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お台場合衆国幻影探究③ -邂逅-

「いいねぇ……」


お台場合衆国大統領のマイケル・サンデルに別れを告げてフジテレビ本社屋の廊下を歩いていると、家族ゲームの時の櫻井翔が現れた。

家族ゲームの時の櫻井翔は、両腕を過剰に振り回して歩いている。

「いいねぇ……いいねぇ……」

櫻井翔の手のひらの上をよく見ると、小さな街を持っていて、その中に小さな櫻井翔が歩いていた。

「エンディングのミニチュアみたいなやつここで撮ってたんですね。」

そう言うと、彼の両腕は倍以上の速度で回転し、凄まじい旋風が巻き起こり始めた。

「いいいいいいねえええええええー」

風の勢いでほとんど見えなかったが、彼の背後を垣間見ると、家族ゲームの時の鈴木保奈美が皿を割り、板尾創路がゴルフクラブでテレビを殴っていた。練習を感じさせる動きであった。


風圧は激しさを増し、かろうじて宙に浮く櫻井翔の姿が見える。やべっち寿司のセットを含め、廊下にあったものほとんど全てが彼方へ吹き飛ばされた。櫻井翔は廊下の窓ガラスを突き破り遥か上の球体展望台に向かって上昇していく。

「俺さぁ、人殺したことあんのよ」
と、第一話の最後に放って最終回まで伏線となった衝撃発言を何回か言っていたのをかすかに聞き取れた。あの発言は、過去の自分を殺したという意味だった。衝撃発言が暗喩だった。


唖然として見上げていると人の気配がして、振り返るとメガネの大野智が「密室は破れました。」と言っていた。隣では佐藤浩市がくねくねしていた。

「今のは、風圧で破れたんだと思います。」
勇気を出してそう言うと、そこにいたのは大野智ではなく、ピカルの定理の鍵のちょっとかかった部屋の渡辺直美だった。かもめが翔んだ日を踊っていた。今見ても面白かった。私は当時、それを見て笑いすぎて、見た日の前と後で若干違う人間になった。

佐藤浩市はくねくねの方向性を変え、2次元的な動きをやめて、美容室のカラーコーンと全く同じ動きを始めた。


すると、一気に険悪な空気が流れた。 


私はその雰囲気に耐えられなかった。


なんとかして、ここで皆の心をほぐし、空気を和らげなければ。


「ちょみんなでHEROみたいに歩きましょうや」

状況が打開した。


「デデッ、デデッ、テェーテェーテェーー、テレレレーレレレテレレレ、テテッテッテッテッテッテッテッ、テレレレーレレレテレレレ、テテッテッテッテッテッテッテッ」(口で)


私と渡辺直美と佐藤浩市は横一列になって歩き始めた。しかし、誰も歩き方を知らなかったので皆崩れ落ちた。佐藤浩市はスタッカートが上手かった。

「ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ」
渡辺直美は同じ音量を維持して笑い続けた。佐藤浩市は直線になった。









綾部は英語を話せないし、直美はヨーデルを歌えない。









櫻井翔は球体展望台に到達しつつあった。



急に、肩の力が抜けてきた。
強風にあおられて、何かが飛んできて口の中に入った。見てみると、いつかの夕暮れに、ビバリとルイが飛ばしたシャツのボタンだった。

私はそれをポンと上に投げてみた。
するとボタンは上昇気流に乗って、球体展望台を直撃した。球体は粉微塵になり、年末の火薬田ドンの仕事を奪った。

粉々に煌めく展望台の破片を巻き上げて上昇する櫻井翔の、あまりにも美しけり。








夕空を見上げ、想う。

ゆりかもめが翔んだ日は来るんだろうか。

④に続く。

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