THE SPACE COWBOYSを知っていますか
まず言っておこう。映画じゃないよ。バンドだよ。ジャミロウワイでもないよ。
それにちょっと悩んだんだよね。タイトル。これがTHE YELLOW MONKEYなら「イエモンを知っていますか」とスマートにまとまられる。でもTHE SPACE COWBOYSの場合「スペカウ」と呼ぶほどのファン、ごくごく非常にものすごく少ないわけで。
というわけで以下は「スペカウ」と呼んでしまうけど、今回は1990年代に「一世を風靡することもなく」2000年到来とともに終わった4人組バンド、THE SPACE COWBOYSについてである。
スペカウはデビューこそ、華々しかった。
インディーズでCDを出すでもなく、キューン・ソニーと契約。デビューがいきなりメジャーだった。
デビュー曲「SHINING IN THE BED」ではBEAMSやUNITED ARROWSあたりを連想させるオシャレなセレクト・ショップ系のファッションに身を包み、きらびやかな90年代っぽさ全開のPVを展開。続く「SO YOUNG」では「時代の象徴・肩パッド」に堕してしまうものの、センスありげな雰囲気一発の楽曲やPVは、世紀末の世の中にして時代の寵児のごとくキラキラしていた。
音楽雑誌でも注目株。TVでも全国放送には届かないものの、関東オンリーの放送局(テレビ神奈川・テレビ埼玉など)で大プッシュ。その流れでV系雑誌にまでインタヴューが掲載されていた。
いま思えば、この枠付けで失敗した部分は大きいと思う。「ヴィジュアル系」として認識されてしまったことが。
メイクは派手だが、はっきり言えば人は派手ではない。ヴォーカル&ギターのカッコいいとされる2人はともかく、リズム隊の2人は「その他」扱いだった。デビュー・アルバムからして「表イケメン・その他は裏ジャケ」だし。しかも全員キメ顔だからチープ・トリックと違ってシャレになってない。
そんなメンバー4人は以下。かわいそうなことに「その他2名」は浮かばれず、バンド終盤で脱退している。
水野克泰(Vo)
イケメン(1)。
正直ルックスは中の中だけど、イエモンの吉井''LOVIN''和哉に声質が似ていて華がある。ソロ活動をやりかけて「道に迷ってアコギ弾く」をしてしまい、どうにもダメだったらしくて。今は何やってんだろうねー。
大山英寿(G)
イケメン(2)。
見た目、というか顔が前述のイエモン吉井に似ていてびっくり。背も高く、しかもレフティなので4人演奏ではベースと弦が対になるさまが「絵になる」。
おそろしいことにイエモン解散後、ベースの廣瀬''HEESAY''洋一のバンドに選ばれた。吉井に似てるから選んだんじゃないだろうな、ヒーセ!
中田エイイチ(B)
その他(1)。
ドレッド・ヘアにヒゲの「野蛮人」。はっきり言って情報ないが(笑)セカンド・アルバムの見開きで「裸ベース」のショットが掲載されていたのがピークか。キャラ付けの。
脱退後は何だかんだ、ちょいちょい活動しているようだ。ヤイコのバンドとか。
FURUTON(Ds)
その他(2)。
本名・大古殿宗大(おおふるとん そうた)。変わった名前だが宮崎の人らしい。ブックレット見てローマ字表記なので外人か沖縄かと思ったよ当時。
離脱後はOBLIVION DUSTという「ややV系バンド」に在籍するも、鞍替えを続けて故障の末ドラム引退。現在は地元・宮崎でDJやってるとか。へー。
……と、書いただけで何だかとても地味に思えてきたぞ。バンドを乗り継げたFURUTON以外、あまりに情報がない。
ZIGGY関連との対バンもしていたようなので、その筋で知った人も意外と多いようだ。ちなみに私、以前も触れましたがZIGGYの大ファン「でした」。森重が樹一が「ひとりZIGGY」になる前までは、ね。
ま、いわゆるそのあたりの「ケバ系」なのですよ。初期イエモンと同じで、V系からも声がかかるものの、イエモンはそこにとどまらなかった。スペカウはそこに「とどまってしまった」。これが最大の違い。
何度も名前が出てるけど、はっきり言ってしまえばスペカウは「イエモンのニセモン」だった。歌声の質や楽器の音色あたりが特に似ていて、4ピースだし、楽器も同じ。ていうか本人たちよりプロモーション側がそういう雰囲気で売ろうとしていたきらいがある。
楽曲はよく言えば「個性的」。悪く言えば「無駄な転調が多い」。ギター・ソロが致命的なほどつまらない。アルバムに必ず「つまんない曲」がある。歌詞はデビューから解散まで基本的に「いじけてる僕が悪くて、あなたはいつまでも素敵です」「いろいろあるけど前向きにいこうぜ!」ばかり……う、ううむ。
しかしこれ、実はスペカウのいい部分なのだ。こんな書き方で何が、と思うかも知れないが「いい意味でB級」だと僕は思っている。ゆえにまったく売れずに解散に至ったわけだけど。あれだけV系雑誌にバンバン載ってたのに売れなかったなー。ほとんどオリコンにチャート・インされなかったのでは?
やはり「V系雑誌にバンバン載ってた」のが、よろしくなかったのだよね。V系は「ムラ社会」なうえ、スペカウはケバ系だからV系ではない。セールスが伸びずに利用価値なしとなったら切り捨てられ、V系印をつけられてしまったので、一般の雑誌には載りづらい。何という悲劇。イエモンのような売り方をすれば独自の売れ方をするか、あるいはもう少し長く「イエモンのニセモン」として活躍できただろうに。
V系って、やっぱり罪……おかげで、そのフィールドで知ったわけですが、僕は。
ではまた、全作品のかんたんなレヴューをしてしまおう。
それもアルバム単位ではなく「ほぼ全曲」を。しかしつまらん曲が多いので(※個人の感想です)主要曲にはちゃんとコメントし、そうじゃない(と感じる)曲は華麗にスルーしていく。
言ってしまえば、僕のコメントが濃い曲を集めた「だいたいCD1枚分」でこのバンドは充分なのだ。いい曲を楽しむ分には。
だが「憎めないダサ曲」も含めて「B級バンド・スペカウ」だったりするところが難しい。
『CHILDREN OF DISTORTION』(1996)
大々的にプロモーションされて「はたから見れば」鳴り物入りだったデビュー・アルバム。
全体の流れが以後の作品よりまとまっていて、流すように聴けるはず。しかし根本的に、このバンドは「一長一短」。サビがよければ他がダメ、全体いいのにサビがダメ、というパターンが多い。
だから「よさげ」な曲も多いんだけど、よく聴くと「確実にいい曲」は少ない。あくまで個人的には、ですが。
かなり気合を入れてるし、プロデュース側がものすごく努力しているのを感じる。しかし退屈な楽曲の前ではそれも敵わないというのがわかってしまう。
当時のV系出身者は、このアルバムを聴いたことはないけど見たことはあるという人が多いと思うぞ。いや実際。
01 ★★★★
他の曲を引用・アレンジしたインスト。次の曲の冒頭へメドレー展開する。
02 SO YOUNG
シングル曲で、間違いなく当時の最強ナンバー。イントロの近未来的なカッティングや、突き抜けて開放感のあるメロディ、急に転調してハードに化けるサビ。雰囲気のいいギター・ソロとヴォコーダーが入った(←シングル・カットされたヴァージョン)サビ前Bメロ、そして怒涛のサビ。終了後に巻き舌の「おぅぅぅぅぅぅルルルルルラァイイイ!」。純粋にカッコいい。
なお、よく比較されたイエモンにも「SO YOUNG」という曲があり、そちらはずっしり構えた名バラードだったのは器の違いであるとともにキャラや年齢の違いみたいなものだ。
03 SHINING IN THE BED
シングル曲が続く。こちらはデビュー曲で、Aメロとサビ、位置的にCメロなんだけどBメロ、の3パートを「切り貼り」したような展開の激しい曲。若さが爆発するPVに歌詞、今では「青くてダサくてカッコいい」。
ついでに、シングルとアルバムでヴァージョン違いなのだが、わかりません。ミックスの違いぐらいだと思う。
04 1000 SUNS
05 SILVY
06 CHILD STAR
07 HOT LOVE
ここからアルバムは、急につまらなくなる。ん~……たしかどれも、とても地味だったような気が。
「SILVY」なんかはファンの間では名曲とされるものの、はっきり言って平凡な「青春ロック」。
08 PARADOX HEAVEN
スペカウ得意の「THE 展開の嵐」。この曲もまるで切り貼りのような展開で、サビは激甘。しかしこの曲のノウハウで「SOLITUDE」まで発展したのだろうなぁ。パターンが違う「飛ぶつもりかい?」という声がクセになる。
09 ALL GROWN UP
10 EVEN LOVE DIES
11 NIGHT FLIGHT
この3曲もファンの間では人気が高い。でもなぜだろうゴメン、切ないほど好きになれない。
12 DEPARTURE
「雰囲気のみ」で作られて成功した曲。重厚なストリングスに、この曲ではギター・ソロも抜群。ラストもリプライズっぽくオケだけ演奏されるのもイイ……ってバンド演奏に触れてないけど。そんなもんだスペカウは。うむ。
『TRANS』(1997)
個人的には前作を越える傑作。いや、佳作。
やはり「つまらん曲」はあるけど、その「つまんない度」は軽減されている。いやだから個人的にですけど。
シングルが3枚も切られ、中でも「SOLITUDE」のPVは呆れるぐらいテレビ神奈川とテレビ埼玉で流れた。メドレーなどもあり、ブックレット写真も力が入っており、バンド側も自信作だったのだろう。
けっきょく売れなかったんだけど……せめて、曲順が違えばもっといい作品になったんだけどねぇ。
01 EMERGENCY
02 PARALLEL LINE
いきなりのメドレーで期待させるスタート。アコギ1本からスタートし、バンド演奏が加わって壮大な展開。最後のアコギのアルペジオ残響におお大人になったねスペカウ、と思っていたらベースの不穏なリフで、ノリがよく激しく明るさと暗さが同居するなかなかの2曲めへ。この展開はなかなかいい。
03 SHE'S BUTTERFLY
そこからスペカウきっての傑作曲(※個人の感想です)へ! この3曲の展開は神がかっていて、こりゃあすごいアルバムだぞ、と思わせる。
いわゆる「君が正しくて僕はダメなんです」なラヴ・ソングだけど、その極み。珍しく大山のギター・ソロもカッコいい(←あっ)。そこからスカを挟んで本編に戻るなど、さすが「展開のスペカウ」。
04 WIND BLOWS
05 WHISPER
06 TONIGHT
おー……一気につまらん3曲。「TONIGHT」は「甘々スペカウ」の極みだが、残念ながら好きじゃないんだよ僕、青春ロックが。せめてこれら、キャッチーな曲の間に分散すればよかったのになぁ。スペカウは駄曲を固めてしまいがち。
07 LOVEAHOLIC
シングルにしてもいいぐらいの傑作曲。恋愛依存を歌っているかのようで、でも単純に大好きになった娘のことを言っているだけのような歌詞。しかし言葉選びとテンポがよく、歌っていて気持いい(←歌うのかよ)。楽曲もキャッチーで、ストレートなロックなので飽きがこない。
08 LAST ONLOOKER
単独だと短すぎるものの、しかし「LOVEAHOLIC」に続く並びだと名曲。思わせぶりな歌詞は世界の終わりや始まりを言及してるけど、実は「童貞喪失・処女喪失」と考えるとぴったりハマる(笑)。「展開のスペカウ」らしさも凝縮され、終盤に7拍子が1回だけ入る場面は特にスリリング。
09 FURRY PARADISE
さらに良曲が続き、これは怒涛の重量級シングル曲。破滅的で世紀末的な歌詞世界と、鉄工のようなスネア、割れそうなぐらい重いベース、つまんないソロを弾かずにユニゾンのビートにして盛り上げている間奏。はちゃめちゃなPV込みで優秀な楽曲。
しかし……これをラスト前の曲にすればよかったのになぁ。
10 WATCH THAT GRAVE
11 FUTURE PHOTOGENE
前曲の余韻に浸る間もなく、唐突に地味なベース+スカ+展開の曲と、ブラスト・ビート主体の地味な曲。終盤じゃなくて中腹に配置すればよかったのにねー。
12 SOLITUDE
おそらく、この曲が最も有名。というか目または耳にしている可能性がある。PVがヘヴィ・ローテーションされて最も売れた。はず。
それこそ「展開のスペカウ」真骨頂で、アルペジオの前奏からバンド・サウンド、サビで突然の転調、またアルペジオ……というめまぐるしい展開が「教科書通りのロック」を聴いていた人には非常に新鮮なはず。むしろスペカウの転調は「違和感を残す」ためにあるのではないだろうか。
思わせぶりで幻想的なこのナンバーをエンディングに配置したかったのはわかるが、未知のリスナーに向けて冒頭に持ってきたほうがインパクトがあってよかったかもしれない。
13 揺り籠と棺桶
アコギ1本で朗々と歌われ、スペカウが「結局、水野と大山である」ことを証明してしまった曲。毎日をやり過ごす人生を語る「道に迷ってアコギ弾く」を体現するような歌詞が、枯れていていい。「アルバムの余韻」ですね。そうして冒頭のアコギにループするわけだ。
『BUG』(1997)
実は「いい曲比率」で言うとピカイチのミニ・アルバム。5曲中3曲が「とても良い」。てことは3/5なわけで、アルバム10曲とすると6曲計算。なるほど黄金のスペカウ比率だ(あっ)。
売れそうで売れないバンド過渡期にあったため、たぶん少し原点回帰したのかシンセ類は急に少なくなった。その代わりバンド・サウンドが強化され、このままの路線なら少しは売れたのかも知れない。でもそうやってずーっと迷ってたから売れなかったんだよね。うん。
01 LOST EXIT
美しく響くギター、せり上がるドラム、重いベース……疾走感に満ちていて、純粋にカッコいい。反面「展開のスペカウ」がここからあまりなくなってしまうのは残念。でもこの曲はドライヴ感ではピカイチ。
02 移り気なロマンチスト
ひねくれ名曲。素直じゃない自分を正当化するような歌詞と、それを歌う水野の少しくにゃくにゃした歌い方。だいぶイエモン吉井っぽさはなくなってきた。合わせてギターもワウ多様でぐにゃぐにゃしていて面白い。
03 HELLO!
04 PSYCHO SNAKE
ふわふわした退屈曲と、地味なグラム曲。ベース・中田は全体を意識するといい曲を書けるのに、ベースに重点を置くと途端に地味でつまらない曲になる。だってベースだもの(←おい)。
05 TEENS-GO-ROUND
これも純粋にカッコいい。土着的なリズムとユニゾンのリズムがくりかえされ、否が応でも盛り上がる。スペカウのバンド・サウンドの極みで、歌詞も「まんざらでもない」がかつての「飛ぶつもりかい?」のようで楽しい。
『PLASMA JET』(1999)
少しスパンがあり、メンバー・チェンジを経ての最終作。「その他2名」が入れ替わりとなり、見え隠れしていた「スペカウ=水野+大山」という図式を、むしろ完全にしてしまった。
新メンバーは光本順也(B)、 松本淳(DS)で、どっちがどっちか実はよくわかっていないのだけど「グラム丸出しな人」と「それなりの人」。で、収録曲にハノイ・ロックスの名曲「マリブ・ビーチの誘惑」のカヴァーが含まれていることからわかるように、路線は一気にグラム路線を強化。ルーツのひとつにしておけばよかったものを、わざわざ「俺たちゃグラムの出なんだよ!」と標榜することで、結果として輪郭が濃くなり、中身のなさが明確になってしまった。そのため今までの「曖昧な魅力」がなくなっている。そのB級感こそが、スペカウ独自にして最大の魅力だったのに。
交代したベースとドラムもタイトになり、以前のような「遊び」が少ない。というか、遊びがない。ファン大好物の「スペカウ転調」もなくなり、はっきり言えば曲も全体も小粒で、つまんなくなった。
で、商業的にも成功せず、バンドは停止。宣言こそしていないものの、実質的に解散してしまった。
01 I WANT YOU
たしか、冒頭曲なのにつまらなかった(記憶にも残っていない)。
02 HOW TO FLY
歌詞面での武器「いじけ前進ソング」の真骨頂。ウジウジしてるのにどうしてそこまで前向きなの、というポジティヴな歌詞。楽曲も純粋にクオリティが高く、アルバム曲の中で唯一と言っていいほど耳に残る。
しかし、前向きな歌詞が示唆的というか……以下に抜粋しよう。
「未来は僕の腕の中 未来は僕の心の中」
うん、バンドの未来は水野の中にあったのだよ。看板だったからね。
「時がいつか僕を変えるだろう」
でもね、そうやって「何かが僕を変えてくれる」という受け身だから、変わらなかったのだよ。大山だけじゃ変えてくれないのだよ。
「失うものは何にもないだろう」
そうして最終的に、バンドを失ってしまったのだよ……「永遠に続くものなどあり得ない」わけだから。
03 CLOCK WORK MACHINE
2枚リリースされた「1曲収録シングル」の曲。一気にグラム化した疾走ナンバーで、いったん終了してリプライズのように演奏がエクステンドされるのがスリリング。でもシングル曲まで小粒になっちゃったなー、という印象は否めないかも。
04 DO YOU WANNA LOVE ME?
たしか、つまらなかった(記憶にも残っていない)。
05 未来世紀で恋をしよう
最後のシングルにして「1曲収録シングル」の曲。もうカップリング曲を作る力もなかったのかねぇ。
作詞が森雪之丞と、力が入ったミディアム・ナンバー。でも冒頭から「チュッチュッチュールルー♪」とハミングされるのが、どうしても少し前にリリースされていたイエモンの「TACTICS」を思い出してしまう。てか正直パクリかと思った。
歌詞が美しく感動的ではあるが、2000年の未来世紀が来た途端に活動停止してしまったのだよねぇ。スペカウ。
06 SUNBURN
たしか、つまらなかった(記憶にも残っていない)。
07 NEXT LIFE
たしか、つまらなかった(記憶にも残っていない)。
08 ELMORE
たしか、つまらなかった(記憶にも残っていない)。
09 MALIBU BEACH NIGHTMARE
まさかの、ハノイ・ロックス代表曲のカヴァー。わかりやすいグラム・アイコンのカヴァーだけに、デキは悪くない。しかしこの「グラム宣言」のおかげでスペカウはつまんなくなり、一気に崩壊していった。たしかにとてもいいんだけど、それはこの演奏がいいわけではなく、原曲がいいだけだ。
10 SLOW DOWN
たしか、最後の曲なのに退屈だった(あまり記憶にない)。ホントこのアルバムは印象が薄いわ……。
シングル
・SHINING IN THE BED (SINGLE VERSION) c/w GLITTER TRIP
・SO YOUNG (SINGLE EDIT) c/w DO IT YOURSELF
・SHE'S BUTTERFLY c/w MAGIC MOMENT
・SOLITUDE c/w GOOD FEELING
・FURRY PARADISE c/w SPIRITUAL GAME
・スペース マン c/w TOUCH ME
・CLOCK WORK MACHINE
・未来世紀で恋をしよう
スペカウは、ほとんどのシングルに未発表曲をカップリングしていた。しかも初期はアルバムとヴァージョン違いやミックス違いにする気骨もあった。だが最後のアルバムに収録された2曲は「1曲入りシングル」になってしまい、バンドが徐々に色あせていくのが目に見えるようだった。しかしカップリング曲も特筆するようなものはない。
注目は「スペース マン」。アルバム未収録のマキシ・シングルで『BUG』の次にリリースされた、オリジナル・メンバー最後の楽曲。ゆるめのブラスト・ビートにメロディアスなベースが乗っかり、ギターが加わっていくイントロから地味に盛り上がる。なかなか意味不明な歌詞も楽しく、けっこういい曲なんだけど……きっと、次のアルバムに入れる予定だったのに脱退劇につながってしまったのだろうなぁ。だってファンの僕でさえ、デジタルなジャケットを見て「テクノになってリズム隊はずされたか?」って思ったもの。
……というふうに。
スペカウはヘンテコな展開や、普通はありえない転調を武器に、奇妙な楽曲を多く世に出していた。
しかしなかなか売れない反動からか、その作風は「SOLITUDE」を頂点として、一気に正統派な展開を軸に据える。あげくルーツのひとつであるグラムを標榜し、活動停止。自ら可能性を狭めて自爆してしまった印象しかない。
最初の4人は、ルックスを見ただけでもキャラが立っていた。中心人物にイケメンに野蛮人に変なチビ。ところがメンバー・チェンジで「みんなホスト」になって個性さえ埋没してしまった。
ここに、何を見るか。
「人気とか魅力って、曲だけじゃないよね」ということだ。
ずーーーっと比較している、というかレーベルにも世間にも比較されてしまった、イエモンとルックスも比較してみようか。
イエモンは中心人物(ハンサム)、アゴが出てふにゃふにゃした人、顔が四角いサカナ顔の人、タンクトップでストレートの長髪(ハンサム)。しかもアゴと長髪は兄弟で、顔が四角い人は明らかに一番グラムの出で、中心人物はデビュー時に結婚もしていて子供までいた。ついでに言えば今は眞鍋かをりの旦那だ。うらやましい……という感じで、とかく個性が強い。えっと一応ですがイエモンも大好きなのでこれは悪口じゃありません(←フォロー)。
そのうえ曲作りがスペカウと段違いに上手で、デヴィッド・ボウイのリスペクトからコンセプト・アルバムも作れる。グラムはあくまで出発時点の手法であり、実はとかく音楽的な引き出しが多い。
それに対してそこそこの個性で目を引いて、ヘンな曲で注目を集めたスペカウが、そのどっちも消しちゃうと「無」になっちゃうのだ。だから最終作の「グラム宣言」は「自爆準備」に等しかったのだ。ああ。
けど、それまでのスペカウは「そこそこの個性」「ヘンな曲」がとっても魅力的だった。ちゃんとした構成の曲もできることを『BUG』で証明した。その先にあったのがメンバー交代劇なわけで、焦って路線変更して自爆したようにしか見えない。音楽的なストックが尽きて原点回帰したような、そんな虚無を感じる。
いろいろ知っときゃよかったのよ、スペカウも。
どちらも好きだと、イエモンとは「音楽的語彙」がまったく違うのがわかる。語彙力が少ないのを想像力でカヴァーしていたのが楽しかったのに、少ない語彙力を正当化してもらおうとしたら、そりゃ中身がなくなるわけで。
でも、憎めない。
それこそが、スペカウの魅力だったのに。
スペカウは、フェイクをリアルな楽曲に仕立てるバンドだった。そのフェイク感がとっても魅力だった。だからリアルだけを武器にすると、てんでスッカスカになってしまう。中身がないから(←とうとう言っちゃった)。
もったいないなぁ。きっとファンは「そんなスペカウという存在のファン」だったのになぁ。
喩えて言えば佐藤二朗や出川哲朗が真面目一辺倒なディナー・ショウを開いてエルヴィスみたいなラヴ・バラードを歌って、客に「真面目に聴け」と言うようなもんである。キャラ込みで魅力なのに自分のやりたいことだけ優先してキャラを消しちゃう、っていうね。
だからスペカウには「フェイク」を貫いてほしかった。レーベルがつけた「イエモンのニセモン」のイメージが嫌だったのだろうけど、「それが魅力だった」。いっそのこと、その後の時代に多く言われた「ポストなんとか」を先駆けてほしかった。イエモンで。
それぐらい姿勢がはっきりしていたほうが、ファンだって応援できただろうに。ねぇ。
そんなわけで。
このような文章がスペカウの魅力を伝えているかどうかわからないけど、一度スペカウを通過した人なら「ああそうそう!」とか「何言ってんの! 『SILVY』名曲だよ!」とか思ってくれるでしょう。
そうやって思い出すことで、この「自縄自縛バンド」の供養になるんじゃないのかと思う。
MP3販売とかもされてないから、聴きたきゃ地道に中古を探すしかないけど。幸いコアなファンがいてYouTubeでPVなどが見られるので、気になった方はぜひ試してみてね。たぶん「こんなもんか」だろうけど。
しかしそれが、なぜだろう、不思議なスペカウの魅力なのだから。
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