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黒いツェペリナイ
リトアニアで有名な料理がいくつかあるが、現地に行ったことのある方なら知っているのが「ツェペリナイ」だ。ツェペリナイは簡単に説明すると肉がマッシュ状になったじゃがいもに包まれた料理だ。
この料理を教えてもらう前に、ネット上に載ったさまざまなレシピでこの料理を数回作ったことがあるのだが、1度として成功したことがなかった。何が成功ではないと言えるのか?
一目瞭然。この料理の肝である挽肉を包むじゃがいもがすべて溶けてなくなってしまうのである。この原因を解明すべく、リトアニア滞在時には必ずツェペリナイの正しい作り方を習うことに決めていた。
煮崩れしない正しい作り方を教えてもらう前に、本場のツェペリナイを食べることにした。
ツェペリナイを提供するレストランに行くのだが、メニューの写真には必ず2つのツェペリナイが双子のように並んでいるのだ。
日本を発つ前にさまざまな経験者から「ハーフポーション(半人前)にしてもらった方がいいよ!」というアドバイスをもらっていたので、その教えに従って必ず半分の量ができるかを確認することにしていた。
1つのツェペリナイだけでもお腹がいっぱいになるので、半分にできなかった場合は、やむなく別のメニューにするのだった。
ある日茹でられたツェペリナイが余ったらツェペリナイを焼く「焼きツェペリナイ」というツェペリナイの派生料理があることを知った。
焼きツェペリナイは当然のことながら、茹でツェペリナイができないと「焼き」までは行けないので、家庭でいきなり焼きツェペリナイを食べるわけにはいかないのだ。そして、理論的に考えると茹でツェペリナイが余らないとそれは作れないことになる。
というわけで、焼きツェペリナイを食べるために、とある日はレストランに入った。決まって聞いた一言「ハーフポーションにできます?」
「できないよ」
「なんだと!!! 」ただ、焼きツェペリナイはかなりの工程が入るので、「じゃ、別の食べるか」と考える余地もないのと、他のメニューを選んだところで全部対応できないと言われるのがオチなのだ。
そして別のメニューは頼んでもさらに胃袋に入れる拷問のような任務が出てくるため、結局「焼きツェペリナイ」だけを頼んだ。
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「これかぁ。これなのか。」
もはやおいしかったのかどんな味だったかを評価する前に、大量の焼きツェペリナイを完食する気持ちだけが前にきて記憶が薄くなった。
拷問に近い大量の量を全部食すことはさすがの私もできず、ハーフポーションで注文必須という先輩方のアドバイスが沁みた。
とある日、散歩がてらリトアニアの首都ヴィリニュスの旧市街を歩いていると、そこかしこにレストランがあり、どの店に入って良いのかわからなくなる。
どういう基準で入るのかというと大抵は知り合いの評判や、スマートフォンで地図検索して発見する場合もある。この日は、旧市街の歩いていると、広場の入り口にちょっとした看板が目に入った。黒い丸いものが写真にあり、「黒いツェペリナイ」と表示がある。
「黒?! これはただならぬツェペリナイ」と思い、その看板を見ただけで行くことに決めた。どんなツェペリナイなのか気になるところ、どんな味か確かめてみなくてはならない。
昼すぎにその店に向かうと、私のほかにお客さんは誰もいない様子。旧市街の中心に近い場所にあるにもかかわらず、人がいないことに若干の不安を覚えつつも、私は黒いツェペリナイを迷わず注文した。
どうやらハーフポーションも対応可能なようだ。
席についてツェペリナイだけでは、申し訳ないと思いスープも頼むことに。スタッフさんとコックが一人ずつ、サービスはスマートではないものの、悪くもなく普通だった。
出てきた黒ツェペリナイは、本当に黒かった。
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黒いツェペリナイは初めて見た。看板のイメージに違わず、真っ黒だったのだ。そうなるとこれがどうやって黒くなるのかが気になるところ。
私「このツェペリナイですが、何で黒くなるんですか?」
スタッフ「黒いじゃがいもがあるんだよね」
私「えー? 見たことないなあ、黒いじゃがいもなんですか?」
・・・
確かに赤い色のじゃがいもまでは見たことがあるけども、くっきりとした黒いじゃがいもは見たことがない。その後は特に返事がなく、お店の秘密なのかと思いながら店を後にした。
もしかしたらタピオカ粉でも混ぜてるのかもしれないが真相はいかに・・・そんな話を後日リトアニア人に話したところ「それはもしかすると、色を付けてるんじゃないかぁ?」という発言も耳にした。
いまだに真っ黒なツェペリナイの謎は解明できていない。ただ、ツェペリナイに色をまとわせることは良いアイディアではないか。そう思った。
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