【まとめ】デュアルモメンタム検証からの学び
これまでの検証結果から得られた知見、自分の戦略への応用を考えてみます。
デュアルモメンタム戦略の特徴と傾向
様々なバリエーションのモデルを見てきた中で確認された、デュアルモメンタム戦略の基本性質であると思われる特徴や傾向をまとめます。
まずは強みから見ていきましょう。
強み①:勝ち組銘柄を正しく選択し、正しいタイミングで乗り降りできる
慎重に銘柄のユニバースを選び、必要な集中化やレバレッジを行えば、デュアルモメンタム戦略は勝手にその時の相場で最も良い銘柄を選択します。これは主に相対モメンタムの強みですかね。
成功したモデルのバックテストでは、上昇トレンドに適切なポイントで乗り、モメンタムが消失するまで正確にフォローし、下落トレンドでは適切なポイントで銘柄の乗り換えやキャッシュへの逃避を行うことができていました。
これはトレンド・フォロー戦略の一般的な強みでもありますが、「適切なポイント」がさらに重要な点です。12ヶ月という中長期のパフォーマンスを横比較することで、一貫したモメンタムが固まった時点でエントリーし、相対的にモメンタムが落ちた時点で手仕舞いしもっと良いモメンタムを持つ銘柄に乗り換えるため、機会損失とディスポジション・ロスを最小限にする仕組みが備わっているということです。
言い換えれば、相対モメンタム戦略は、トレンド・フォロー戦略における銘柄選定・仕掛け・手仕舞いの仕組み化と高精度化を実現するもの、と言えます。
強み②:暴落相場で資産を守る
デュアルモメンタム戦略は、主に絶対モメンタム・フィルターの特性により、持続する深刻な下落相場ではドローダウンを最小限にすることで資金を維持します。これは、次の上昇局面で複利効果を最大にする作用を発揮するための重要な要素です。
また、瞬間的な調整のタイミングでは、中期モメンタム計測の仕組みとトレード頻度の制約により、トレーダーが陥りがちな、恐怖に左右された過剰反応による狼狽売りを避けることができます。これは、典型的な行動バイアスを避けることでこの戦略にエッジを生み出します。例えば、この記事を書いている6月最終週には、これまでの相場を牽引してきた半導体株が-5%以上の下落を見せていますが、これは果たして、半導体株がモメンタムの頂点から反転しようとしているのか、それとも瞬間的な下落調整にすぎないのでしょうか。モメンタムモデルに従えば、現時点では後者と判断されそうです。
クライシスで最大効果を発揮するという特徴は、2008年~2009年の世界金融危機を含むモデルで一貫して現れていますし、ドットコム・バブルや1987年のブラック・マンデー、1970年代の長期株安時代を対象に含む先行研究でも一貫して示されているデュアルモメンタム戦略の大きな特徴です。
一方で、最大2~3ヶ月程度の時間軸で発生する、急下落と急回復のコンボ(例えば2020年のコロナショック)の際には弱点としても作用してしまいます。
強み③:主観や相場感に左右されずにシステマティックにトレードができる
(私のような)多くのアマチュアトレーダーにとっては非常に重要なポイントではないかと思います。というかプロであっても、完全な当てずっぽう投資で平均を超える実績を出している投資家はいません。勝てる戦略やポリシーを持つことが、どんなトレーダーにとってもハイパフォーマンスへの出発点となるはずです。枠組みがなければ規律もありえません。
さらに言えば、デュアルモメンタム戦略を採用するのに高度な数学を理解する必要も、プログラミングを学ぶ必要もなければ、何百社もの企業の決算書を読み込んでファンダメンタルズを研究する必要もありません。経済ニュースに毎日触れて相場感を練り上げるのは悪いことではないはずですが、それに反応してモデルが出すシグナルを無視しては意味がありません。
そういう意味では、この戦略の真のエッジが何なのかを深く考え抜く必要はあれど、単に取り組みを始めるには、ほとんど制約はないはずです。
個人トレーダーが採用しやすく、統計的に裏付けが取れているシンプルなシステムトレード戦略としては、最もとっつきやすいものだと言えます。
次に、特徴的な弱みを見ていきましょう。
弱み①:市場の急落と急回復のコンボに弱い
多くのモデルで共通して見られた特徴として、2008年~2009年金融危機は回避できているが、2020年コロナショックでは大きく食らってしまっている、という事実がありました。
標準的なデュアルモメンタム・モデルにおける「12ヶ月間モメンタムを計測して月に1回トレードする」というメカニズムの性質により、実際の相場状況に最低でも1ヶ月以上遅れて反応することになってしまいます。したがって、コロナショックのように、3~4週間で-30%以上も急激に暴落したあと、1~2ヶ月で急激に戻すような相場では、思いっきりその弱点が突かれてしまいます。
このようなケースに対応できる緊急回避プランを戦略に組み込むか、諦めてポートフォリオの別の部分でカバーするかは、各投資家の判断次第だと考えます。
弱み②:市場のボラティリティが高い時期には頻繁にダマシのシグナルを出す
これは特に、ユニバースに幅広い投資対象を含む場合のデメリットです。2016年の変動が激しいゴールド相場に反応して、現在まで回復できないレベルの損失を出したモデルがありました。
標準的なデュアルモメンタム戦略では、完全にリアルタイムなトレンドフォローは困難なので、必然的にこのようなことが起きてしまいます。
対策としては、まずはユニバースに含める銘柄を慎重に選ぶことだと思います。一貫したパフォーマンスのサイクルが期待できない銘柄を排除すること、いっときの流行で作られた銘柄を選ばないことは必須です。
さらに、カントリーレベルまたはセクターレベルなど、より上位レベルで銘柄選定のフィルターをかけることも検討すべきです。
弱み③:市場全体との相関が高い
今回検証した36のモデルのうち、ベンチマークであるS&P500を超えるパフォーマンスを出したモデルの相関係数(対S&P500)は58%~90%というものでした。特にシングル・ホールドのモデルでは、S&P500とほぼ同じタイミングで上げ下げするので、S&P500に連動するETFと同時に稼働させる意味は一切ありません。
デュアルモメンタム戦略を採用する場合、ポートフォリオの他の部分には、基本的にはS&P500と無相関または逆相関する資産を持っておかなければ、リスクの低減は出来ないことになります(つまりリターンを減らすという意味です)。
トレードルール設計の要点
今回の検証結果から得られた戦略設計の要点を整理します。
記録に残していないティンカリングの結果も含んでいますが、参考にされる際は必ずご自身のモデルでバックテストされることを推奨します。また、過去のパフォーマンスが必ず将来に再現される保証はない点、改めてご留意ください。
ルックバック期間は12ヶ月を選ぶ
3ヶ月、6ヶ月、24ヶ月、36ヶ月と変化させて確認してみましたが、パフォーマンスが良くなるケースはほぼありませんでした。先行研究の通り、12ヶ月が今のところベストです。ルックバック期間から直近1ヶ月の実績は除外する
除外しない場合、多くのモデルでリターンもドローダウンも大きく下がりました。特にレバレッジありのパターンで減少幅が顕著です。
これは、「短期的には市場は平均回帰する」という普遍的な相場の性質により、ダマシのシグナルに引っかかるトレードが増加するためと考えています。ストップロスは(理論上)置かない方がよい
ストップロスを置くと、ほとんどのモデルでパフォーマンスが大幅に悪化しました。レバレッジなしのパターンでは、リターンをわずかに下げながら最大ドローダウンを半分程度にできるモデルもありましたが、使うかはほぼ好みの範囲と思います。
とはいえ、リターンを多少犠牲にしてもストップロスは置きたいと思う場合(私もです)は、買値から10%下に置くのが一般的には良さそうでした。ただしレバレッジありの場合は、大幅に成績が悪化するケースが多かったので、個別に検討するべきです。
より重要な問題は、ストップロスよりもユニバースの選定だと考えています。トレード頻度は月に1回にする
頻度を週に1回にする場合、多くのモデルでパフォーマンスが悪化しました。ただ、いくつかのモデルではパフォーマンスが若干向上するケースもありました(MSR-1, MSR(L)-1, など)。これがなぜなのかははっきりしません。
頻度を2ヶ月に1度や四半期に1度にする場合も、多くは悪化しましたが、いくつかのモデルではパフォーマンスが向上しました。ただし、劇的に改善するケースは見られなかったので、月に1回を選ぶので問題ないと今のところは考えています。モメンタムの計測では「直近12ヶ月のトータルパフォーマンス」を見る
他のものに変えてもパフォーマンスはほとんど変化しなさそうでした。今回は12ヶ月のトータルパフォーマンスのみでモメンタムを判定するロジックとしましたが、AQRの調査や『アルファ・フォーミュラ』で使われている直近12ヶ月・6ヶ月・3ヶ月のトータルパフォーマンスの単純平均や、直近12ヶ月の月平均パフォーマンスの単純平均、近い時期や遠い時期に重みをつける加重平均で、銘柄選定が変化しそうか多少試してみましたが、ほとんど変化しませんでした。
したがって、今のところは、モメンタムの計測方法を最適化する必要は無さそうです。一貫したパフォーマンスサイクルが存在する銘柄のみをユニバースに選ぶ
これがいちばん重要だと感じます。例えばコモディティや一部のカントリーETF、特定のテーマETFは、短期間にボラティリティが急激に変化したり、ある一定の期間だけパフォーマンスが飛び抜けていたりする傾向があります。デュアルモメンタム戦略がインデックス連動ETFやセクターETFでは機能しやすく、個別銘柄では難しい理由もここにあると思っています。
ある時点で一貫したパフォーマンスサイクルが確認できない銘柄を使う場合、カントリーレベルやセクターレベルなど、より上位レベルのモメンタムが優れているかを確認した上で、使うかどうか決めるべきだと考えます。
デュアルモメンタムは絶対的に良い戦略なのか?
投資とは、世界中の最も優秀な人たちがあらゆるリソースを駆使して全力でパフォーマンスを競う、地球上で最もハイレベルなゲームです。
過去100年以上にわたって、最上級の投資家や研究者たちが聖杯を探してきました。彼らが世に発表した、または非公開としているあらゆる投資戦略と比べても、デュアルモメンタムは優れた戦略だと言えるでしょうか。
下記は、アメリカの代表的な投資家・ファンドマネジャーたちの長期パフォーマンスです。
トレンド・フォローにバリュー投資、グローバル・マクロと、投資スタイルは様々ですが、およそ十数年以上にわたって10%台後半を越える年平均リターンを叩き出すと、上記のような伝説的な投資家リストに載るレベルの成績だと言えます。
私の検証結果の中で最も良い成績は、年平均29.6%を11年継続したというものでした。上の表で言えばリチャード・ドライハウス(30%を12年)、ピーター・リンチ(29.2%を13年)、エドワード・ランパート(29%を16年)などと近いパフォーマンスです。
期間を無視すれば、ウォーレン・バフェットやポール・チューダー・ジョーンズをも上回っていることになります。
これは出来すぎでしょうか?
机上で検証することと実際にトレードを執行することは全く異なるので、現実が理論値を上回ることは実際はありえないでしょう。現実の11年間のトレード生活の中では、気まぐれにシグナルを無視して買ったり、暴落の恐怖に飲まれて売ったり、周りの情報や雰囲気に流されて戦略を無視したトレードしてしまうこともあるでしょう。バックテストや先行研究で明らかになっていない、未知の戦略の欠陥も見つかるはずです。
トレードの執行スキルは日々磨いていくしかないので、まず大事なのは、理論上最も良いはずだと信じることができる、明快かつエビデンスのある戦略を持つことだと考えています。
その意味では、デュアルモメンタム戦略は、私のようなアマチュアトレーダーが自分の手で検証することができ、複雑な統計もプログラミングも熟練の勘も必要としない中長期のトレード戦略の中では、最上位クラスではないかという気がします。
FAQ
ドキュメントを書いたら聞かれる前にFAQを付けろと教わったので、その規律に沿って、以下に仮想の質問と回答を載せておきます。
Q. この戦略のエッジ(優位性)は何なのか?
A. 基本的には投資タイミングに相対的な優位性があると考えています。具体的には「戦略の特徴と傾向」のセクションで見た通り、銘柄選択の精度とタイミング、下方リスクへの防御性、投資行動の一貫性(によるミスの発生回数の低下)にエッジがあると思います。
【MSR】や【TIAi】では「銘柄選択の精度」を高めることで更にエッジが生まれ、【CRA】は「下方リスクへの防御性」のエッジを更に高めると考えています。レバレッジをする場合はそれらを更にドライブしつつも、「投資行動の一貫性」によって一般的なレバレッジ投資のダウンサイドを緩和するような優位性が生まれていると、現時点では理解しています。
Q. この戦略の反対側には誰がいるのか?
A. デュアルモメンタム戦略は、すべての投資機会を正確に捉えることを目指す戦略ではありません(むしろ入口と出口で1ヶ月以上のタイムラグを持つ)。
上昇局面では、我々より早く上昇銘柄を掴んで、早期に利確したいスイングトレーダーが合理的な売りサイドにいるでしょう。彼らは正しく、ただデュアルモメンタム戦略とは投資のタイムラインが異なるだけです。ある意味では、彼らがキックしたはずみ車に我々は乗るわけです。
リバランスをしなければならないファンド・マネジャーもこのサイドにいるでしょう。彼らも正しく、我々とは投資の目的が異なります。
非合理的な売りサイドには、数日間や数週間モメンタムが続いただけで"天井"を感じてしまう繊細な短期トレーダーや、特に考えのない一般トレーダーも多くいるのかもしれません。
イグジットの場面では、典型的なイナゴ投資家が非合理的な買いサイドに多く出現するはずです。この場面における合理的な買いサイドというものは、ちょっと想像がつきません。
下落局面では、まさにこの時のための保険として債券を保有していた60/40戦略の運用者や、保守的な資産運用が義務付けられる年金基金などの機関投資家が合理的な債券売りサイドにいるでしょう。株の買いサイドには、行動が早すぎる逆張りトレーダーや、単なるギャンブラーもいそうです。彼らが正しい場合も往々にしてあるはずです。
イグジットの場面では、遅きに失した空売りトレーダー、あまりに遅すぎる一般トレーダーが債券の買いサイドにおり、前回の上昇局面で手仕舞いし損ねた"やれやれ売り"の投資家が株の売りサイドにいることは想像がつきます。
端的に言うと、デュアルモメンタム戦略の反対側には、我々より賢く、最高の準備のもとでトレードを執行した者がいて、同時に、我々よりテンポの遅い(または早すぎる)、一貫した投資行動をしない者がいます。
デュアルモメンタム戦略は、これらの両極端の中間(のかなり良い方寄り)に安定して立つことを目指すマーケットタイミング戦略だと言えるかもしれません。
Q. 検証結果は、後知恵バイアスに基づく過剰適合にすぎないのでは?
A. 今回検証したいくつかのモデル、具体的には【AEM】American Equity Momentum や 【TIAi】Tech Innovation All-in は、おそらく該当します。これらのモデルを今後運用し続けると、運が良ければ数年は継続するかもしれませんが、普遍的ではないばかりか、大きくパフォーマンスを下げる局面が必ず来ることは予め分かります。
それ以外のモデルについては、銘柄選択の基準にバイアスがないため、長期的に再現され続けるオッズは十分にあると考えています。
さらに言えば、様々な要因から発生したシビアな投資環境での振る舞い、つまり2008年の世界金融危機、2015年のチャイナショック、2016年のブレグジットとトランプ相場、2018年の米中貿易摩擦、2020年のコロナショックとその後のリカバリーラリー、2022年の高インフレ・高金利・地政学的緊張の時代を検証していることは、モデルの堅実さの確認に貢献していると思っています。
Q. モデルが現金保有のシグナルを出している間は、投資の世界から離れてじっと待っているしかないのか?
A. 下落トレンドに伴うドローダウンが発生し、元の資産総額まで回復するには、最短でも数ヶ月から長いときには4年以上かかると想定する必要があります。そのほとんどの期間で、モデルは現金(または安全な債券)を保有すべきというシグナルを出します。
この期間の有効活用法は、予め計画して準備しておくべきと考えています。例えば:
Q. パラメータやユニバースをもっと色々いじくり倒せば、もっと最高な組み合わせが見つかるのでは?
A. 見つかると思いますが、やる意味がないとも思います。タイムマシンで過去に戻れるのであれば別ですが、そうでなければ、過去の出来事を抽象化して、自分の投資戦略がどんな時に機能し、どんな時には機能しないかを学ぶ方が時間の使い方として有益だと考えています。
Q. それで、あなたはデュアルモメンタム戦略を使うのか?
A. はい、【MSR】Momentum Sector Rotation を更に応用したものを、ポートフォリオの主力に当たる部分で使うための計画を立てたいと考えています。
今日の投稿は以上です。
Appendix
検証結果の一覧
デュアルモメンタム戦略 検証シリーズの投稿一覧
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