見出し画像

かわいそうなローランド


 ああ、かわいそうなローランド・グラポウ。
……最初に、そう言い切ってしまおう。なぜかと言うと、きっと書けば書くほどかわいそうになってくるからだ。
 どれだけかわいそうかと言うと、簡単にバイオグラフィを書いてみる。


1959年 誕生、12歳からギターを始め、先生に習ってちゃんと勉強する。
1980年代初頭 「ランペイジ(The Rampage)」というバンドに参加して2枚のアルバムを残すが、まったく不発。
1990年 脱退したカイ・ハンセンの後釜としてハロウィンに加入。
1991年 ハロウィンがトラブルに見舞われアルバムやツアーで難儀。
1993年 アルバム『カメレオン』大不評。その一因として槍玉に挙がる。
1994年~2000年 新加入メンバーの活躍めざましく、どんどんバンドの居場所がなくなっていく。
1997年・1999年 ソロ出すも不評&不発。
2000年 ハロウィンを大ゲンカの末に脱退。
2003年 自身がリーダーのバンド、マスタープラン結成。
2005年 一緒にハロウィンを脱退したウリ・カッシュがマスタープランを脱退。以後メンバー交代続々、細々と活動。
2016年 ハロウィンがマイケル・キスクとカイ・ハンセンを招いて再集結。追放の身なので声もかからず。
2017年 悔しいので自分のバンドでハロウィン楽曲のセルフ・カヴァーを出すが大失敗。
2020年 こんな文章を書かれてしまう(←書いてるのは俺だ、笑)。


 うーむ……この人、人気バンドのハロウィンに入ったのに「成功した」と言えるのだろうか?
 ヴァイキーとのツイン・リードとはいえ「ハロウィンのリード・ギタリスト」という華やかな位置にいたはずなのに、なぜかポジティヴになれそうな要素がない。なぜだ。
 以後、その理由や結果を詳しく探っていこう。


【ウィキペディアのページがない】(2020年5月現在)
 これはイキナリかわいそう……(笑)。
 短期間しかいなかったドラマーは別として、ウリ・カッシュまで日本語ページがあるのに。なぜかローランドは日本語ページがない。英語ページへのリンクさえない(わはははは)。
 平たく言えば「日本での人気がない」ということか。板前みたいな今のドラマーよりも。


【どうしてもカイ・ハンセンと比較される】
 まぁ、カイの後任として加入したから仕方ないことではあるけども。
 ファンからはいつまでも「カイならこうなのに」と言われがちだった。まるでアンディ・デリス加入後のハロウィンを、ずーっとマイケル・キスク時代と比較している古参ファンのようだ。てか、そういう人がそうしてたんだけど。
 でもローランドの場合、ヘンに我が強いのでバンド・メイトのヴァイキーからも同じように思われていたと推察される。勝手ながらたぶんそうだ。


【どんどん作曲が減っていく】
 これは「公的に」かわいそう(笑)。
 アルバムが発表されるたび、ローランドの作曲したナンバーが減っていく。一応リード・ギタリストのひとりなのに。
 収録曲数で見ていくと……。

『ピンク・バブルズ・ゴー・エイプ』12曲中、5曲
 カイの後任ギタリストなので「幅を利かせてもらっていた」感が強い。

『カメレオン』12曲中、4曲
 キスク、ヴァイキーも4曲ずつ。バンドのバランスを取ったのだろう。

『マスター・オブ・ザ・リングス』12曲中、3曲
 新加入のアンディがいい曲を書けるので、どんどん居場所がなくなっていく。シングルのカップリングで鬱憤を晴らすことに。

『タイム・オブ・ジ・オウス』12曲中、1曲
 さらにドラマーのウリまで書く曲を評価され、かろうじてタイトル曲だけに。

『ベター・ザン・ロウ』12曲中、0曲
 またもウリ・カッシュ大活躍。リード・ギタリストなのに、とうとう居場所がなくなる。

『ダーク・ライド』13曲中、2曲
 バンド脱退の引き金となったタイトル曲ほか、遺恨を残す作曲をしてウリを連れて去る。


【なぜならファンからも「曲がつまんない」と有名】
 きっと「ハロウィンの曲」「ハロウィンらしい曲」を書けないんだろうなぁ。
 初期は意識して書いていたきらいがあるけど、何でもアリにした『カメレオン』でカントリーやロックンロール好きの自我が爆発。
 以後、イングヴェイのモノマネを正当化してもらいたがるようなプレイが目立ち(笑)、バンドから爪弾きにされていたことが感じられる。ハロウィン復興に向けてがんばってたのに、きっと作曲してもボツにされたんだろうな。
 ファンはおろか、雑誌にも不評。タイトル曲になった「タイム・オブ・ジ・オウス」が『BURRN!』のレヴューにて「前の曲(イフ・アイ・ニュウ)で終われば美しかったのに……なぜこんな駄曲をシメに……」という理由で大減点された。シングル・カットもされたのに。なお、この曲と「Mr.EGO」はハロウィンの曲では珍しく、ひっそりとPVではエディットされている(ともにローランド曲)。
 しかも古参ファンからも「こんな曲でインゴ追悼とか言うな! それもヴァイキー作曲ならともかく、新人ヴォーカルの歌詞とカイの代打が作曲した曲じゃないか!」と酷評。まぁそれははっきり言ってその通りである。対して、本気で(ソロ作のセールスのために)追悼曲を作ったキスクの「オールウェイズ」と比較してはいけない。
 でも実はこの曲、悪くない。むしろ「ハロウィンらしい無駄な壮大さ」があって、いい。結局そこなんだよ、ローランドってば。


【なのに自己主張が過剰】
 認められないせいなのか……まずはプレイがイングヴェイ・マルムスティーン風で、なのにテクニックが追いつかない。ファンからさえ「イングヴェイの下手なモノマネ」と言われ、それでもファンが望むハロウィン風にはしようとしない。
 本人はそうした評価に納得がいかないのか、シングルのカップリングで「グラポウスキズ・マルムスウィート (Grapowski's Malmsuite 1001 (IN D-Doll) )」なんてインストまで収録してしまった。これはタイトルからして明らかなように、イングヴェイ好き丸出しスウィート。インストとして面白いっちゃ面白いが、正直『カメレオン』以上に「ハロウィンではない」。
 あまつさえ、同時期の別のシングルではグランド・ファンク・レイルロードの名曲「クローサー・トゥ・ホーム (Closer to Home)」をカヴァー。しかも歌まで! 歌声がまぁオリジナルに似てるというか、朴訥で好印象ではあるが……やっぱり「これはハロウィンなの?」とファンは首を傾げた。


【ソロがひどい】
 自己主張の鬼なら、ソロを出せばいい!
 当人もそれは思ったのか、ハロウィン在籍中に2枚のソロ作を出した。
 1997年作の『フォー・シーズンズ・オブ・ライフ』は恐ろしいぐらいにイングヴェイ。それも「形だけ真似した」イングヴェイで、残念ながら構成や楽曲のデキ、ギター・テクにヴォーカルまですべて「イマイチ」。というのもヴォーカルに自信を持ったのか、自分で歌っちゃってるんだよ! インギーはそれはほとんどしなかったのになぁ……。
 1999年作の『カレイドスコープ』は、僕は買わなかったけどファンからはさらに酷評。イングヴェイの『セヴンス・サイン』『マグナム・オーパス』にヴォーカリストとして参加したマイク・ヴェセーラを招き、さらなる「インギーごっこ」。聴いてないけどインギーのその2作を持っている身としては、聴かずとも内容がわかるような気がする。
 これでやっと懲りて、インギー意識を見せつけるのはやめるようにしたようだけど……きっと「本物と共演したかっただけ」なのかもしれない。できやしなかったが。


【ケンカの末にハロウィン脱退】
 問題作『ダーク・ライド』の路線を主張し、あげく自分のプロジェクト活動を優先しようとして、ヴァイキー&マーカスと大ゲンカ。そのプロジェクトでドラムを担当して片棒担ぎをしたウリとともに解雇される。静かなマーカスにまで「あいつとは二度と演りたくない」と言われ、ほぼ永久追放状態。
 やっぱり自己主張は「民主主義のもとで」やらなきゃいけないんだよね。しかもこの人、よくないことに史上最強のドラマーであり有能なソングライターでもあったウリをプロジェクトに誘っていたので、ウリごと脱退。ああ、ウリがもったいない(←とファンが思ってしまう始末)。
 しかも脱けたあとのハロウィンでは、ギターがひと回りも若い後任の若僧、サシャ・ゲルストナーに「あっさり」コピーされる。それどころかもっとハロウィンらしいテイストで演奏され、ローランドはもう完全に不要の人となってしまった。あああ。


【組んだバンドが話題になったのは最初だけ】
 そうして脱退後、ようやく自身のバンド「マスタープラン」を結成。インギーになるのをあきらめ、正統派路線のメタル・サウンドで2003年にデビューを果たすが、これが話題となったのは「マイケル・キスクがゲスト・ヴォーカルで参加していたから」。
 またキスクも悪いことに、インタヴューで「もうハロウィンは終わったね」とか言っていた。でも彼はのちにリユニオンには呼ばれて参加したわけで、ほんと「てのひら返し」が得意技のバンドである。しかしその対立構造を『BURRN!』誌自身が煽っていたように見えるのは見逃せないが。
 きっとキスク参加がなければ、アルバムどころかマスタープラン自体が話題にもならなかったでしょう。だってどの曲もつまんないんだもん(断言)。そのうえ一緒に脱退して発起人になったウリも、ほどなく離れてしまった。ほんと人望ないなぁローランド。
 そんな感じなので、ローランド経由でファーストは知ってたり聴いてた人は多いけど、そのあと熱心に追っていった人は非常に少ない。自分ばっかり主張して「やらかす」と、こういうことになるのだよ、グラポウ君。
 まして「マスタープラン」というバンド名自体、ハロウィン超初期の名曲「ライド・ザ・スカイ」の歌詞から拝借している。もちろんその時期のリードはカイで、ローランドは無関与。バンド名はファン投票の結果とはいえ、これって単純に「盗っ人猛々しい」のではないか。ね。そーいうことするからぁ〜!


【再集結に呼ばれない】
 で、哀しい結果。2016年からの、マイケル・キスクとカイ・ハンセンがハロウィンに合流した「パンプキン・ユナイテッド」にローランドは当然呼ばれない。当時は長く在籍こそしていたものの、呼んでも自己主張して邪魔されるだけだもん。インタヴューでカイも「彼の話はもういいじゃないか」なんて言ってたぞ。
 かわいそうなのは片棒を担いだのに嫌気が差し、マスタープランを脱退したウリである。バンドを変えながら活動していたようだが、腕を怪我して活動を停止したとか。うーむ……。


【セルフ・カヴァーが大失敗】
 再集結に声もかからなかったローランドは、悔しくてまた自己主張してしまう。ほんと悪い癖のように。
 それがマスタープラン名義で発表した『パンプキングス(Pumpkings)』。パンプキンとキングをかけたこの上なくダセー名前からわかるように、内容もダサい。
 ハロウィン時代のローランド楽曲のセルフ・カヴァーなのだけど、トラックリストからして……

01 The Chance
02 Someone's Crying
03 Mankind
04 Step Out Of Hell
05 Mr. Ego (Take Me Down)
06 Still We Go
07 Escalation 666
08 The Time Of The Oath
09 Music
10 The Dark Ride
11 Take Me Home
12 I Don't Wanna Cry No More (日本盤ボーナス・トラック)

……ううむ、地味だ。これを「ハロウィンのセルフ・カヴァー」と主張されても困る。
 ゆえに、売れるどころか話題にもならなかった。リリースを知らない人も多いだろうけど、はっきり言って聴かないほうがいい。だらしなく重いだけのサウンドとダミ声ヴォーカルで、1回通して聴くのも苦痛でした。


 さて……。
 そんなこんなで、どうにも評価できる点が少ないローランド。かわいそうというか自業自得に思えてきましたが。
 でもね、彼は貢献したんですよ。ハロウィンの再建に。だってカイの後釜という大きなプレッシャーに加え、ヴォーカル交代というさらなる苦境。そこへ昔を知る同僚2名(特に人事部長ヴァイキー)の圧力。病気になっちゃってもおかしくない立場だったと思う。
 その立場ながら、よくやっていたと思う。そりゃあ自己主張が強かったかもしれないけど、そうでもしないとこのバンドは「呑まれてしまう」。そうして主張した末に、純メタルではないアンディがメタル一辺倒ではない良曲を書くようになり、バンドもそれをうまく表現した。だからその後のハロウィンができていった。
 つまり、ローランドが壊した音楽性を、アンディが引き継いでくれたわけだ。ローランド以上の作曲力とバンドなじみでもって(←ここが重要)。
 となるとローランドはいらないわけで……うん。なるほど、わかりました。
 自分の非を認めずに主張ばかりするから、報いに遭ったのだね。でも納得しないと。いるよねそういう社会人。
 でもローランドがキスクに迎合し、少なからずバンドの方向性を変えたのは事実。そのうえでハロウィンが現在までの「ただのメタルではないバンド」になれたのだと思う。
 言葉は悪いけど「必要悪」だったのだよ。きっと。

 ではおしまいに。
 いっそ、この文章のタイトルを変えちゃいましょうか。そうすればすべてに納得がいくはずだ。

「ハロウィンの人身御供、ローランド」

 うん。
 これは一番かわいそうだ……(笑)。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?