ナボ マヒコ(Nabo magico)13

途中、メトロに揺られながら、辛うじて機能している理性が頭をもたげてきては、「馬鹿なことはするな! あんな奴とはこれ以上関わり合いになるんじゃない!」と忠告してくれるのだが、それとは裏腹に身体の方はどんどん奴に吸い込まれていくようにして目的地へと運ばれて行くのだった。

一番線アントン マルテイン駅の改札口を抜け表に出るとアトーチャ通りが東西にのびている。その大通りを東へ200メートルほど下ると古いがとても立派な大理石張りのファザードを持つ建物が見えてきた。

ファザードの柱と柱に掛かった三角形の疑似屋根模様の中に少し錆びた真鍮で大きく『14』と番号がはめ込まれてあった。

アトーチャ通り14番地。ここだな...  僕は心の中で呟くと玄関の周囲を注意深く観察した。男が言っていた様に柱の陰に隠れるようにして大きなゴムの木の植木鉢があった。僕は、少しためらったが直ぐに思い直し辺りに人がいないのを確かめると両手で植木鉢を抱え、少し浮かせて横へずらした。

植木鉢の下からは、ごくありふれたタイプの銀色の小さな鍵が現れた。僕は素早くそれを拾い上げると、もう一度辺りを見回した。   そして、植木鉢を元あった場所に戻すと今度は、ゆっくりと階段のある建物の奥の方へと進んで行った。

立派なファザードとは対照的に内部は、薄汚れた感じで、年季の入った木製の階段は人が登り降りする中央部分だけが、かなりすり減って凹んでいた。

僕は、なるべく音を立てないように注意深くその階段を昇っていった。幸い誰ともすれちがうこともなく目的の三階まで辿り着くことが出来て僕は、ほっと胸を撫でおろした。 

そして、再びズボンのポケットから例の紙切れを取りだし、念のため住所を確認した。

「三階(テルセロ)のA」ここだ、間違いない。

黒く煤けた様な木製のドアの上にAとあるのを確かめると、僕はドアの右側にある呼び鈴を押した。

ビーッという音が部屋の中で響くのが外からでも聞こえた。暫く様子を窺っていたが反応がない。もう一度押してみたがやはり反応はなかった。

そういえば、多分留守にすると言ってたっけ...

男の言葉を思い出しながら、鍵穴についさっき手に入れたばかりの鍵を差し込んだ。

(つづく)



いいなと思ったら応援しよう!

バナナ
なんと、ありがたいことでしょう。あなたの、優しいお心に感謝