天使の小路(こみち)
我が家の近所に保育園がある関係で、朝夕には保護者に連れられた子供たちが通う道を、私も散歩のルートに取り入れている。
ある日のこと、父親らしき人に連れられて、一人の少女が一心不乱に前を向いて歩いて来るのが見えた。
連れられて、と書いたが、むしろ少女が男を従えてと言い直した方が良いぐらい彼女の足取りは颯爽としている。
すれ違い様に、彼女が不意に立ち止まった。
自身の半分ほどもある黄色い、スポンジボブのリュックサックが、じっと私を見つめている。
アデイオス コーチェ!! (車さん、さようなら)
彼女が手を振って挨拶している先には、 マンションの、ガレージに通じる緩やかな スロープの先にある閉じられたままの深緑色に塗られた鉄製の扉があるばかりで、 そこから車が出てくる気配は、全くなかった。
少女は、そんなことは、気にもとめず、再び前を向いて従者を引き連れた女王のように、ずんずん前へと進んでいった。
少女には、どんな車が見えていたのだろうか?
とても明るい声で、「さよなら」と言ってたので、きっと、長年持ち主に愛されてきた車に違いない。
きっと、今日が最後の日になるのだろう。
天使は、その事知っているから、お疲れ様の意味を込めて、「さよなら」と挨拶したんだろうな。
私は、未だに開く気配のないガレージの扉を見つめながら、このみちを通う沢山の天使たちに思いを馳せるのだった。
いいなと思ったら応援しよう!
