ディジュリドゥは生きている? 3
ディジュリドゥが呼吸しはじめるまで
ディジュリドゥの場合、製作時は生材状態(50%)、完成時は繊維飽和状態(30%)なので、「気乾状態(15%)」になるまでエイジング的な時間が必要ということがわかりました。
「気乾状態」になるまでは一方的に乾燥し続けることから、外気の湿度に合わせて木が呼吸することはまだありません。伐採されて樹木としてのいのちを終え、楽器としてのいのちをスタートさせるのはこの後です。
ディジュリドゥを長く使っていくには、木材として安定した「気乾状態」まで待つことで、演奏によって呼気が空洞に入って加湿されても受け止めてくれるようになります。
日本では四季によって湿度が大きく変化します。その季節ごとのメンテナンス方法はマガジン「ディジュリドゥの管理とメンテナンス」をご覧ください。
コーティングのない空洞内側はどう扱ったらいいのか?
ディジュリドゥの外側は木工用ボンドでコーティングすることにより、ゆっくりと水が抜けていくことになりますが、空洞側はコーティングをすることができないため、乾燥は空洞側から進みます。
アボリジナルの人たちは自分が使う楽器はあえてペイントせずに、割れるとテープを巻いたり、空洞に水を注いだり、川に沈めたりして、木に水分を積極的に足す方向で当初の演奏感とサウンドをキープしようとします。
彼らのこういった方法は確かな演奏感とサウンドを得るために理にかなっているのですが、濡れた木材表面が乾燥する時にさらにコンディションは悪化していくでしょう。
そこで空洞内側からの乾燥をふせぐ手段としておすすめなのが、オイリングです。オイリングの方法については以前に書いたコラム「ディジュリドゥをオイリングする方法」をご覧ください。
空洞内側をコーティングしたらどうなるのか
空洞内側もコーティングすればメンテナンスフリーじゃないの?と考える人もいてるかもしれません。空洞内側をコーティングしたらどうなるのか、過去の事例を紹介します。
Wugularrコミュニティのアボリジナルの人たちがキャサリンの街中で葬儀があるたびに、キャサリンの宿Coco’sバックパッカーに借りに来るマーゴがありました。そのマーゴが割れてきたので、ココさんは空洞内部にFRPを流し込むという形で修理しました。確かにクラックの隙間を埋めてくれたものの、木本来の響きが失われてしまい、演奏感にはかなり違和感が立つものになりました。
他にも蜜蝋を溶かし込んだメンテナンス液を使用した場合も、楽器によってはハミングの噛み具合に違和感が出て、採集的に溶剤で拭き取ったということがありました。
オイリングも万能ではなく、塗膜を作るほどのオイリングをすると前述のFRPコーティングのように木の響きが失われますので、ギリギリの量を薄く入れるのがポイントです。
このように空洞内部へのアプローチは意外に繊細で、水を注いで木を膨張させて本来の演奏感を一時的に取り戻す、というアボリジナルの手法は演奏感のナチュラルさを重要視するなら結構アリだと思います。
クラックと演奏感の低下を避けながらも最低限の手しか加えない、というアプローチがオイリングで、それ以外で残されているのは南オーストラリア博物館が「Yidaki展」をやった時に100年前の楽器を演奏可能にするためにしたボックス型加湿という大掛かりな方法くらいでしょうか。
ディジュリドゥのサイズダウン
自分のディジュリドゥのサイズが変わっていることに気づいた人はいてますか?
ぼくがディジュリドゥのサイズに結構変化があるということに気づいたキッカケは、現地で「テープミリ」と呼ばれるビニールテープで巻かれたアボリジナル・ロックバンドYothu Yindiの初代イダキ奏者M. Mununggurrのテープで巻かれたイダキでした。
マウスピースぎりぎりの高さの所から半分くらいテープが巻いてあって、当初は何の違和感もありませんでした。ある日、このイダキを鳴らそうとしてマウスピースに唇を当てると…….、
口の周りが痛い。テープが3-4mm上がって、マウスピースに触れる前にテープに当たるのでした。それだけイダキが縮んだということでした。
ほかにもMikeyことGuyanya Gurruwiwiのプライベート・イダキも、日本に届いて一年ほどたつとボトム部分のテープが脱落していました。
このように現地でしばらく使われていた楽器でも、日本の環境で外気とバランスが取れる「気乾状態」になるのに含水率が下がり、それにともなって木が収縮してサイズダウンすることがあります。
トップエンドのアボリジナルの作るディジュリドゥは、一般的な木材加工の観点では考えられない含水率50%以上の「生材状態」で製作されることから、製作初期の状態から少なからず変化をしていくのは必然です。
変化を受け入れながらも、より良いコンディションに保っていくっていうこともディジュリドゥを演奏する人に求められることなのかもしれませんね。
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