コンテンツの工夫〜「ハンドボール」を教えない方がいい〜
会場をなんとか確保し、人も集まり、いよいよ体験会や最初の練習をスタートさせることができたとします。どんなことやろうか、大学で学んだいろんな間合いの1−1とか、3−3の速攻のパターンとか、自分なりの技術を教えてあげよう、とふくらむと思います。ですが、間違いなく成り立たない。
小学生の体験会や未就学児の教室をこれまでやってきて、「これは失敗だったな」と思ったまずい練習ベスト5(主観)を紹介します。
5位 接触のないメニュー
初めてハンドボールをやる人が戸惑うものの一つにディフェンスのあたりがあります。正面から向かってくる相手を正面から接触して止める球技って、実はほとんどないのです。やったことがないのに「ディフェンスして!」っ声をかけられても困りますよね。また、一方で、勢いで後ろからタックルしてしまう子も現れます。ですので、怪我防止のためにも、接触の仕方は遊びの中で紹介しておいた方が良いです。
ただ、接触の技術を習得するのは時間がかかりますし、接触される方も慣れないとびっくりしてしまいます。ですので、体験会での試合は「接触禁止」と最初に明言しておくのをオススメします。
4位 コートプレイヤーが6人のゲーム
大勢のゲームをよくみると、全く動いていない子、一度もボールにさわれていない子が必ずいます。人が多いと子供はその情報を処理できないのです。そもそも気に入った子にしかパスを出しません。基本は2−2で、それにプラス1を作るのが全員が均等に楽しめる人数の限界だと思います。
ついでに言えば、キーパーを決めるのもよくありません。全然シュートがこないこともあり、ただ立っているだけってことが結構あります。キーパーも攻撃に参加させる、最初に戻った子がキーパーになる、というのを圧倒的にオススメします。
3位 ハンドボールの正式なルールでの試合
ラインクロス、オーバーステップ、イリーガルドリブル、などはハンドボールを成り立たせる重要なルールです。でも初心者のゲームではアレンジした方が良いです。なぜなら、このルールというか縛りのために思いっきり走り込んでシュートを打つ機会が減るからです。下手すると10分のゲームでトータルで4,5本しかシュートがなかったりします。
競技レベルにもよりますが、ボールがちょっとぐらいコートの外に出ても続けます。小学校低学年相当であれば、オーバーステップはとりません。そうするとラグビー状態になりますが、相手をかわしてボールを思い切り投げさせることが目的なので、それでもいいと思います。未就学児であればラインクロスもとりません。次第に活発な子だけがボールをもって走り回るようになってきますので、その場合は点をとった子に制限をつけると良いです。例えば審判が二つ数えている間しかボールを持てない、などです。高学年になったら、ドリブルで移動できるようになるので、オーバーステップはとりますが、それでも5歩くらいまでOKにします。
ハンドボールの魅力はシュートです。相手をかわしてシュートを打って点を決めるのが楽しいのです。正しいルールを学ぶことよりも、その体験をさせることの方がずっと大事です。ちょっとゴールエリアに入ったくらいで笛を吹く必要はないと思いますよ。
もっと言えば(まだ言うのか)、コートもバスケットコートのサイズの方が良いです。低学年だとコートが40mのコートは広すぎてゴールにたどり着くのに時間がかかりすぎです。
2位 普通のシュート練習
指導者からふわっとしたパスをうけてシュート、というのは良くあるメニューです。これはこれで良いのですが、並んで待っている子を見てみましょう。行列の後ろでだらっとしてませんか。指導者は何回もパスを返しているからいっぱい練習したように思えますが、実は一番動いてるのが指導者、という本末転倒な結果に。体験者がたくさん来た!と喜んでも、みんな汗もかかずに帰っていった、なんてことも。
この解消は実は簡単で、ゴールの数を増やせば良いのです。ゴールから6m程度の距離さえ確保できれば、わずかなスペースでもシュート練習ができます。低学年でしたら体育館のステージの上も使えます(落下に注意)。もしゴールが増やせない場合は、ちょっとした動き作り(SAQトレーニングなど)をコートサイドに作るのが良いです。
1位は…?
失敗メニューの1位は、それはパス練習。え、パス練習しないってありえない、って思いますよね。でも、未就学児にパス練習をやらせてみるとよくわかります。後ろにそらしたボールを取りにいっている時間の方が長いのです。トータルでボールを触る時間も短くなってしまいます。投げる方も自然とふわそろっとしたパスになってしまいます。ねらったところにボールを投げるのも、飛んできたボールをキャッチするのもかなり高度な技術なのです。
なので、ボールを触る回数を増やした方が楽しいです。体験会などでは、投げ上げキャッチや叩きつけなどの1人でできるボールハンドリング系メニューの方がずっとボールを触っていられます。一人一個ボールを持たせておくのが理想です。パス練習をしたいのであれば、マンパワーがあれば、指導者と子供2-3人、という形がいいと思います。
結論:ハンドボールを教えてはダメ
試合をさせると子供はとっても喜びますが、指導者がボール(とそれを扱う子)ばかり見てはいないでしょうか。試合をやっても動作を体験できていないのであれば、体験会は成功とは言えないですね。体験させるべきなのはハンドボールというスポーツではなく「動くことの楽しさ」です。ハンドボールのルールはその枠組みと捉えます。
ハンドボールは、サッカー+バスケと紹介されることが多いですが、体験してほしい動作は、相手をおいかけたりかわしたりすること、思いっきりボールを投げること、です。なので実は「鬼ごっこ+ドッジボール」なのですね。
ボールのない時の動きが大事といつも教えているくせに、指導者の方がついついボールばかりみてしまいます。子供たちを指導するのでしたら、ボールを持っていない子供の様子こそ、しっかりと観察しましょう。