
生活の建築知識.73
おはようございます。
デザインの良し悪しは直感的にわかる部分があります。
好みもあるので、何が優れているかとは一概に言えないことも多くありますが、個々人においてそれはそれぞれ感ることが出来るでしょう。
しかし、施工においては違います。
もちろん一定の品質までいけば好みが出てくることはありますが、一定の品質までは誰かにとっては優れているということはなく、万人に評価される必要があります。
そうなると良くて当たり前という認識になってしまうこともありますが、長年多くの職人の仕事を近くで見てきたからわかるのですが、異常なまでに上手い人が稀にいます。
一方で、そうでもない人もやはりいます。
現地でモノを造り上げることは簡単ではなく、機械で加工したように仕上げることはなかなか難しい要求であり、そのような難しさに対して様々な工夫や工法があることで、普段目にする建築物は構成されています。
基本的には余裕を持たせたり、余白を作ったり、隠したり、最後の部材だけ調整するような造り方をすることで、綺麗な納まりが完結するのですが、時には全く余裕もなく、調整もままならない状況でも納めなければいけない場面があります。
そのような時は、まさに職人にとっては腕の見せどころとなり、その腕の良し悪しが明確に出てしまいます。
そしてそれが現れるところは概ね端部です。
各所の端部を見れば、そこにいた職人の腕が想像つくということになります。
今回は、非常にわかりづらい施工の良し悪しについて、特に大工について注目して説明していきます。
近年の大工工事では、多くが仕上げの下地を造ることがメインであり、仕上げの作業というのはだいぶ少なくなりました。
和室のような部屋があると多くの大工仕上げがあるためわかりやすいのですが、和室がある方が最近では少ないでしょう。
そうなると一般的に仕上げとして見えてくる大工仕事としては、扉の枠・巾木・カウンター・フローリングぐらいになります。
扉の枠に関しては、今では多くが既製品であり組み立て式となっており、誰が造っても差が出るようなことはあまりありません。
しかし造作建具及び造作枠(既製品ではなく、木材を加工して造る方法)であると細部にその質の違いが現れます。
多くの枠は三方もしくは四方枠に組み上げて取付をします。
枠の端部の納め方にも種類があり、トメ加工は縦横のそれぞれのジョイント部分を斜めに加工して継ぐ方法、いも加工は縦か横の部材に一方の部材を突きつけて継ぐ方法となります。
いも加工の場合、突きつける部材の奥行き寸法を少しだけ小さくし、チリをつけて継ぐのが一般的であるため、部材同士の存在感が出てきます。
一方トメ加工であると、奥行き寸法も同じで部材をスッキリ見せたい時に有効な加工となります。
どちらの場合もペンキで塗りつぶしてしまうとわかりづらくなりますが、染色程度の仕上がりであるとその接合部には差が現れ始めます。
接合具合や面(角)の取り方、チリのわずかな大きさなどで判断が出来ます。
また天然の木材は曲がることもしばしばあるので、それをまっすぐに固定出来るかによってのちに取り付けられる建具の品質にも影響が出てきます。
建具の調子が悪い場合、建具そのものの問題もあり得ますが、枠が良くない状態であることも考えられます。
カウンターにおいても同様であり、板を固定するだけでは違いが分かりづらいですが、やはりトメ加工やいも加工がある場合、そこに違いが出てきます。
巾木やフローリングも全く同様と言って良いでしょう。
あまり目に入らないところかもしれませんが、そのようなところを行った先々で見るにつけ、良い大工が入ってたんだなと1人で満足しています。
先ほども説明した通り、大工工事はほとんどが下地を造ることとなり、はっきり言えば見せ場はだいぶ減ってしまいました。
その良し悪しを判断する箇所も多くはなく、仕上がってからではなかなか判断もしにくいのが現調です。
それでもやはり腕の良い大工の仕事は整然とした仕上がりになり当たり前の綺麗さを保っています。
一見してもわかりづらい大工の技術をどのように継承していくかも私たちの今後の課題となるでしょう。
では、また。