香りと記憶
あなたは香りと聞いたらどんな物を思い浮かべますか?
香りは私たちの鼻を通じて脳の海馬と扁桃体という領域に
直接アクセスし、そこで記憶や感情と強く結びつきます。
そのため、特定の香りが過去の経験や感情を呼び起こすことができるのです。
私が思い出せる一番遠い香りの記憶。
それは私がまだ幼かった頃
家から10分ほど歩いた場所に大きなイチョウの木があって
その木の下に黄色い落ち葉と一緒に銀杏が落ちていた。
銀杏は強烈な臭いを放ち
母に手を引かれてそこを通るたびに鼻をつまんだり
小走りに歩いたりした記憶がある。
いまでは落ちている銀杏の匂いを嗅ぐことはなくなったけど
きっと同じ匂いを感じた時その幼かった時の
ことを思い出すでしょう。
小学校の頃
放課後いったん家に帰ってランドセルを置いてから
友達の家へ行くことも友達がくることもあった。
友達の家に行くと必ずいつも同じ匂いがした。
それは他の友達の家に行ってもそうだった。
「その家の匂い」である。
家にはそれぞれその家庭の匂いがある。
好きとか嫌いとかではなくて
その家独特の匂い
それからだいぶ経ってからその友達の家へ行った。
そうそう、この匂い
〇〇ちゃんちの匂いだ。
友達の家の匂いは、楽しい思い出とともに
いい匂いとして記憶されているんだと思う。
高校生の時
初めて人工的な香りと出会った。
フレグランスである。
仲のいい二人の友だちと買いに行った。
国内の某有名化粧品メーカーのもので
若い女の子をターゲットにしたオーデコロンで
シリーズで何種類かの香りがあった。
みんなでそれぞれ違う香りにしよう。
最初に選んだ友達の香りは中でも一番人気で
確かにいい香りだった。
香りの好みすらまだわからなかった私ともう一人の友だちは
残りの中から選んだ。
家に帰ってつけてみたけど
どうもその時に感じた香りとちょっと違った。
それでもせっかく買ったものだから
出かける時とかに使っていた。
ある時その友達3人でいた時
ねえ、ちょっと匂いキツくない?
一番最初にオーデコロンを選んだ子に
もう一人の子が言った。
確かにいい匂いなんだけど
そう・・・つけ過ぎ
それでみんな気がついた。(私もそうかも)
フレグランスの付け方をちょっと学んだ瞬間だったのかもしれない。
そうやって香りとの付き合い方を覚えていくんだろう。
19歳くらいの頃
大学の近くの珈琲館でバイトをしていた。
そこは山小屋風のちょっと雰囲気のあるお店だった。
その店の姉妹店ですぐ近くにある大きな店があった。
そこも珈琲館ではあったが軽食やスイーツも充実していた。
1階から3階まであって
いつも混んでいた。
そこの店でスタッフが足りなくなると
うちの店から応援に行かされた。
そこのビルの地下にパブがあって
そこにピアノだったかエレクトーンだったかがあった。
楽器はあるけど弾く人がいないから
ちょっと弾いてくれないかと
パブのマネージャーに言われて
何回か弾いた。
当時私はその近くにある音大の学生だった。
そのマネージャーはキザを絵に描いたような人で
なんの香水を付けているのかは知らないけど
プンプン香りを撒き散らしていた(笑)
ハタチ前の小娘から見たら
いつもビシッとスーツを着てた優しいおじさんだったけど
今思い出すとけっこう若かったのかもしれないなあ。
仕事は30分曲を流して30分休憩
それを3回
休憩の時はお客さんたちから
何か食べ物や飲み物を奢ってもらえる。
けっこうおいしいバイト(笑)
そこのバイト代は珈琲館のバイト代とは別に
そのつどそのマネージャーから手渡しでもらっていた。
「ねえねえ〇〇ちゃん。今度〇〇ちゃんいつ入るの?って
よくお客さんから言われてるんだけど
またどこかで入れない?」
「はあ。バイトない日ならいいですけど」
正直、やっと受験から解放されて友だちと遊ぶのに忙しい10代は
あまり乗り気ではなかったけど・・・。
それでもその後も珈琲館でバイトしてる間
半年〜1年くらいの間たびたび弾きに行っていた。
そのあと、電車だか街のどこかでマネージャーと同じ香りが
した時すぐにその時の場面と会話まで一瞬にして甦った。
香りが特定の人物とその場面を一緒に記憶の中に刷り込ませたのでしょう。
大人になってから
新宿だったか渋谷のデパートの一階のコスメ売り場を通った時
どうぞ〜!って言ってフレグランスを短冊のような紙(スプレーテストペーパー)に
1プッシュして渡された。
CHANELの売り場だった。
CHANELは母親の使うドレッサーにいくつかあったけど
どれもみんな香りが私にはキツくて
おばさま専用フレグランスのイメージが強かった。
紙にスプレーしてもらったオーデコロンは
やっぱりそれほど好きな香りじゃなかった。
それをバッグの内ポケットに入れたまま忘れていた。
それから数日経ってそのバッグを使うために
バッグを広げた途端にものすごくいい香りがした。
なんだろう。
そうだ!あの時のだ。
トップノートでもミドルノートでもなく
ベースノートの香りが立つんだ。
フレグランスは3つのノートから構成されていて。
トップノートは最初に嗅ぎ取られる段階で感じられる香り。
ミドルノートはトップノートが収束すると感じられる香りで
トップノートよりも長く続き、香水の中心的な香りを形成する。
ベースノートは最終的に落ち着く段階で感じられる香りで最も持続力があり
長時間香り続ける。
今までいくつかのフレグランスは使っていたけど
これだ!って思う物に初めて出会った気がした。
そのあとすぐに買いに行った。
もうそれから何本買い足しただろう。
CHANELの「ALLURE」
今も時々ほんの少量をつけているけど
これはいろんな人から
すっごいいい香りだけど
なに使ってるの?とか
すれ違った時にほんのりいい匂いがした。
って言われることがものすごく多い。
私はスプレーでつけることはまずない。
ロールタイプのアトマイザーに入れ替えて
手首やひじの内側
あるいは膝の裏や足首にちょこっとつけるだけ。
フレグランスは自分だけが楽しめる量がちょうどいいのかもしれない。
家の中でも
柔軟剤や洗剤。芳香剤。アロマディフューザー。お香。
周りにいろんな香りがあるけど
どれも香りとは上手に付き合っていきたいと
思っている。
あなたの記憶に残る香りはなんですか?