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「4人BUCK-TICK」の船出に、乾杯。

 まいったよ。
 ちょこっと書いてたんだけどさ。櫻井敦司がいなくなったBUCK-TICKの新音源を聴くのが怖い、とかいう文章を。でもどうしてか書ききれなくて、それでも届いた新曲を聴いたら、吹っ飛んでしまったのさ。
 でも実は「そんなしみったれた文章を書かなくてもいいのでは」と思っていた。だってBUCK-TICKだもん。今まで「いい意味で裏切ってくれた」人たちで、常に「悪い意味で裏切られた」ことは、なかったもの。
 そして今回も、そう。いい意味で、裏切られた。
 これが最新型のBUCK-TICKなんだぞ、と。「前作までとは別物だぞ」と。
 常に、そうだったように。変化の規模は別として。

 今回の『雷神 風神 レゾナンス』はタイトル曲の1曲シングルなのだけど、リミックス音源入りで2曲収録。豪華仕様や特典で値段が跳ね上がるのは「ご祝儀」だ。B-Tファンにはまったく痛くない。
 いやむしろ……「香典」かもしれない。一周忌の。
 これまでファンは、鬱々と時間を過ごしてきた。櫻井敦司不在のBUCK-TICKが、それでも起動するという情報を得て。
 だって、あっちゃんがいないんだよ? あの「声」がないんだよ?……そう思っただけで、不安だった。いや実際、音源が届くまでずっと不安だった。
 しかし一聴して刹那、不思議と「ストン」と意識が落ちた。変な表現だけど、「あらかじめそこにそれがあったかのように、その場所に『意識が落ちた』」。
 何だろう、この既視感。というか、安心感。
 これが間違いなくB-Tの新曲なのだ。あっちゃん不在でも、あの今井ヴォーカルと初めてメインを張る星野ヴォーカルでも、まったくもって「BUCK-TICKの新曲」になっているのだ。
 まぁ考えるでもなくBUCK-TICKの音世界は「櫻井敦司以外の4人」がメインで構築していたわけで、あっちゃんはあくまでその「世界観」の主だったわけで。ということは「プロットさえあればどんな世界でも描ける」わけだ。この4人は。
 そのスケッチを描くのは、もちろん「BUCK-TICKの音」今井寿。「BUCK-TICKの声」を失った今、その「音」が世界を広げ、今井と星野がヴォーカルを補完する。このふたりのヴォーカルは櫻井敦司のように「独自世界を作る」というよりは「楽曲世界を補完する」ように響いている。
 結果、どうだ。
 この「雷神 風神 レゾナンス」は、立派なB-T楽曲として世に出ているのではないだろうか。名義だけではなく、B-Tの武器とした「雰囲気」そのものが!

 この「下降していると思われて当然」な状況に「上昇気流」ですよ。「この地上で生き抜くことだ」ですよ。
「Boys don't cry」って、未だに泣いてるのは男ばっかりだよね。「Girls fall in love」って、それだよBUCK-TICKは!
 歌うことを意識した部分もあるだろう、星野ギターのコード弾きが印象的。それこそ風神の突風のように張り裂ける。今井のギターは雷神のごとく、今でも自由自在に雷を落とす。ユータの「感情を一度振り切ったベース」と、アニイの「デビュー当時のスネアを使ったドラム」はBUCK-TICKには珍しく、とても温度感というか湿度のあるリズムを作り出す。今までは作曲陣に遠慮して、求められるがままの一歩引いた、乾いた音だったように思うけど。
 ああ、まとまった。
 そう感じたのは、自分だけだろうか。
 絶対的な存在を失うことで、それ以外の4名が、それぞれの存在意義を打ち出し、収束し、ここにまとまっている。それもBUCK-TICKらしく「自然に」。
 これなら、心配していた「ジム・モリソン逝去後のドアーズ」にはならないだろう……!

 もうね。いいや。
 湿っぽく「あっちゃんいなくなっちゃったどうしようでもB-Tはやるんだよねきっとそれなりにイイんだろうなぁでもあっちゃんいないんだよなぁ」という文章を書きかけてたんだけど、消します。
 この「現行BUCK-TICK」が、消してくれた。そうした思いを。
 このBUCK-TICKが、これからのBUCK-TICK。長年のファンである自分は再始動に感情移入している面があるのは否めない。きっと「あの声がなくっちゃダメでしょ」という人はいるだろうし、人によって評価は違うだろうけど、「現在のBUCK-TICKはこれ」であることは、間違いない。
 そのうえで、前も書いたけど「最新のBUCK-TICKが、最高のBUCK-TICK」なんだから……!

 なお、カップリングのリミックスも「せっかくできた曲を早く崩したい癖がある今井寿」を感じて素敵だったりする。「BRAN-NEW LOVER」はすぐにリミックス出たよね。「螺旋 虫」「Moon さよならを教えて」なんかは先にリミックス出たりしたもんね。
 それが「まったく痛くないハンマー・ビート」のようなゆるい打撃ミックスで、新進気鋭の「パソコン音楽クラブ」にリミックス依頼というあたりが、また今井らしい。
 むしろ「多くの曲を作って4人BUCK-TICKの持ち曲を増やしたい」ところを、こうした展開で気を持たせるのも。ね。

 そしてまた、久しぶりに買った『音楽と人』最新号の4人インタヴューを読むことにするよ。後ろ向きな文章を書かなかったのは、そこで読める前向きな4人のおかげも大きくて。
 アルバムが楽しみに、なってきた。ようやくだけども。

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