MOTHERの気持ちいい気持ち悪さ
映画「MOTHER(マザー)」今日観てきた。
よかった。というよりねっとりやられた。(なんだそれ)
あらすじ
男たちとゆきずりの関係をもち、その場しのぎで生きてきた女・秋子(長澤まさみ)。
シングルマザーである彼女は、息子の周平(奥平大兼)に奇妙な執着を見せる。
周平に忠実であることを強いる秋子。
そんな母からの歪んだ愛の形しか知らず、それに翻弄されながらも、応えようとする周平。
周平の小さな世界には、こんな母親しか頼るものはなかった。
やがて身内からも絶縁され、次第に社会から孤立していく中で、母と息子の間に生まれた“絆”。
それは成長した周平をひとつの殺害事件へ向かわせる——。
何が少年を追い込んだのか?事件の真相に迫るとき、少年の“告白”に涙する。
感想(ネタバレ注意)
ねっとりやられた。(2回目)ねっとり抉られた。
まず、秋子が怪我した修平の膝を舐めるシーン、CMを観てそういうシーンがあるのは知ってたけど初っ端それで一瞬でクレイジーさを理解した。舐めたあとの秋子の笑顔、「私も今日仕事ふけたんだ」、坂道ダッシュ、プール飛び込み、最高にイカれてて最高にゾクゾクした。あっさり世界観に引き込まれた。
秋子はずーーーーっとだらしなくてずーーーっとダメな母親で最後まで救いようがなくて、だけどそれが妙にリアルで気持ち悪くてよかった。
内縁の夫のリョウ(阿部サダヲ)との関係もダサくて気持ち悪くてよかった。出会い方も気持ち悪いし、格好も気持ち悪いし、言動も気持ち悪いし、別れ方も気持ち悪いし、ぜんぶなにもかもダサくて気持ち悪くてでもそれがよかった。秋子もリョウも欲望に忠実で理性とかひとつもなくて逆に冷静な気持ちで見れた。ふたりとも清々しいまでのクズだ。なにが気持ち悪いって今のこの瞬間がすべてだと思っていてめちゃくちゃ幸せでもありめちゃくちゃ不幸でもありそのふたりの盲目さ(周平含めて3人か)に腹を立てることさえできなかった。馬鹿馬鹿しすぎて腹を立てる方がみっともないと思ってしまった。
周平がずっと秋子についていってずっと秋子の言うことを聞いていて冷静になるとまったく意味わからないけどそういうものなんだろうなって思った。第三者から見たら「は?」って思っても当事者にはそれがすべてで、だからこそあんな悲しい事件が起きてしまったんだろう。
まともなことを言っていた祖父母が周平にとっては敵だったのだ。というより母である秋子が正義でそれ以外はどうでもよかったのかもしれない。
周平は児童相談所の亜矢(夏帆)に心を開いたが、それでもやっぱり秋子がすべてだったのだろう。リョウが借金取りに追われ、一家で亜矢が紹介した簡易宿泊所を出るとき周平が「ここに残っていい?学校行きたいんだけど」って言ったとき周平はいい方向に(ここで言ういい方向とは世間的にとか一般的にということ)向かっていたと思う。だけどそこで秋子に「学校なんて行ってもあんたどうせ苛められるよ」とせせら笑われ一蹴される。最後に亜矢に向けて「亜矢さんごめんなさい」と置き手紙を残すシーン、つらすぎた。亜矢と出会い、勉強の楽しさを知った周平は最初「亜矢」の漢字を見て「難しい」と言った。そんな周平が宿泊所を出るときは置き手紙に漢字で「亜矢」と書いている。つらい。かなしい。私はなんとなくだが、周平にとって亜矢は初恋だったんじゃないかと思う。映画の描写ではそんなシーンひとつもないけど、なんとなくそう感じた。周平にとって亜矢は母親以外の世界を見せた女性だからだ。私がそう思いたいだけかもしれないけれど。
ストーリーももちろんだか私はこの映画のカメラワークにもやられた。秋子と周平の不安定なシーンはカメラも不安定で上下左右にゆらゆらしていて不安感を煽られた。ちょっと酔いかけたけどそれもこの映画の狂気と相まって興奮したしのめり込んでしまった。
もうひとつカメラワークのことを言うと、暴力的なシーンをまったく関係ない背景(自販機とかこたつとか)を定点で撮影して(その間もカメラはゆらゆらしている)なにが起こっているかを音声のみで表現しているのもよかった。全員演技力オバケで表現が豊かだからこそかな。リョウが秋子に暴力振るって周平と冬華が逃げてくるシーンも周平が祖父母を殺害するシーンも決定的なところは映ってなくて、観る側の想像力に任されていた。決定的なところが映っていないからこそ誰かに変な偏った肩入れとかもなく自分の感じるままに観ることができた。
殺害することを決心して周平が祖父母の家を訪ねたとき祖父が「冬華に会いたいな」って言った瞬間死亡フラグ立って絶望した。そのあと周平が「今度会わせるよ」って言った瞬間絶望して泣いた。多分あそこで周平は決心したんだろうな。意味わからないけどちょっと分かる気がする。
裁判が終わって判決が出たあとの亜矢との面会で周平が「どうすればよかったんですか?僕は母親がすきです。今もすきです。」って言ったのがすべてだしどうしようもなくて絶望した。虚無。仕方なかったとは言いたくないんだけど。