オリンピックゆかりの木より

 開会式の直径4メートルの5つの輪が「家庭学校展示林」で伐採材から作られました。また、日本オリンピックミュージアム 1Fの壁材や椅子等にも展示林材が利用されました。

日本オリンピックミュージアム 1F
1964東京オリンピックゆかりの木プロジェクト より

資料

1968年(昭和43)六月一日発行『ひとむれ』第三〇五号

『展示林樹苗受く』
 東京オリンピックの際、各国選手が国の代表的樹木の種子をはるばる持参、それを育苗中であることは世間一般にはあまり知られていない。四月二五日道庁の馬渕氏が来訪された時、北海道として、この記念樹をどこへ植えたら各国選手の好意を顕示出来るか苦慮しているとの話があった。博物館には樹木の見本、展示林には十種類が植樹され、造林への関心の高いことに感銘を受けたと感想を述べられた。あらゆる部門から参観者のあることが知られて、ここの土地に適するものを十種類いただき一部は展示林に一部は育畑に移植した。
      記
ダグラスファー   カナダ産
シトカトーヒ    カナダ産
ヨーロッパトーヒ  ブルガリヤ産
ヨーロッパ赤松   フィンランド産
   同       スエーデン産
ロッチボールパイン  アイルランド産
ルーベントーヒ      同
メタセコイヤ       同
コルシカ松        同 
モンタナ松        同

『サナプチ日記(五月)』
一・曇 早朝秋葉・横山先生はトラックにて出発。野幌の農林省林木育種場光珠内の北海道林業試験場におもむき東京オリンピックの際外国選手の持ち来たった種子より育苗せる樹種一〇種類を受取る。 
(北海道家庭学校機関誌『ひとむれ』第305号〔昭和43年6月1日発行〕から引用)

家庭学校敷地内に、東京オリンピックゆかりの「樹木展示林』

オホーツク野人クラブ
河原英男 1)

 あまり広く知られていませんが、遠軽町留岡34番地にある「北海道家庭学校」の裏山、通称「平和山」の麓に、1964年東京オリンピックゆかりの「樹木展示林」があります。
 東京オリンピック開催にあたり、国土緑化推進委員会(現国土緑化推進機構)が、東京五輪の参加国に、それぞれ自国の代表的な樹木の種子の寄贈を要請し、44カ国から272種類の種子が集まりました。
各国選手団が持ち寄った種子のうち北方系の樹種は、野幌・光珠内にあった当時の農林省林木育種場・北海道林業試験場で発芽させ幼木まで育てられました。
 1968年(昭和43年)4月25日、家庭学校を訪問した馬淵冬樹(当時北海道林務部課長補佐)氏が「この記念樹をどこに植えたら各国選手団の好意に応えることができるか苦慮している」と語ったことが、当時の「ひとむれ」に記されています。また、「この年の5月に、家庭学校から秋葉先生と横山先生が幼木を受け取りにトラックで駆けつけた」とも記録されています。苗木は全道各地に贈られましたが、詳細は不明です。
 展示林は約、1.3haでマツ科のトウヒ類など海外産とみられる樹木が、現在6種類160本確認されています。家庭学校の正面玄関前にあるメタセコイヤもゆかりのものかと思われます。
 北海道家庭学校は、教育農場として堅固な土台を構築するまでに長い年月が流れ、その道程は決して平坦ではありませんでしたが、苗木が届けられたこの年の3月、厚生省(当時)の認可を受け、社会福祉法人として経営主体を東京家庭学校と上水保育園を運営する法人から完全に分離・独立した節目の年でした。理事長には留岡清男氏が校長兼務で就任し、翌年には校長職が留岡清男氏から谷昌恒氏に引き継がれ不思議な縁を感じます。
 ちなみに、2020年開催の東京オリンピックに向けて、展示林の樹木を活用すべく、遠軽町が検討会議の設置を呼び掛けて家庭学校、オホーツク総合振興局、網走西部森林管理署などが参加して協議が開始されています。また、展示林の樹木を次の世代に継承させるために、マツカサ(マツボックリ)採取を町内の小学生 2)が参加して実施されました。やがて、その種子から発芽、成長した苗木を植樹することも計画されています。これぞ、レガシーの継承ですね。 

1) 河原英男 (2006-2024遠軽町教育長)         
2) 瀬戸瀬小学校全校児童11名が参加(令和3年3月31日廃校) 

writer Hiraide Hisashi


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