薔薇と栗の愛
薔薇さん、貴女は何故そんなにも気高く美しいのでしょう? 容易に触れることが出来ないように貴女が持っているそのトゲのせいで、私の貴女への思いは、益々募るばかりです。
栗さん、ありがとう。私の持った最初のトゲは、水分を含んで、柔らかいものだったのです。でも、時と共に、私の心は渇いてしまい、だんだんと潤いのある優しい気持ちを忘れてしまった結果、こんなに固いものになってしまいました。
でも、今の私には、私を傷つけ悲しませるものから私自身を守るために、このトゲは手放せなくなってしまったのです。でも、わかってほしい。私からは決して誰も傷つけなかったということを。
もちろん、わかっています。ブナ科クリ属の私は、ご覧の通りイガだらけ。イガから取り出した私の心も、鬼皮と渋皮に包まれていて、誰にも本心を見せたことなどないのです。
他の果実ならば、大抵、一皮向けば、人当たりの良い甘い果肉に届くのに、私の場合は、実は鬼皮は、果実なのですが、トゲだらけのイガだけでは、不安で、本来柔らかかった果肉さえ、固い鬼皮にしてまで堅くなに自分を守って来た結果、私の心には何とも言えぬ苦渋の渋皮がこびりついてしまったのです。
貴方の、その渋皮の奥には何人をも虜にする、甘く優しい種子があるのは知っています。
いつの日か、本当の貴方に触れることが出来たなら私は、イガも、鬼皮も、渋皮もみんな脱ぎ捨てて、この裸の心を貴女に捧げましょう。
貴方のその気持ち、とっても嬉しく思います。けれども、貴方のその無防備な甘い心を私のこのトゲがきっと傷つけてしまうことも知っている私には、どうしても素直に貴方の愛を受け入れる気持ちにはなれないのです。
いつか二人が本当にわかり合える日が、(そんなことが本当にあるのか...) 来るのを夢見ながら、もう少しだけ私は、こうして一人で置かれた所で咲いていようと思います。
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