狼煙の後の涙腺爆発必至爆エモ超深感動いい話「虹」
※タイトル通りです。
NOROSHIが終わって暫くして、LUDOの定期ライブがあった。
久しぶりに能天気な気持ちで学館を訪れた、3月半ばの午後。
同じチームで戦った堀越と浜多とともに、ライブ後の暇を潰そうということになり、戸山キャンパスにあるスタバに寄った。
店員から受け取ったキャラメル風味のミルクコーヒー、浜多はチャイティー、堀越はコーラ。各々の飲み物を片手に、何気なく始まった会話はいつしか熱を帯び、いろいろな話をした。
過ぎ去ったばかりの話、未だ来ず見当もつかない行先の話、そしていま現在の話。
そのまま3人でキャンパスの小高い丘に登る。色褪せた芝生の無抵抗な柔らかい感覚が足裏に心地よかった。頂上に着くと、3人だけが孤独な世界の頂点に降り立ったかのような錯覚に陥る。淡い水色の薄闇に刷毛で金の光をまぶしたような冬の夕空は、何処までも続いていた。
3人で両手を広げ、しばらく風に身を任せた。
スタバを飲み終えたところで空腹に背中を押され、キャンパスからほど近くカツカレーの美味しい定食屋へ行くことになった。
ガラス戸を押して店に入ると、時間帯もあってか店内は空いており、適当に選んだテーブルを囲んでそれぞれカツカレーを口に運んだ。
胃を満たしながら、話の続きを語る。何を携えて、どう生きていくのか。各々のこれ迄の人生と未来への想いが熱く触れ合い、話が実る。危うく涙が出る程に、夢と情熱が溢れ落ちそうな深い鼎談であった。
虹だ!と突然、堀越が言う。彼の視線の先に目をやると、成程、何かしらの光の角度の加減によって発生したであろう、言葉通りの小さな虹が、その膝の上に横たわっていた。
虹は入口のガラス戸が開閉する動きと連動して左右に動いていたので、きっと夕日がガラスのプリズムをちょうど通るような角度になって、その屈折した光がどうにかして虹色となってこの席まで届いているのだろう。文系ながら、有り合わせの知識でそんな憶測をした。堀越も暫くの間、あのガラスの…断面かな…などと呟いていた。浜多は、ひたすらに目を輝かせて驚嘆の声を発していた。
未来を語っていたところに、虹。なんとも幸先のいい演出である。3人が踏み出していくこの先の人生に、天から粋な祝福が舞い降りたかのようであった。不安や迷いを抱えている今があっても、やがてこうした彩り豊かな光に照らされた美しい景色が待っているに違いない。各々がそんな希望を抱き、微笑んだ。
席を交代して、一人ずつ順番に虹を膝に乗せてみる。私たちは、自らの前途を祝すように、鮮やかな虹色に身を染めた各々の姿を嬉々として写真に収めた。
細かい水の粒子に光が通るという実際の虹とは原理が異なるものの、太陽光の角度といった条件が厳密に組み合わなければ見られないであろうガラス戸のプリズムというのは、ひょっとすれば、惑星の運行も関係してくる宇宙規模の営みであり、実際の虹よりも遥かに珍しいかもしれない光景だった。2024年3月14日の17時少し前ごろ、東京都新宿区早稲田通りにあるキッチンオトボケの、あの奥の席でなければ見ることのできなかった、虹。
奇跡ともいうべき、ちいさな机上の天体ショーであった。
カツカレーを満腹になるまで食べ終え、夕刻の黄金の光の中、満たされた気持ちで店を出る。キャンパスへ戻る堀越と別れ、浜多と二人になった。
ふいに、
「堀越さんがいろいろ分析してたけど、虹の正体ってあれかな?!」
と、浜多が指差した。
その指の先を見て、私は崩れ落ちた。
ハマタ、卒業おめでとう───。