ゆっくりと丁寧に生きる

親愛なるシニオンデンザメ様

その後如何お過ごしでしょうか。デンマークのコペンハーゲン大学の研究チームの方に貴方様をご紹介頂いてから、私はすっかり貴方様のファンとなりました。

今年で211歳となる、北極クジラの私にとって、ニシオンデンザメの貴方様が脊椎動物で最高齢の推定392歳であることを知り、世界一の称号を失ったことを、はじめは素直に受け入れることが出来ませんでした。

しかし、北極海の海底深く、世間からのろまと言われようがそんことは一切気になさらずに生きておられる貴方様にとっては記録も、他人の評価に一喜一憂することも虚しい事であると思っておられるのでしょうね。

一年に1センチメートルと、ゆっくりと成長された4メートルのそのお姿は私の目には神々しく映るばかりです。

一般的には大型の魚ほど、泳ぐ速度が速い傾向にあるのに、貴方様は、時速1キロ。尾びれを左右に一往復振られるのに7秒もかかるんですから、それも当然ですよね。

私達の生きる、この銀河がその形を保つためには、銀河を束ねている物質としてダークマターの存在が仮定されるようになりました。

ダークマターがなければ、銀河の外側に位置している天体、もしくは銀河そのものが回転しながらばらけてしまうそうです。

本当に大切なものは、目に見えないっていうのは、多分本当だとおもいます。

貴方様は、「なーに、長寿の秘訣は、低温の中であまり動かないから代謝が少なくてすむからじゃろう。それにな、わしの体には毒があるもんだから人間も見向きもしないんで、こうして生き長らえていられるんじゃ。」などとご謙遜されますが、貴方様ほど、自分が見えない何かに守られていることを御存じのお方はおられないと、私は信じております。

サメには、軟骨しかないので、従来の方法では、年齢が測定出来なかったせいで、私を含む世間が貴方様のゆっくりとした生き樣に今まで気が付きませんでしたか、今こうして貴方様の目の水晶体のタンパク質に含まれる放射性炭素から貴方様の通ってこられた392年の歳月を感じることが出来ることは、この上ない喜びでございます。

どうか、御体に気を付けてお過ごし頂きますよう。私も、貴方様のように、見えない何かに守られいることに感謝しながら、ゆっくりと丁寧に生きて行こうと思っております。

いつか二人で桜を眺めながら 北極の氷のオンザロックで一杯やりたいですね。

                                               北極クジラより

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バナナ
なんと、ありがたいことでしょう。あなたの、優しいお心に感謝