ナボ マヒコ(Nabo magico)14

「ごめん下さい。」と一応は言ってみたが、やはり返事はなかったので、僕は恐る恐る中へと入っていった。

小さな踊り場を通ると中はサロンになっていて思ったより広々としている。天井にはこの部屋にはちょっと不釣り合いな大きさのシャンデリアがぶら下がっていた。

僕は、明かりをつけようとスイッチを探した。入り口脇の壁の隅にそれを見つけ、パチンと押すと、殆どの電球は切れていたらしく辛うじて三つほどの弱いオレンジ色の光が室内を照らすだけだった。

壁に張り付くようにして置かれた本棚には、ぎっしりと本が並び、床には埃や泥をタップリ吸って固く毛羽立った赤い絨毯が敷かれてあり、その上にロココ風の細かい装飾の施された丸テーブルが置かれていた。

そのテーブルの傍にはかなり使い込んだと見える金属パイプ製の椅子があり、座席部分のビニールは破れて中のスポンジがはみ出ており、他に家具と呼べるものはなかった。

そして、さほど大きくない窓にはえんじ色のカーテンが閉められており、その隙間から僅かに外光が漏れていた。また、奥にもうひとつ部屋があると見えて、そこへ通じるドアが本棚とは反対側の壁にあった。

僕は、本棚に近づき並べてある本を眺めた。   『我がシッドの歌』ゴンサロ デ ベルセオの『聖母の奇跡』や賢王アルフォンソ10世の手による法典集や、『大歴史総論』等の文学作品の他にかなりの量のファイルが並べてあり、それらには番号が打ってあったがタイトルはなかった。

しかし、一際僕の目を引いたのは、何と言っても、本棚全体の三分の一程を占めている、黒魔術や宗教裁判の歴史についての書籍群だった。

僕は、その中の一冊を取りだしページをめくった。所々にエッチングで描かれたおどろおどろしい悪魔の姿や拷問の道具のイラストがあった。そうして暫くその本のページをめくっていったが、それも止めテーブル脇の椅子に腰掛けてタバコに火をつけた。

大学の教授っていうのは、まんざら嘘ではないかもな、そう思いながら、ふと、視線をテーブルの下に移したとき、さっきまでは気付かなかったが、そこに小さな白い封筒があるのが見えた。

そういえば、男は僕に伝言残して置くと言っていたっけ...   テーブルの上に置かれていたものが、きっと風か何かのせいで下に落ちてしまったのだろうと勝手に納得しながら、そいつを拾って封を開けてみると、初めて出会った夜に、黒い手帳をちぎってくれたのと同じメモ用紙に小さな文字でぎっしりと何か書かれてあった。僕はそれを顔に近づけると一字一句確かめるようにゆっくりと読みはじめた。   (つづく)

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バナナ
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