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新聞が読めるようになるニュース解説#5「リコール」ー愛知の署名偽造事件(後編)

 こんにちは。 あひる編集長です。 前回から、愛知県知事へのリコール署名偽造事件について取り上げています。今回は、リコール(解職請求)の制度について掘り下げて説明します。公務員試験にも役立つと思うので、しっかり勉強していきましょう。

 それでは今回取り上げたニュースをおさらいしましょう。

  大村秀章・愛知県知事へのリコール署名偽造事件で、愛知県警は19日、地方自治法違反(署名偽造)の疑いで、運動団体事務局長で元県議の田中孝博容疑者(59)=愛知県稲沢市=ら4人を逮捕した。 (以下略)<5月20日付朝日新聞1面>

 事件の詳細については下の記事をご覧ください。

リコール=市長や議員を辞めさせる

 リコールとは、有権者が公職にある人の解職を求めることができる制度のことです。平たく言うと、住民が知事や市町村長、地方議会の議員たちを辞めさせることができる制度、と言えるでしょう。地方自治法という法律に定められています。

 リコールといって、多くの人が思いつくのが「車」ではないでしょうか。欠陥が見つかった商品を製造者が無償修理、交換などをする制度です。英単語の「recall」には、呼び戻す、解任する、回収する―などいろんな意味を持っており、語源は同じです。

 話がそれましたが、以下、誰を辞めさせるかのパターンごとに説明していきます。

①都道府県知事、市町村長の解職請求

 今回の事件は県知事のリコールなので、これにあたります。

 都道府県知事や市町村長を辞めさせるには、まず有権者の3分の1以上の署名が必要です。集まったら、署名を選挙管理委員会に提出します。署名が有効と認められれば、住民投票、つまり選挙が行われ、有効投票数の過半数が賛成すれば失職します。失職すれば、50日以内に出直し選挙が行われます。

 ただし、有権者数が多い場合は、署名を集めるノルマが緩和されます。少しややこしいのですが、有権者数40万~80万人の場合は「(有権者数―40万)×1/6+40万×1/3」、80万人以上の場合は、「(有権者数ー80万)×1/8+40万×1/6+40万×1/3」です。大村知事のリコールの場合、愛知県の有権者数が約613万人だったので、以下の通りになります。

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②議員の解職請求

 基本的に①と同じです。ただし選挙区がある場合には、対象の議員が選出された選挙区の3分の1以上の署名だけでOKです。有権者数が多い場合のノルマ緩和も①と同じです。

③副知事、副市長らの解職請求

 副知事や副市長など、選挙で選ばれない公職者の解職請求もできます。やはり有権者の3分の1以上の署名(有権者数が多い場合のノルマ緩和も同じ)を集めますが、署名の提出先が選挙管理委員会ではなく、知事や市長になります。副知事や副市長を任命するのは、知事や市長だからです。

 署名が有効と認められれば、議会で辞めさせるかどうかを審議します。その結果、議員の3分の2以上が出席し、出席者の4分の3以上の同意があれば失職します。

④議会の解散請求

 議員個人だけでなく、都道府県議会、市町村議会の解散を請求する制度もあります。①と同じく、有権者の3分の1以上の署名(有権者数が多い場合(ry)を集め、有効投票数の過半数があれば議会は解散されます。解散後、50日以内に出直し選挙が行われます。

国会議員の解職、解散はない

 ちなみに、衆議院議員、参議院議員を有権者の署名でもって解職したり、議会を解散させることはできません。

 「そうはいっても編集長、辞めさせたい国会議員はいっぱいおるで~、××党の〇〇とか、□□党の△△とか」という声が聞こえてくるようですが、できません。

 理由の一つとして、少数派議員を排除することにつながるから、ということが挙げられます。憲法51条では「両議院の議員は、議院で行った演説、討論又は表決について、院外で責任を問はれない。」とあり、「院外」にいる有権者にリコールを認めると、現状では憲法違反にあたるのです。

「直接民主制」は補完的なもの

 最後に、リコールの意義について説明します。少し堅苦しい話になるかもしれません。

 日本の住民の政治参加は、有権者が選挙などで選んだ代表が政治に携わるシステムとなっています。これを代表民主制とか、間接民主制といいます。

 これとは逆に、有権者一人ひとりが直接政治に参加する仕組みを直接民主制といいます。今回取り上げたリコールはこれにあたります。

 現代の日本の政治システムでは、間接民主制が原則です。それは、人口が何百人もいる都道府県や、1億人以上もいる国の政治で直接民主制を採用すると、意見の収拾がつかなくなるからです。

 ただ、間接民主制だけでは、有権者の意見を十分政治に取り入れることはできません。公職者や議会は、選挙を通じて有権者の意思が反映されるのが本来ですが、選挙で選んだ後に有権者の意思からかけ離れ、あらぬ方向に暴走してしまうこともあり得ます。そのような場合に備えて、住民が直接解職、解散できる制度を補完的に設けているのです。

 原則は間接民主制で、民意をより行政に反映させるために直接民主制が補完的役割を果たすことを覚えておきましょう。最後に、直接民主制と間接民主制についてざっくりまとめておきます。今回は取り上げなかった条例の制定改廃請求なども、機会があれば取り上げたいと思います。

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あひる
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