ナボ マヒコ(Nabo magico)12
翌朝、昼過ぎになってようやく目の覚めた僕は、マリエに電話をしてみたが留守番電話のメッセージが流れてきたので伝言は何も残さずに切った。
そのあとも何度か彼女に電話をしたが連絡はつかずじまいだった。そして、大学にも行かず部屋でゴロゴロしているうちに時間だけは容赦なく過ぎて行き、気が付くと部屋の中はかなり暗くなっていた。
明かりをつけることさえ、もどかしかった僕は、ベッドに横になったまま暗闇の中で天井を見つめていた。
暖房のない室内は12月の冷たい風が窓の隙間から入り込み一層さむさを増していた。僕は冷たくなった自分の鼻を時々手のひらで温めながらマリエのことを考えていた。
スペインに来て初めて感じる孤独。空腹が更に僕の心を侘しくさせた。そして「あなたは、もう、すっかり決めてらっしゃる。」というあの男の声だけが呪文のように何度も頭の中で響くのだった。その声から逃れようと、僕は、冷蔵庫に残っていた最後の缶ビールを取りだし、一気に飲み干すと空になった缶を壁に向かって思いっきり投げつけて直ぐに頭まで毛布を被って身を固くした。
その次の日も一日中つまらないテレビを眺めたりして過ごした。相変わらずマリエとは連絡がつかないままだった。孤独感だけが僕の心を支配し、その中であの男の言葉だけが生き物のように頭の中でうごめくのだった。
次の日も、またその次の日もまるで幻のように時が過ぎて行った。やがて、あの男に電話した夜から丁度、一週間経った。相変わらずマリエとは音信不通のままだった。
僕は、あの男の住所の書かれた紙切れを握りしめると、何かに憑かれたように外へと出た。とにかく何でもいいからすがりたかったのだ。マリエの心を取り戻せるのなら、どんなことだってしよう。そう、心に決めながら僕は地下鉄の入口へと向かった。
(つづく)
いいなと思ったら応援しよう!
