悪魔の舌
お久しぶりでございます。 最後にあなた様とお逢い出来ましたのは、いつの事だったでしょうか。
わたくしは、丹波篠山のこんにゃくでございます。覚えておいででしょうか?
人恋しい秋に、久々に花を咲かせました。ご存じのとおり、数年に一度しか咲かせない私の花は、英語で「DevilsTongue」(悪魔の舌)と呼ばれております。誰も本当の悪魔の姿など、ましてやその舌なんぞは見たことが無いくせに、この異彩を放つ濃い赤紫の鋭く尖った「付属体」と呼ばれる長い棒状の器官が大きく口を開けた口から天を呪うようにつきだした悪魔の舌に見えたのなら、それは、どうぞご自由にと言う他ございません。
確かに花の茎部からは、魚が腐ったような匂いがして、何とも不快に思われる方がおられるのは承知いたしております。
ただ、こうして、この匂いにつられてやって来る、蝿もまた、一生懸命に命を繋いでいるのでございます。
私のこの「悪魔の舌」を取り巻く「ほう」をよくご覧なさいませ。「ほう」とは蕾を包むように葉が変形した部分のことでございます。
ほらっ、何かに似てはおりませんか?
そう、仏像の背景にある炎を型どる飾りに似ているので、「仏炎ほう」と呼ばれているのでございます。
この世の悪を焼き尽くす仏の炎に包まれて、どうして悪魔の舌が生き延びることができましょうか。
どうぞ忘れないでいて下さいまし。もしも、この世に悪魔なるものが存在するとしたならば、きっと、その舌は甘美な誘惑に相応しい形となって、あなたの前に現れ、そして心地よい地獄へと向かう調べをあなたの耳元で口ずさむことでしょう。
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