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特定ミュージシャンを好きになると、その先に待っている各種地獄
誰かを、好きになる。
それって恋でも趣味でも同じ、やはり「盲目」に陥りがち。好きすぎて対象の全部を知りたくなり、すべてを自分のものにしたくなる。
いや別に、これは男女に限ったわけでもなく。それこそ趣味、音楽でもそういう人は少なくないのじゃないだろうか。
クラシック愛好家は同じ曲でも指揮者やコンサート・ホール、オーケストラなどの違いを楽しむし、ジャズ愛好者は同じ曲の演者や楽器、編成や年代などにこだわる。対してポップスやロックは、完成したワン・テイクがずっと流通している。
そうなると火が点きやすいロック好きは、のめり込んでいくんですよ。
「このミュージシャンの全音源を揃えたい」と……。
【シングル地獄】
さて、後追いで好きになったミュージシャンの出ているアルバムを全部買った。しかし知られているのにアルバムに入っていない曲が多い。
それはどこに収録されているのか……と思えば、よくあるのは「シングルのカップリング曲」。アルバムに収録されず、シングルのみの収録になる曲も多い。またはシングルのタイトル曲が「シングル・ヴァージョン」だったりもする。
しかしシングルはアルバムと違い、比較的短い命。注文しようにも廃盤になっていてネットオークションにすがったり、中古盤を探しまくったり。そのくせコスト的にはアルバムよりずっと悪いので、とてもお金を浪費している感覚になってしまう。
あげく再発売されて「ボーナス・トラック」で収録されることもあるわけで。難儀よのぉ。
トドメに、タイトル曲もカップリング曲も、すでに持っているアルバムに収録されている場合は購入すべきかどうか悩みに悩む。だって音源的な意味ないもん。アイテムとしての意味しか。
ここで買うかどうかで、追求度の差が出ますね。間違いなく。
【初回盤地獄】
ふと気づくと、自分の持っているアルバムとネット掲載の写真では、デザインがずいぶん違う。
なぜかと思えば、後追いの自分が見ているのは一般的な再発盤で、ネットに載っているのは「初回盤」ということがままある。
初回のみ紙スリーヴ入りとか、変形ジャケとか、紙ジャケとか。さらには初回盤のみ収録されている曲もあったりして、揃えていたはずが全然揃っていなかったことに気づいて顔が青ざめる。あげく通常盤とボーナス曲が違っていたり、洋楽だと日本盤と海外盤でボーナス・トラックが違っていたり。
そこで「全部集めるか」「全曲を集めるか」の指針で分かれるのじゃないかと思う。僕はおおよそ「全曲」のほうになりました。
【インディーズ音源地獄】
なぜだ?
ライヴ・アルバムでよく演奏されている曲が、どのアルバムにもシングルにも入っていないのは。
よくよく調べてみると、ミュージシャンなりバンドが「インディーズで1枚だけリリースしていた」みたいなことが多い。特に80~90年代は「インディーズで出してからメジャー」がセオリーで、最初からメジャー流通ができるバンドさえ「1枚だけ、インディーズで出しとくか」みたいなところがあった。
で、当然ながらインディーズのカタログは売り切りなので短命。ネットオークションを見たら軒並み高価。
あきらめていたところで、なんとインディーズ流通のアルバムがリマスターされてメジャー流通で発売!……したのに2曲カットされていたりする。
中古盤屋を覗くか、高額でもネット経由で買うか、それともあきらめるか……でも恋って、前しか見えない。だから愚直に毎日中古盤をチェックしたり、大枚はたいてネットで買っちゃったりする。
ここまで行った人は、もう、戻れません。
【オムニバス地獄】
なぜだ?
それでも、まだ知らない曲がある……と思いつつ見た、多数のミュージシャンが参加しているアルバム。近年は「コンピ」と呼ばれる、いわゆる「オムニバス・アルバム」にちょっとだけ参加していることに気づく。そこに未発表曲を提供していたりするわけだ。
オムニバス盤は、メジャー流通でも短命。なぜなら出した時ぐらいしか売れないから、再プレスもほとんどない。まだまだ中古盤屋とネット徘徊の鬼は続くのです。
しかし手に入れる瞬間、とても躊躇してしまう。
「このうち1曲しか聴きたくないのに、3,000円も払うのか……」と。
それでもオムニバスにまで手を伸ばしている人は「あと少しでコンプリート」なので、たいがい戻れないのです。恋は盲目。猪突猛進するしかない。
【ゲスト地獄】
さぁ、とうとう全音源を集めたぞ!
でも何? 仲のいいバンドにゲスト出演していたの? 1曲だけ歌ってるの? 1曲だけギター弾いてるの?
……買うかー(ぼそっ)
【ソロ地獄】
そんなふうに個別メンバーがゲスト参加までするバンドで、ありがちなのはソロ・デビュー。
ヴォーカルはソロで、他の楽器担当は別メンバーで新しいバンドやユニットを組んでデビュー。かといって解散するわけでもなく、平行活動で。
それまでに培ったスキルでもって、もはや「最初から全部買う」になっているのです。この状況下においては。
まるで惹かれなくても好きなバンドのメンバーだから買う。けど、ほぼ聴かない。もはや卵とニワトリよろしく「聴くのが先か、買うのが先か」状態です。
【提供曲地獄】
悩ましいのが、ここ。
歌っているわけでも、演奏しているわけでもなく「歌詞提供」「楽曲提供」したケース。
だって本人じゃないんだもん。ていうか、この場合「本人」は別の人なんだもん。あくまで作詞・作曲だけであって、本体は別のバンドやミュージシャンやアイドルや女優。どうしてそんな人に提供を……と思いつつ、好きなバンドのメンバーが提供するぐらいだから、きっとその人を認めているのかな、と自分の中で決着をつける。
だから。
買うよね。ここまできたら。
【ベスト盤地獄】
安心したのも束の間、バンド本体が再始動!
そこで新しいベスト・アルバムが出ます~!
……全部、持ってる曲なんだよねぇ。
でも買う。違いがわからないけど、リマスターされてるらしいし。とりあえずの名目として。ボーナス・トラックがあれば喜んで買えるのだけど、いやーリマスターも何もない、ただ曲を集めただけのベストはどうしようかなぁ。
なんだろう、この「納税」しているような感じは。
それはファンから「バンドへの愛の納税」であり、購入することが「愛の証」なのです。
たとえ似たようなベスト盤が何枚も出ようとも、税ですから、義務なのです。ええ。
【リミックス地獄】
これは、かなりのボスキャラ。何せ好きな対象は「もとの音源」でしかなく、メンバーでもない人がそれを素材として好き放題に遊んだもの。
得てしてリミックスは歌が省略されるきらいが強く、いわゆる「にほんのロック」として楽しめない。テクノとかを聴き進めないと楽しむ感性自体が育たないでしょう。
なのにヴァージョン違いの新作ぐらいに思って購入し、流したら機械的なリズムが流れた時の絶望感。
「なぜこれを買わなければいけなかったのだろう……」
と打ちひしがれても、もう、恋は戻れない。義務だし納税だし恋だし。もはや愛がないと追ってらんない。
【書籍地獄】
さぁ、最後の砦。
あなたは「バンドの回顧録」「バンドの評論本」「メンバーのエッセイ」「メンバーの小説」「バンドの写真集」……そういった「書籍」を、どこまで追いますか? それとも、追いませんか?
答えはいつもそうだったように、きっと、自分の中にある。
恋心を天秤にかけましょう。
【ところが今や】
そうやって懸命に集めた全音源。乱発されたベスト盤でシングル音源はまとめられたけど、こんなインディーズ音源やオムニバス音源なんて持ってるヤツいないぜ!
と誇らしげに覗いてみたYouTube。念のため検索をかけてみると……あるんだよなぁ、その「レアなはずの音源」が。「誰にでも聴ける状態」で。
まさかと思ってAmazonなりAppleなりで検索すると、まぁ何とデジタル販売もしてるじゃないですか。MP3で単曲150円とかで。1曲のために3,000円かけたオムニバス盤は何だったのか……と思わず今までの苦難がフラッシュバック。もうファンやめちゃおうかと思うこともあるでしょう。
でもね。
そうやって手軽に聴ける曲の重みと、足と情報で探した現物の重みは、やっぱり違うんですよ。MP3だと150円だから1回聴いてストックしてハイおしまい、になりがちだけど、3,000円で買ったオムニバス盤は「少しでもモトを取り返したい」と思って聴き込むんですよ。また聴く感情もライトではなく、一音も聞き逃さないよう、しっかりヘヴィに聴けるんですよ。
だから幼馴染とかクラスメイトって強いのよ(いきなり)。それまで意識していなかったのに、それまでの想い出が「全部、恋色に変わる」から。意識していなくても一緒にいたすべての時間が、恋の歴史になってしまうから。
【自分に正直になろう】
あなたの恋は、間違ってなんかいない。
恋に正解はない。間違いなんてない。
好きになったらとことん好きに。嫌いになったらしょうがない。
どこまで好きになるかを決めるのも、いいんじゃない?
それって男女間でも、すべての趣味でも同じじゃないでしょうか。極めたい人もいるし、自分が楽しめればいい人もいるし、距離を保つ人もいるし。って何だか怪しいセラピストみたいになってきたので、ここらへんでシメましょう。
「音楽も、恋と同じ。」
まるで資生堂のキャッチコピーのような言葉で、今回はおしまいにさせていただきます。
お粗末様でした~。
(追伸:本文は特定バンドのことではございません。べ、別にBUCK-TICKのことなんかじゃないんだからね!)