紫の魔女
あなた様に、このわたくしを裁くことがお出来になるのでしょうか ?
わたくしの名は、アストライガ。誇り高きアフリカの女王。
確かに、私は宿主となる植物の根に自分の根を潜り込ませて導管を連結し、そこから水や養分を頂いて生きる「根寄生植物」でございます。
私のこの紫の花、一個体で10万粒の種子が、大地に撒かれることも、この種がとても小さくて、まるで粉のようなので、一度蒔かれたその種を駆除することは、不可能ということは、それだけ、このわたくしが懸命に「生」というものに執着しているからでございます。
あなた様は、わたくしが、主要穀物の根に寄生することによって農作物の被害が数千億~1兆円になることに、我慢ならず、「魔女の雑草」として宗教裁判(インキシシオン)の場で糾弾なさろうとしているのです。
あなた様は、わたくしのこの種子が憎い悪魔のようにお考えでしょうが、この種は、ただひたすら自分の時を待って地中で50年もの歳月を過ごすのでございます。
あなた様が、日頃、無意識に踏み蹴散らしている土壌、1グラムの中に、約100億もの土壌微生物が生きているのをご存じでしょうか?
そのなかの、シアノバクテリアこそが、今から25億年前に、この地球に姿を現し、大気中の酸素を増やしてくれたお陰で、いまこうして、あなた様が息をしておられるのでございます。
あなた様は、「適応力こそ人類の最大の特徴である。」と胸を張って仰います。
新たな困難に直面したときに見せる柔軟性こそが、他の人族(オミニン)が絶滅したあとも、あなた達ホモサピエンスが生き残れた理由であると自負されて、これからもそうであると頑なに信じてらっしゃる。
わたくしは、少なくとも、わたくしが「生かされている」ということに関してそのことを疑ったことは一度たりともございません。
嗚呼、わたくしの申し開きの時間も終わりに近づいてまいりました。
あなた様のふりあげた拳が、憎しみの松明となって今、まさに、わたくしの、足元に積み上げられた因縁の業火となって、わたくしを焼き尽くす時がきたと皆様お思いと事と存じます。
今日は、10月の最終土曜日、夜中の3時が一時間巻き戻り、冬時間となる夜でございます。
その、過ぎ去った1時間を取り戻したお方は、出来ましたら、どうぞ、そのお時間を大切に。
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