ナボ マヒコ(Nabo magico)20
気が付くと、僕は、暗いトンネルを、ひとり走っていた。どんどん奥の方へ進んで行くとやがて突き当たりに古めかしい扉が現れる。その扉を開けると中にはコンクリート張りの窓の無い小部屋になっていて部屋中にカビの臭いが充満している。中央には、大きな植木鉢が置かれ、その上には全裸のマリエが眠っている。
彼女の腹部だけが別の生物のようにグニャグニャと動き始め、やがて段々大きく膨らんで遂には、その皮膚を突き破って白色のクラゲの触手のようなものが現れる。
そして、そいつは側で見ていた僕の首に突然絡み付いて来てグイグイと締め上げてくるのだ。必死になって、それを振りほどこうと、もがいている僕の周囲には、いつの間にか山羊や牡牛の頭を持つ黒衣の魔女達がひしめいていて、その様子をじっと見つめている。
突然、そのうちの一人が僕の腹に皴くちゃの爪の伸びた手を当てて何か呪文のようなものを唱え始める。見る見るうちに、その手は僕の腹の内部にめり込んでいき、グアッ、という魔女の気合いの叫びと共に何かを腹の中から引き抜いた。
それは、まが玉のような形をしていて表面に張り巡らされた細か血管が透けてピンク色に見える。その小さな肉の塊の様なものをマリエの唇に近づけると、眠っていたはずの彼女がいきなりカッと目を見開きそいつにかぶりついてきた。と、同時に全身に凄まじい激痛が走り、僕はたまらず大声で叫んだ。
ウギャーッ!!
ふと、我にかえると脇の下が汗でグッショリと濡れていた。横にはマリエが小さな寝息を立てて眠っていた。僕は、恐る恐る自分のお腹に手をやった。
大丈夫、何ともなってない。そう安心して、今度はマリエの腹部に手を伸ばそうとしたその時、いきなり大声で「嫌っ!」と叫んで彼女が寝返りをうった。僕はギョッとして
「マリエっ! 起きてるのか!?」
と軽く肩を揺すってみたが何も反応がなかった。
なんだ、寝言か... びっくりさせやがって。
そう納得して気持ちを静めて再び彼女の腹部に手を当てた。みぞおちのあたりから、ゆっくりと手のひらをふくよかな下腹部へと滑らせていく。
ああ、よかった。やっぱり何にもなってない。緊張の糸が切れて安堵すると、急にまた眠気に襲われて僕は、再び深い眠りに落ちて行った。
(つづく)
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