6:遺骨
人気のない海岸に蠅と海鳥が群がっている、何かを啄ばみそれを何処かへ運んでいく。波の音が哀しく鳴り続ける。残ったのは白骨化したタケやんであった
人間は神ではない、所詮生き物である。草木が生え替わる様に、産まれては息絶え、産まれては息絶え、それを繰り返して進んで行く。それはまるでバトンを渡しながらゴールを目指す様に、遺志が消えずに遺伝子や想いによって受け継がれていく様に、人間という生き物を今日まで活かしてきた
時は残酷だ。止まることはない、無情にも進んで行く。進もうが、立ち止まろうが、後退しようが、生き物は老いていく。しかし使い方次第で人の生き方は変えられる。例えばあなたが片道1時間を通勤時間に費やしているのだとすれば、1日で2時間、週5勤務だとすれば一週間で10時間、月20日働いて一ヶ月で40時間だ。それを1年続ければ480時間、20日分を通勤時間に費やしている事になる。一年で20日間を有給で与えられたらあなたは何をしたいだろうか
そう考えてみれば、タケやんにとってこの20日間は痛い。タケやんが死に、白骨化となるまでの20日間に世界は目まぐるしく動いていたからだ
白人戦士側に銀の盾が渡り、王室側はそれを守る為に益々黒人戦士との対立を深めた。それを機に魔導師勢力は、王室側の剣と盾を両方保持し世界情勢を平穏にするという考えに賛同し、王室と白人を味方につける。一方、黒人側と魔女勢は一つにはなろうとしなかった。飽くまでも黒人は白人、魔女勢は魔導師勢と対立しているのであって、王室側とは対峙しないと表明。しかし一般人が支持する王室側を味方につけている白人と魔導師勢の優勢には変わらなかった。報道機関は大々的に王室側の考え方について取り上げ、対黒人戦士と魔女勢力という構造を作り上げていった
それから4日ほど経過してから、キモカワ海岸にて白骨化したタケやんは発見された
『おいババア!た、た、大変だ!大変!に、人間の骨が落ちてるぞッ!!』
それを見つけたのは人ではなく、シケモクに手足の生えた喋る化け物であった。シケモクがタバコを咥えている、一丁前に。歩きタバコは罰金ですよ、シケモクさん。まったくこれだからシケモクは...
このキャラクターを紹介するのも面倒なので、下の画像を見て貰おうと思う。別に活躍させる気もないし、物語的にいてもいなくても大差無いので覚えてもらわなくてもOKだ。いや寧ろ忘れてほしい、そして二度と思い出さないでほしい、切に願う。私はこのキャラクターが大嫌いだ
『おいおいそんな事言うなよバナナ坊主さんよ!オレ様だって好きで登場してる訳じゃねーんだぜッ!?』
ほらこの感じ。このアメコミ風な感じ。語り手と会話してしまうこの感じ。このアメコミ風な感じ。こういうのがウザいのである。一つも面白くないし、ただただ鬱陶しいだけ。古臭いというか、もうほんと勘弁して貰いたい
『傷付く事言ってくれんじゃねーよ!ったくよぉ!オレ様が活躍するかしないかなんて…(長ったらしいので以下略)』
遠くから老婆がゆっくりと歩いてくる、橙色の着物姿に白髪頭。その老婆の名前は星 梅子といった。梅子とシケモク太郎の出会いは遥か昔、双子のじじいは山へ買い物に、梅子は川へ川遊びをしに行った時。梅子が一人で川遊びをしていると、川上から桃ではなく一本のシケモクが流れて来た事から始まる。色々あって現在も梅子とシケモク太郎は旅を続けていたと言う訳だ
『どれどれ…おや本当だ、こりゃたまげた。何故またこんな所で人骨が落ちているのかね。とりあえずシケモク太郎や、この風呂敷に骨を包んでおくれ。寺にでも持って行って供養して貰わないとね』
梅子はそう言うと唐草模様の風呂敷をシケモク太郎に渡した。シケモク太郎は文句を垂れながらも、おずおずと骨を風呂敷で包んだ
『寺ってどこの寺に持って行くんだよ?この辺じゃ寺なんか無いぜ?』
シケモク太郎がそう聞くと、梅子は受け取った風呂敷を首元に括り付け、海岸とは逆の方角を指差して答えた
『あの山を越えた先に寺があるんだよ、物知らずだね。うっかり寺院とかいう寺だったかね、兎に角そこが一番近いから今から向かうよ』
『マジかよッ!あんな山どうやって越えるんだよ〜!大体、今あの辺じゃ王室側の白人達が警戒を強めてるらしいじゃねぇか!万が一黒人と白人の争いにでも巻き込まれたらどうすんだよッ!やめとこうぜ〜!怠いしよ〜』
梅子はシケモク太郎に拳骨を与えた、ざまぁみろ。シケモク太郎は嫌々ながらも梅子の後を付いていく。山の麓ではセミの鳴き声が喧しいくらいに鳴っていた。途中何度も休憩を入れながら二人は山を登っていく。山頂付近で白人戦士と思われる白い鎧姿の男達が見張りをしていた。見張りは奇怪な二人を見ると、呼び止めて質問をした
『婆さん、ここは通れないよ。報道で知ってるだろ?今黒人共と緊迫した状況が続いているんだ。ここから先は王室側の関係者以外通しちゃいけない事になってるんだよ、悪いけど帰ってくれるか』
『やっと山頂まで来たっていうのに帰れって言うのかい。通行止めなら登る前に教えてくれないとダメじゃないか』
『山の麓に看板が立ってただろ?気持ちは分かるけど俺達も仕事なんだ、分かってくれよ婆さん』
『あたしゃ目が悪いもんでね、もっと大きな看板立てといて貰わなきゃ困るんじゃよ。それにあたしみたいな老人が通った所で何も問題なんて無いじゃろう?そんなにあんたの所の戦士達は貧弱なのかね?』
暫く梅子と白人戦士達の言い合いが続いた。そして午後四時半頃、山頂付近にある白人達の各基地に伝令兵が走り回り、警戒緊急指令が伝えられた。内容は山頂付近にて兵士が数人、攻撃を受けて意識不明の重体となっている事と、犯人は一人の老婆とシケモクに手足の生えた化け物だという事であった。誰もが耳を疑い、その情けない内容に各基地の指揮官は、王室側との信頼関係が崩れると怒りを募らせた
『一体どういう事だ!これから戦争が始まろうとしている時に!老人に、しかも老婆に攻撃を受けて警戒緊急指令だ!?大概にしろ!その犯人は既に捕らえて解決済みなんだろうな?』
伝令兵は息を切らせながら跪いて答える。それは指揮官の堪忍袋の尾を切る内容であった
『巫山戯るな!その老婆は今何処に向かっているんだ!直ちに他の隊も呼んで引っ捕らえろ!呉々もこの醜態は王室側に知らせない様にしろ、良いな!?』
午後五時頃、その伝令を受け山頂付近が騒がしくなった。各部隊が走り回り一人の老婆を見つける為にてんやわんやである。ある兵士の叫びで新たな展開を迎えた
『見つけたぞ!老婆だ!老婆がいた!応戦頼む!』
数秒後、山にその兵士の悲鳴が響き渡った。他の兵士が駆けつけると、数人の兵士が倒れている
『一体あの老婆は何者なんだ!?だ、誰か!応援を呼んで来てくれ!このままじゃこの山を越えられるぞ!』
兵士達は数時間経っても梅子とシケモク太郎を捕まえる事は出来なかった。すっかり日が暮れて辺りが暗闇に包まれ、捜索は難航となった。午後十一時、捜索は一旦打ち切られ、司令官は捜索に関わった兵士達を集めた
『こんな事は前代未聞だ、我が隊の恥だ、老人一人も捕えられない部隊が何を守れるか。貴様ら覚悟は出来ているのだろうな?代表者は前に出てこい、これよりそいつを斬首して見せしめにする!』
兵士達がどよめいている。一人の兵士が冷や汗を流しながら司令官に訴えた
『し、しかしですね司令官!あ、あの老婆は只者じゃないです!老人とは思えない動きで次々と仲間を薙ぎ倒していくんです!本当なんです!司令官の目で確かめて下さい!』
『確かめようにも貴様らは捕まえて来ないではないか!ええい!言い訳は聞きたくないわ!貴様だ、貴様を打ち首だ!』
一方その頃、山を越えた辺りで梅子達は歩き続けていた
『よっこらしょっと、ここまで来れば兵士達も追ってこないだろうね。シケモク太郎や、今日はここで野宿としようか。明日の朝方出発じゃ、昼前には着けるじゃろ』
梅子とシケモク太郎は森の奥で野宿する事となった。疲れ切ったシケモク太郎は、倒れている大木の上で横になり質問した
『…ババアよぉ、ここまでする必要あんのかよ。誰だか知んねぇ遺骨をわざわざ寺に運ぶなんてよー。ましてや今頃白人達はえらい事になってるだろうぜ?オレ様だって顔を覚えられちまったよ、これからややこしい事になりそうだぞー』
梅子は風呂敷を大切そうに地面に置き、拝んでいる。しばらくして目を開けると、梅子も横になり答えた
『…誰の元にもいけない亡骸ほど悲しいものは無い。誰だが分からなくとも「生きていた」と記憶して貰うだけでも供養になるんじゃないかね。骨を見るからにまだ若い者じゃろうし、親御さんの事を想うと供養してやらん訳にもいかんじゃろ。この歳になるとね、色々と想う事もあるんじゃよ。シケモク太郎や、これだけは覚えておき。人はね…』
『もういいだろ〜!ババアはいつも話長ぇなー!分かった分かった!届けるから!もう今日は寝ようぜ!疲れてんだからよ!はい、おやすみー』
はい来た、このウザさ。これから梅子が良い事を語ろうとしている所で、長いという理由で止めに入るこのウザさ。なにコイツ。なにこのシケモク。これだからシケモクは嫌いなんだよ!
翌日、タケやんの遺骨は寺に届けられた。
未完
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