ナボ マヒコ(Nabo magico)15
『お久しぶりです。あなたとの約束通り、例の惚れ薬ナボ マヒコを用意させて頂きました。電話でも申し上げました様に、こいつは大きく成長するのに最低三日程はかかるのです。そういうわけで今まであなたをお待たせすることになってしまいました事を心よりお詫び申し上げます。さて、こいつの使用方法は、いたって簡単です。どの様な方法でも結構ですから、あなたの想い人にこいつを飲ませる(勿論、煮ても焼いてもこいつの効能は変わりません。)だけです。もちろん、あなたにも飲んで頂きます。これだけで、きっと、あなたにご満足して頂ける結果になると確信しております。ナボ マヒコは、この奥の部屋に置いておきます。それでは、あなたの幸運をお祈り申し上げます。』
僕は手紙を読み終えるとそいつをテーブルの上に置いた。そして、大きく深呼吸をすると奥の部屋に通じるドアのノブに手をかけた。
ドアを開けると中は、おとなが二人ほど入れる程の狭いスペースがあり、その向こう側にもうひとつ別のドアがあった。変わった造りだなと思いながら、もうひとつのドアを開けると中は真っ暗だった。
辛うじてサロンからの明かりが入口付近を照らすだけで、奥の方は殆ど見えない。ただ、天井から大きなシャンデリアがぶら下がっていて、その下に何か大きなものがあることだけは分かった。
長い間、換気をしていなかったのか、部屋中にカビの臭いがたちこめ、じっとりと湿った空気が顔に張り付いてくるようだった。
僕は壁づたいに手を這わし、明かりのスイッチを探った。それにしても臭い! 息がつまりそうだ! そう思いながら、必死に手探るうちにようやくスイッチらしきものが指先に触れ、僕はそいつを押した。
カチッ。青白い光が広がり僕の影を壁に映した。そして、僕は何かの気配に、サッと部屋の中央へ振り向いた。
うあっ!
僕は思わず大声で叫んでしまった。コンクリート張りの窓のない部屋の中央には土で満たされた直径1メートル程の植木鉢が置かれてあり、その中心から白く細長いクラゲの触手のようなものが上に向かって真っ直ぐ伸びている。そして、その上には...
上にはなんと、あの男が、そう、初めて会った時と同じ赤いウインドブレーカーに灰色のジャージ姿のままでぶら下がっているではないか!
シャンデリアに結ばれたロープは、しっかりと男の喉元に食い込み、元々大きかった彼の目玉は、すっかり黒紫色に変色してしまった顔面からこぼれ落ちそうになっている。
ジャージは糞尿のために足首の方まで黒い染みになっていて、そこから異様な臭気を放っていた。
僕はしばらくの間、自分の目の前にぶら下がっている男の死体を見つめていた。 そう、まるで前衛芸術家の作品(オブジェ)を観るように..
(つづく)
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