You will never know how close you came(リバティーンズ再結成についての見解)
本稿は2010年7月28日に書かれたリバティーンズというバンドの再結成ライブに対する(愛憎入り交じる)個人的な見解です。
リバティーンズというバンドが何者なのか?ということについては本稿では全く触れておりませんので、興味のある方はWikipediaをご覧ください。だいたい、こちらに記載があります。ピート・ドハーティって、ケイト・モスの元彼の豚野郎でしょ?って、まあだいたいそんなところです。
推しのアーティスト、というにはあまりにも私の人生の根幹的な部分に触れるほど重たい愛情を持っているアーティストなので、そもそもこれが「推し」という言葉で表して良いものなのか、始まりの時点で間違っている気がしますが・・
世界は決して「リニア」ではない
「すごく簡単に・・人間の本能は、単一文化主義になびくと思うんだ。いろんな別々のカラーだったのが、突然ふっと一色になるんだよ!
他のもは全て失われてしまう。そうならないといいんだけどね」(カール・バラー)
リバティーンズが再結成する。私個人の感覚としては、それ自体にさしたる衝撃は感じなかったが、(そもそも各目上は解散ではなく「活動休止」だったわけだし)パブという「如何にも、」な場所であったとしても、彼らがそれについての記者会見を行ったこと自体、私にとっては驚きだった。
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音楽(体験)においてわたしたちは一つの事象=(光学・音楽的な)情報を受け取るとするのならば、パウル・ベッカーの言説は「情報とは(外部にある何かではなく、)」有機体の内部に創出される現象である」というブリアの考え方に回収可能であるとして、
そこに生きている動物の内側の視点から環境を捉えるエクスキュルの「環世界」論を加味すると、このところあらゆるジャンルを語るにつけ、「個-性 individuality」とそこから派生する「多様」性についての強い関心を感じている。
ここで私は一旦、「世界」を巡る視座についてはベッカー×ブリア×エクスキュルのマッシュアップだと定義する。
つまり、ヌーヴォー・レアリスムの「集合的な単独」的に、そこにおいて彼らは想起する「個」を環境世界にみちる不可知なものである、ということをメタに俯瞰する。世界は決して「リニア」ではないからだ。
「オアシスが公営団地の住民の気持ちを代弁しているなら、おれたちはその裏のゴミ箱の中で、今日の日付を思い出そうとしているやつのため歌っている」と行ったリバティーンズの登場はだから当時、私の目にはかなりラジカルに映った。
Media hypes, Media makes
実態のどこか暈けた存在として在り続けたリバティーンズというバンドは、実際に「時代」には帰属していなかったと思う。
ヴィデオクリップ内で自分たちのシングルを万引きしてみせ、何本も打ったゲリラギグは彼らの佇まいの代名詞のようになったし、名物となったピーター・ドハティ(Co-Vocal)の一連の破壊的な行動・喧嘩・スクウォット・・音楽活動とパラレルに見せた彼らの、「libertine」の名前に恥じない文字通りの奔放さは言うまでもない、周知のことだろう。
彼らはある意味ではイコンとして、但し前述のエピソードが語るように捉えられないものとして「在った」、のかもしれない。
例えば、「breck road lover」や「you're my waterloo」的な哀愁漂うナイーヴなバラード・ナンバーや、「anything but love」的な軽やかなギターポップ・チューンと、「the horrorshow」、「boy looked at johnny」、「time for heroes」といった「如何にも、」なポストパンク然とした曲を同値するのは少し難しい。
ヴェルヴェット・アンダーグランド、ニルヴァーナ、スミス、ストラングラーズ、ジャンゴ・ラインハルト、チャス&デイヴ、或いは祖母が歌っていたような英国の古い歌謡といった、持ち合わせる参照点の多様さ(或いは雑多さ)や、
或いは「love on the dole」に見られるメンバーのフェイヴァリットであるセンスレス・シングス、オンリーワンズ的パブロックに対する明らかな系統も、ストリーツ、コーラルといった同世代の気鋭のバンドに対する目配せも、飽くまで綯い交ぜにし、フォグにした上で、
実態のどこか暈けた存在として在り続けたリバティーンズというバンドは、実際に「時代」には帰属していなかったと思う。
付則すると「00年代初頭」の象徴として、或いはリバティーンズとよく対置されるストロークスについては、その存在は逆に「象徴」として「時代」に則していたために「現在」の耳で聴くに際してわたしたちは時代を「遡行」してしまう。(懐古主義的な意味で)
しかしそれは逆説的に、それ故に『is this it』を通してストロークスを「語る」所作を可能にしているともいえる。(こんなものもあったね、懐かしいよね、という意味で)
もしきみが音楽への愛を失ったら、そのときがこの世の終わりだ
いや、もしかしたら「良かった時代なんてない、今が一番美しいんだ」という固形のパラダイムに捕らわれてしまっているのは他でもない、「アルビオン・セイルでアルカディアまで」という「リバティーンズ」の創出したロマンティズム的な虚像に心を奪われた、私たちなのかもしれない。
英国のプレスといえばメディア・ハイプという言葉を反射的に思い起こす方も多いだろうが、リバティーンズを取り巻く環境についてはメディアによる虚像があったのは明らかで、ジョン・ハッサール(bass)がヴォーカルをとる「sister sister」をはじめ、
前述した「彼ら」を紐解く上でキーになる多くのナンバーが公式なアルバムから外(さ)れている後景には、実質2枚というリリース数の中でアルバムに統一感を持たせる遣り取りの他にも、「ピート&カール」をco-フロントマンに「祭り上げ」たメディアの影響は少なからず、しかし隠し得ない事実として在るだろう。
「時代」を牽曳する存在だったストロークスに比してだから、「the libertines」というものの実態は、本質的には「無」かったのではないか。
ー以上のイントロダクションを交えても、「今のイギリスのシーンに於ける最重要バンド」として彼らを掲げる今回の再結成劇を巡る一連のプレス、および音楽関係者からの動きには驚いてしまったのが正直なところだった。
「過去の曲を引っ張ってくることも難しいんだから、」と前置きをしつつも「新曲はやらないよ」と断ったピートを見るにつけ、
インターネット上の情報ではあるが、「リバティーンズのファン」らは、アダム・フィセク的に言うならば、「still suffering from the mishmash of feelings(from the recent events)」という気持ちで、諸手を挙げて賛成とは言えない気持ちを持て余していたように思う。
事実、私自身も戸惑っている。
いや、もしかしたら「良かった時代なんてない、今が一番美しいんだ」という固形のパラダイムに捕らわれてしまっているのは他でもない、「アルビオン・セイルでアルカディアまで」という「リバティーンズ」の創出したロマンティズム的な虚像に心を奪われた、私たちなのかもしれない。
NMEアワードのスピーチでタバコを吸いながら詩を朗読する彼らの佇まいが、ピートとカールの危うさが、目を離せないほど眩く魅力的に見えたのは確かだ。そしてそれは一生忘れられないだろう。それは事実だ。
I knew a simple soldier boy
Who grinned at life in empty joy,
Slept soundly through the lonesome dark,
And whistled early with the lark.
ある無垢な少年兵の話
空虚な人生の悦びに満足し
漆黒の闇に独り眠りにつき
鳥のさえずりとともに朝を迎えるようなー
In winter trenches, cowed and glum
With crumps and lice and lack of rum,
He put a bullet through his brain.
No one spoke of him again.
冬の塹壕はおそろしく陰鬱
爆撃の轟音とノミと空になったラム
彼は銃口を頭に向け
やがて戦争とともに忘れ去られる
You smug-faced crowds with kindling eye
Who cheer when soldier lads march by,
Sneak home and pray you'll never know
The hell where youth and laughter go.
少年兵の帰還に
気取った顔の群衆は熱狂する
名もなき若者の笑い声がどこに消えて逝くか
そんなことは考えもしないよう
(ジークフリート・サスーン「Suicide in the Trenches」※死ぬほど意訳)
If you've lost faith in love of music, oh the end won't be long
(「Good Old Days」より)
なるほど確かに、リバティーンズを失ったセカイは空虚だったかもしれない。だが、リバティーンズという崩れ去った虚像を再び紡ぎあげた先に、「あの頃」は果たしてあるのだろうか?
リーズ&レディングフェスティヴァルで「スマッシュ」するであろう「鏡」の向こうにいるのはまだ「悪魔」なのだろうか、彼らの動向は気になるところではある。
<参考>
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