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視点・余剰価値・外部性(「1 review/ day」プロジェクトのキャプション)

本稿は2012年に書かれたもので、美術大学の学生に対して行ったレクチャーの概要でもあります。

基本的には自分が行っていた「1 review/ day」というプロジェクトのために書いたものですが、(現代)アートに関するアプローチについて、美術批評家はどのようなアクションができるのか、また、当事者としてのアーティストはどのように立ち振る舞うのか、ということについて、私自身の考えを纏めたものでもあります。

なお、本稿で触れているデミアン・ハーストのtwitterアカウントについては、恐らく偽物ではないかと思いますが、考え方そのものは面白いので採用しています。

アートを買うということはアートそれ自身を定義することだ。

デミアン・ハーストのtwitterアカウントに、「buy to define art」というつぶやきを見かけた。本物かどうかはわからないが、曰く、“芸術の定義は「第三者」がするもの”である、と。これは私の曲解かも知れないが、そこにおいて彼は、アートを「アート」足らしめるものは「外部」性だと言ったのではないだろうか。

1973年、シカゴのアパートで孤独死した彼の部屋の整理に訪れた管理人、ネイサン・ラーナーが、タイプライターで記された1万5145ページにも及ぶ大作『非現実の王国で』とその300枚の挿絵を見つけるまで、ヘンリー・ダーガーは厳密には「アーティスト」ではなかった。

ニュー・バウハウスの文脈に位置付く「芸術家」としてのラーナーについてはここでは子細には触れないが、自分の部屋に遺されたものは「好きにしていい」というダーガーの言付け通り、「他人に見られる事を嫌がった」彼の絵をラーナーは一部を販売し、一部を美術館に寄贈するという形で「他人の手」に渡したわけだが、ヴィヴィアン・ガールズ達の「その後」については周知の通り、『非現実の王国で』は同タイトルのドキュメント映画になり、“性格は几帳面で、訪ねてくる友人もいなかった敬虔なカトリック教徒”としての「生前」を過ごした「ヘンリー・ダーガー」の名前は今や、「(アウトサイダー・)アーティスト」の代名詞としての意味合いを持つまでに成長した。皮肉にも「ヘンリー・ダーガー」の 人生はだから、そこから「始まった」とも言える。

ダーガーを巡る評価については諸説あるが、『芸術とマルチチュード』のアントニオ・ネグリの言葉を引くならば、殊にバスキアやキース・ヘリングが街の一角を支持体として描いた「グラフィティ(落書き)」に価値が見出された80年代以降は、「外部」性とは作品それ自体に宿るものではない。

寧ろ、「アート」なるものの「マーケット」、つまり「売り手- 買い手」間の周回という側面がより強く出ている「現代」という環境下では、ビートルズが「she loves you」と歌ったような「彼/彼女」(或いは「私」の意識の離れたより広いコンテクストの中のような)「第三者」の介入は認められず、自意識をスポイルされる形で「剰余価値」的に与えられる。

音楽からの離脱を試みたノイズ(音楽)はでも、最終的に音楽に回収されるものだという逆説に則り、 「アウトサイダー・アート」を「芸術の“外側”に位置するアート」とやや拡大して定義すると、ここで注意しなければならないのが、ダーガーの作品は「発見」されるまで「価値」がなかったという点である。

印象批評の台頭の背景には、芸術作品が一部の富裕層の間を泳ぎ回るものではなく鑑賞者 としての市民層(マルチチュード)の存在を認めてから、批評家を審美眼を持たない彼らに「視点」を与える媒介とするならば、「売り手-買い手」の関係はそのままに、その性質を逆手に取ってよりポップに、「大衆」に迎合させるよう形式に必然的になった文脈があるようだが、相対して、「作者-鑑賞者」間のディスコミュニケーションは広がり、印象批評は「アーティスト」というメガロマニアックな虚像を作り出した。

批評・論考主体の機関誌を発行するプロジェクトである『1/d』は、そこにおける「人間」の「コミュニケーション」の(不)可能性を問うプロジェクトである。「1/d」とは「1 review/ day」を省略した形であり、一日に一つのレビューを意味する記号の表す通り、概要としては「日刊紙」的に書きためたレビューを、最終的にフリーペーパー 若しくはZINE(有料のフリーペーパーのようなもの)という形式に纏めて発表するというもの。

本ブログは冊子化の前段階、或いはもう一つの媒体として、 主に「作者-鑑賞者」の架橋をするものとしての批評文、学生主体の広義の「作品」に「外」を持たせる場、なるものとしての展開を予定している。

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D▲/Ogri
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