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お手伝い
「こびとのくつや」というグリム童話がある。初めて読んだのはいつだったのだろう。
皮を切って靴を作る場面が、とても印象的だった。
靴用の皮は厚く描かれており、職人のおじさんが切れ味の良さそうなナイフで、スーっと切っている様子が挿し絵に描かれていた。
手際の良い職人の作業を、間近で見ているのは飽きない。子供の頃父の仕事場に何度か連れていってもらった。
父は大工だったので、作業場で木材の加工をしていた。鉋(かんな)で木を削ると薄いヒラヒラした木が躍りながら落ちていく。
墨壺の糸をピンと張り、指でつまんで離すと真っ直ぐな直線が木材に記される。
そこでの私の仕事は、おが屑やかんな屑の掃除と、木の切れ端で遊ぶことだった。お昼には近所の食堂から出前をとって、焼きそばを食べさせてもらった。
大人になってから、ふと「あの作業場、まだある?」と父に聞いたところ「何年か前に無くなった」と言っていた。焼きそばを頼んでいた食堂も閉店したらしい。
大人になった私が癒される場所といえば、ホームセンターの木材コーナーだ。切ったばかりの木の香りがたまらない。
幼い頃に行ったあの作業場の光景が思い出されて、懐かしい気持ちでいっぱいになる。