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WANGGA - アボリジナルの歌がどうやって生まれ、引き継がれるのか
WANGGAとは
WANGGAは、オーストラリアのトップエンドの一番西側に位置するDaly RiverエリアやBelyuenコミュニティ、Barunga/Wugularrといった西南部アーネム・ランドで主に葬儀の際に唄われるダンスソングです。
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Alice M. MoyleやA.P. Elkinといった初期のアボリジナルの研究者たちによって、ディジュリドゥをともなう舞踏のための唄がおおまかに2種類に分類されました。トゥーツが使われないドローンだけで演奏されるAタイプの歌はソングマンが所有しています。そしてトゥーツを使うBタイプの歌は父系の氏族が共有しています。
このおおまかな分類のAタイプの代表的なものとしてWANGGAとGUNBORRKがピックアップされるようになりました。実際は地域や言語グループによって固有のダンスソングが存在しているようです。
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WANGGAで使われるディジュリドゥはKenbiと呼ばれ、高い声で歌われるためディジュリドゥのキーもF以上のハイピッチの楽器が使われる傾向があります。ディジュリドゥは主に2拍3連をベースにしたマウスサウンドで演奏されることが多い。
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WANGGAは学校などの施設のオープニングや娯楽として演奏されるだけではなく、亡くなった人の衣服などを燃やす浄めの儀式、割礼、葬儀の場で演奏されます。
詳しくはWANGGAについてとことん研究したAllan MarettとLinda Barwick夫妻の書籍と、彼らが編簿した「Wangga complete CD sets」のライナーなどをご覧ください。
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WANGGAはどうやって生まれ、受け継がれるのか
Moyleが分類したAタイプの歌はソングマンに帰属しています。ではWANGGAソングはどうやって生まれ、どうやって引き継がれていくんでしょう?この問いに簡潔に答える文章が前述のAllan Marettの解説にあったので引用します。
WANGGAとLIRRGAのソングマンはたいていは10~20曲の歌のレパートリーを持っています。彼らは3種類の方法で自分の歌のレパートリーを築きあげます。
一つ目は、自分の住む土地外のソングマンから歌を教わることで、その歌の持ち主がいない時に教わった歌を歌う権利を与えられる。このようにして手に入れた曲は、元の持ち主が亡くなると、通常1~2年間は引き継いだソングマンのレパートリーから外される。
二つ目は、自分の父系のソングマンから曲を受け継ぐことです。引き継いだ曲は元のソングマンの死後も歌のレパートリーから外されないので、亡くなったソングマンの歌のレパートリーは父系の氏族全体の財産となり、代々受け継がれていきます。
三つ目は、歌を手に入れるという方法です。この場合の歌の創作源は実にさまざまで、自分で作る者もいれば、夢の中で祖先の死者であるWalhakandaやMnimemerriから歌を授かる者もいます。
ぼくたちの社会では、歌手が曲を所有する方法はMarettが解説した3種類の方法のうちの「自分で作る」と「作曲者に許可をとってカバーする」の2択しかありません。「作曲家に作ってもらって歌う」という方法もありますが、実質的に歌を所有しているのは作曲家です。
また、作曲家・作詞家はJASRACによって著作権が保護されていますが、「歌が継承される」ということはありません。もしかしたら先史時代にはアボリジナルのような方法で歌が生まれ、継承されていたのかもしれませんね。
夢の中に舞い降り、狩りの間にみつけた歌
初期のアボリジナル音楽研究の大家Alice M. Moyleがアボリジナルのソングマンにインタビューした際に聞いたという逸話も興味深いので引用したいと思います。
「Individually-Owned Song(個人が所有する歌)」に関して質問したら、眠っている間に舞い降りてきたと答えるシンガーもいるし、狩りや採集などで出かけている間に「みつけた」という者もいる。あるシンガーは、夢で得た歌を思い出すということは非常に難しいのだと私に語っていた。
歌はどうやって生まれるのか?
現代の我々は音楽ソフトを開いたパソコンを目の前に、あるいは楽器を弾きながら、またはある種のひらめきを元に鼻歌のように作曲するなんてことがあるのかもしれません。
アプリやAIで便利になった時代だからこそ、夢見の中で歌が舞い降りたり、狩りに出た先で歌を見つけたりする、そんな自然発生的な、反理性的な歌との出会い方を旨とするアボリジナルのソングマンに強い魅力を感じてなりません。
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